2013年に電子書籍関連でどんな動きがあるか予想してみる

あけましておめでとうございます。

本年も「見て歩く者」をどうぞ宜しくお願い致します。

いまだによく「いったい、いつになったら電子書籍元年は来るのか」的な論調の記事を見かけたりします。じゃあ、そう言う方々にとって、「電子書籍元年だ」と言えるのはどんな状態なのか、「元年」の定義って何なのか、と思わずにはいられません。例えば、長く業界にいる方々にとって「元年」とは、それこそNIFTY-Serveでファイル配信をしていた時代のことを指すのかもしれませんしね。

ボクの実感としては、iPadが登場し、新しい電子書店がいくつも生まれた2010年が、「元年」と呼ぶにはやはり相応しいのではないか、という気がします。いやいや、7インチのタブレット端末が人気になり、海外組のGoogle、Kobo(親会社は日本企業ですが)、そして何と言ってもAmazon・Kindleといった黒船が本格参入した2012年こそが元年でしたという見方もできるでしょう。ただ、さすがにもう「いつになったら電子書籍元年は来るのか」という意見は、一部の「電子書籍」に対し否定的な方だけの、少数派意見になってくるのではないかと思います。

では2013年はどんな年になるでしょう?

まず、最後の大物AppleのiBookstoreが早々にオープンするのは間違いないでしょう。今朝の日経にも大手出版社との契約締結というニュースが出ていましたが、いくら日経ソースでもこれは大枠では間違っていない方向性の記事だと思います。iBooksの日本語縦書き(EPUB 3)対応はすでに完了してますから、システム的にはもういつでもGoできる状態になってるはずです。

恐らく、iBooksのAndroid対応なんていうサプライズは無いと思いますが、圧倒的多数の「iPhoneしか使っていないユーザー」が、「初めて使う電子書店」として選ばれる可能性は結構高いのではないかと思っています。

問題は、コンテンツはAppleが作るわけではなく、版元から仕入れる形になるという点です。つまり、単に契約をすれば済むというだけの話ではなく、版元は大量のEPUBファイルを制作 (多くは外注でしょうけど)・校正できる体制を整えなければならないわけです。Koboがコンテンツ数をなかなか増やせず苦戦しているのも、ここがボトルネックになっているからで、後発組は同じファイルを流用すればいいからラク、という側面もあったりします。そういう意味では、Koboのトライは評価されるべきだとも思います。

ただ、もうひとつ問題なのは、Appleのコンテンツ審査基準です。端的に言えば、エロ規制が厳しい。日本の基準ではなくAppleの基準ですから、iBookstoreにエロが載ることはほとんど期待できないと思います。そういう需要は、他の電子書店へ流れるでしょう。つまり、iBookstoreは絶対強者にはなり得ない、ということになると思います。

やはり、電子書店のようなサービスは、どうしても「多くのユーザーが利用している」という基盤が強みになります。だからこそAmazonやAppleが強いのですし、なんだかんだ言って楽天会員という基盤を持っているKoboもそれなりに強い。もっと言えば、携帯電話キャリアが提供するサービスや、プロバイダの提供するサービスも一定のユーザーは集められると思います。ニコニコもそうですね。そういう意味で、Sony Reader Storeは、PlayStation Networkの会員資産が活用できれば活路が見いだせると思いますが、全く別系統のMy Sony Club会員という枠組みの中でやってる以上、ジリ貧なのかなと。もっと言えば、そういう基盤のないGALAPAGOS STOREや紀伊國屋書店Kinoppyほか独立系の電子書店は、正念場を迎える年になると思います。

そういったジリ貧の状況を打破するために、中堅どころのどこかが今年の早い段階で、ソーシャルDRM(ファイルのコピー・移動に制限は無いが、購入したファイルには購入者情報が電子透かし埋め込まれており、もし勝手に拡散したとしたら誰の所業かすぐに判別できる、というのが違法拡散への抑止力になる)の導入に踏み切るのではないかと想像しています。ちなみにこれは既にSony Reader Storeが、年末にドイツで開始している動きなので、うまくいけば日本でも早期に実現するのではないかと。

もう一つ電子書籍関連でありえそうな方向性は、リッチコンテンツ化です。集英社コミックのデジタルカラーコミックのような方向性や、GALAPAGOS STORE独占配信の「メーカー非公式初音みっくす」のような高画質路線に加え、音や映像をミックスした、「書籍」というより「ビジュアルノベル」と言うべき作品が次々と生まれてくるのではないかと思っています。

そしてそれは既存の出版社ではなく、IT系企業によるプロデュース、もっといえば、ただの個人によって生みだされるようになってくるのだと思います。Kindleダイレクト・パブリッシングや、パブー・wook・BUCCKSといったセルフパブリッシングのサービスが脚光を浴びるようになってくるでしょう。そこでポイントになるのは、エディタの高機能化=リッチコンテンツ対応という部分になってくるのではないかという気がします。ビジュアルノベルで一を世風靡した「ひぐらしのなく頃に」のような作品が、もっと一般化してくるのではないかと。

だから、文章を書ける人、イラストを描ける人、音楽のできる人、プロデュースができる人を、うまくマッチングするようなサービスが生まれてくるのではないかという気がします。SNSで出会った、実際に顔も合わせたことがないようなメンバーで、ひとつの作品を生み出しそれがヒットするという事例が、「電子書籍」「電子出版」という枠組みを超えてどんどん出てくるのではないかと。

そんな中で、ボクも一端を担えたらいいなと思います。というか、そういう一年にしたいです。

2013年 元旦

コメント

  1. Taro Terao より:

    ソーシャルDRMは絶対いいと思う。
    例えば、岩波書店とか元祖オーソリティみたいなところにぜひトライして欲しいです。

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