一年の始まりなので、2017年に出版関連でどんな動きがあるか予想してみる

Happy New Year!

新年あけましておめでとうございます。
今年も「見て歩く者」をどうぞ宜しくお願い致します。

恒例の予想ですが、今回から冠の「電子」を外して出版全体の予想とします。いままでも実態としてはそうだったので、やってることはあまり変わりません。


2016年の予想と検証


2016年元旦の予想は以下の5つ。自己採点の結果を右端に付けておきました。

  1. 雑誌のウェブ化が進む → ○
  2. 新書・文庫がデジタルファーストに → ×
  3. サブスクリプションが急速に伸びる → ◎
  4. 電子書店の吸収合併が相次ぐ → △
  5. 投稿型プラットフォームがさらに増える → △

答え合わせの詳細は「DOTPLACE」に寄稿した記事をご覧ください。それ以前の予想と検証はこんな感じでした。



2017年には何が起こる?


さて、2017年にはどんなことが起こるでしょうか? 出版科学研究所が年末に発表した2016年の出版物販売額は、1兆4500億円(前年比720億円減4.7%減)。書籍7300億円(同119億円減1.6%減)に対し雑誌が7200億円(同601億円減7.7%減)と、41年ぶりに書籍と雑誌の販売額が逆転しました。

電子出版市場の数字はまだ発表されていないようで、月末発行の『出版月報』を待つ必要があります。2016年上半期は、28.9%増の847億円(出典:『出版月報』2016年7月号)。下半期も同様の伸び率だと仮定すると、2016年通期では1936億円(同434億円増)ということになります。「Kindle Unlimited」や「楽天マガジン」が開始されたのが8月なので、それが下半期の伸びにどれだけ貢献しているかが気になるところです。

鷹野の2017年予想は以下のとおり。



ウェブの雑誌化が進む


2016年の予想は「雑誌のウェブ化が進む」でした。言葉を入れ替えただけ? そうではありません。これは、ウェブメディアにも紙の雑誌と同様のクオリティが求められるようになるだろう、という意味です。キーワードは2つ、「信頼性の向上」と「見た目の美しさ」です。


信頼性の向上


2016年に起きた捏造ニュース問題やキュレーションサービス問題は、インターネットメディアの信頼性を大きく毀損しました。信頼性の向上は、まともな企業であれば取り組まざるをえない課題でしょう。

例えばヤフージャパンは年末に、「Yahoo!ニュース個人」の執筆者に対し年間総額1000万円の取材費用提供などの支援策を発表しました。「一人勝ち」と揶揄されることもあったヤフージャパンが、最もコストを要する一次情報の取材者に対し敬意と対価を払うようになってきたのは大変喜ばしいことです。

しかし、それだけでは足りません。校閲部が存在する新聞社や出版社ですら、間違った情報を流してしまうことがあるのですから、いわんや個人をや。執筆者が悪意で記事を捏造する可能性や、勘違いで誤情報を流してしまう場合もあります。前者はともかく、後者はすでにかなりの頻度で発生しています。

閲覧する人が多い場所ほど、第三者による事前チェックは必須でしょう。とりあえず公開して、読者から指摘を受けてから直せばいい、などと検証を丸投げするのは、メディアとしての責任を放棄しています。「ウチはメディアではなくプラットフォームだ」などといった言葉遊びから、そろそろ脱却すべき時でしょう。まともな企業なら。

実際のところ、紙メディアを経験している編集者が、ウェブメディアから誘いを受けるケースが増えているようです。新興ウェブメディアのやり方に迎合して低品質な記事を量産するのではなく、一旦印刷したら取り返しがつかないから丁寧な作り方をする紙メディアのやり方を、ウェブメディアにも可能な限り移植するようにして欲しいものです。


見た目の美しさ


たてよこWebアワード」の公式サイトは、なかなか衝撃的でした。文字が縦横どころか斜めにも配置されているではありませんか。縦横に重ね合わせられている文字も画像ではなく、すべてテキストなのです。

主要なブラウザがすべて CSS でこういう複雑なレイアウトにも対応できる状態になったことは、ウェブの表現力を飛躍的に高めることでしょう。もしかしたら、縦書き横スクロールレイアウトのニュースメディアが登場するかもしれません。

あとは、ウェブフォントが普及してきたことにより、美しい文字で読みやすいウェブサイトがだんだん増えてきました。これも「ウェブの雑誌化」を示す現象の1つと言っていいでしょう。

……コーディングが大変そうですが。


出版者による直販が増える


近代出版流通の危機を煽るだけでは何も解決しません。伝統的な出版手法の売上比率がまだ圧倒的に大きいのは確かですが、ディスカヴァー・トゥエンティワントランスビューのように、出版社が書店と直接取引するケースも増えてきました。本の売り方は、多様化しているのです。

また、電子出版の市場比率も、前述の試算どおりなら11.78%まで拡大しています。電子出版なら、紙の出版よりもっといろんなやり方が可能です。電子書店だけが売り場ではありません。従来のやり方に固執せず、流通チャネルの拡大と拡販に努める企業が生き残っていくことでしょう。

KADOKAWA、講談社、集英社、小学館あたりの大手は既に、アプリを通じて読者に直接作品を届けるやり方に取り組んでいます。直販で利益率が高いぶんをロイヤリティの高いユーザーへ還元し、ファンの輪を広げていくような活動が望まれます。個人的には、単品での直販はもちろんですが、「マガジン☆WALKER」のような読み放題や、「少年ジャンプ+」のような定期購読が今後はもっと広がっていくと思います。

なお、あえて出版「者」としたのは、直販は中小出版社(者)はもちろん、セルフパブリッシングでも可能なことだからです。昨年行われた文禄堂高円寺店のトークイベントで、写真家・編集者の都築響一さんが「手売り最強」とおっしゃっていたのが非常に印象的でした。むしろ小回りの効く中小出版社(者)こそ、ゲリラ的な戦術に取り組むべきだと思うのですが。


イーシングルが再び脚光を浴びる


イーシングル=短い電書のことです。これは前から言っているのですが、「Kindle Unlimited」の収益配分ルールは、イーシングルを配信している一般的な出版社にめちゃくちゃ有利です。なにせ、読まれたページ数に応じて収益配分されるKDPとは異なり、一般的な出版社は10%読まれれば「1ダウンロード」として判定されるのですから。短い本ほど「読まれた」判定されやすいのです。

そうじゃなくても、モバイル端末の普及により、スキマ時間を埋める手段として、短い読み物というのは一定のニーズがあるはずです。昨年9月のブックフェアで行われた座談会でインプレスの北川氏が、同社のイーシングル「Impress QuickBooks」の読み放題による売上比率が、「Kindle Unlimited」が始まる前の時点で既に50%に迫るほどになっていたと報告しています。イーシングルと読み放題は、相性がいいはず。


出版物の制作工程が変わり始める


昨年の予想は「新書・文庫がデジタルファーストに」だったのですが、先に電子版を出す「ボーンデジタル」はコミックを除き思ったより目立たなかったという印象です。制作工程が変わらなければ、プリントファーストという状況を動かすのは難しいということなのでしょう。

紙のレイアウトを作るためのツールである「InDesign」のEPUB出力機能が使いものにならない以上、本格的な電子出版に取り組むには「InDesign」からの脱却を図る必要があります。出版デジタル機構の「Picassol(ピカソル)」や、「TOPPAN Editorial Navi」などの代替ツールは登場しましたが、今後どれだけ普及していくか。成功事例が欲しいところです。


ローカルメディアが盛り上がる


たまたま私は東京で『月刊群雛』の編集発行を行ってきましたが、べつにこれは東京にいなくてもできることだと思っていました。参加者も全国に散らばっており、ほとんどの人とは一度も顔を合わせたことがありませんでした。それでも毎月雑誌を出すことはできたのです。

地方の衰退ということがよく言われますが、東京圏への一極集中を防ぐには、その地域の魅力をいままで以上に発信していく必要があります。出版は、いまやどこにいたってできるのです。前項のような制作ツールは、地方にこそ求められていたものではないでしょうか。

少し余談ですが、従来の出版業界は東京に一極集中していたため、日本の中では一部に過ぎない東京でのできごとが、あたかも日本全国へ影響を与えるかのような論調で語られることがあります。全国に取引先書店があった太洋社の倒産と、いくら歴史があるとはいえ神保町のいち書店に過ぎない「岩波ブックセンター(信山社)」の倒産は、同列に語るべきことではない、と思います。



書きすぎて1月20日のJEPAセミナーで喋ることがなくなっちゃうかな……。