「カドカワ四半期で赤字転落」「集英社減収減益」「紀伊國屋書店が買切直仕入・独占販売を実施」など出版業界関連の気になるニュースまとめ #287(2017年8月28日~9月3日)

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 先週は「カドカワ四半期で赤字転落」「集英社減収減益」「紀伊國屋書店が買切直仕入・独占販売を実施」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2017年8月28日~9月3日分です。

カドカワ、「ニコニコ」でも乗れぬネットの波 日本経済新聞(2017年8月28日)

 ちょっと首を傾げてしまった記事。出版市場全般の話とKADOKAWA(カドカワではなく)の話が混在しててわかりづらい。「最終赤字の原因は強みであったニコニコ動画と書籍ビジネスの2つ」とあるので、カドカワのIR情報「2018年3月期 第1四半期決算説明資料」を確認してみました。経常利益はプラス6億4000万円ありますが、税引き後に赤字転落しているのは確か。問題の、部門別収益は以下のとおり。

  • Webサービス:△7200万円(超会議はここ)
  • 出版:10億9400万円(電子書籍はここ)
  • 映像・ゲーム:6億4200万円
  • その他:△8500万円(スクール運営などがここ)

 出版部門ではしっかり利益を出しており、「書籍ビジネス」が「最終赤字の原因」と言ってしまうのは、かなり違和感があります。実際、IR資料の出版部門のページを見ると「書籍が電子書籍の編集やマーケティングのコスト等を負担するコスト構造から赤字。現在、電子書籍とのコスト配分を検討中」と書いてあります。それってつまり、ちゃんとデジタルに原価や販促費が按分できていないから、旧来の書籍部門がコスト構造的にキツくなっているように「見える」だけなのでは、と思ってしまいました。

 Webサービス部門も、プレミアム会員が減少傾向にあるのは確かですが、対策でリニューアル版の開発をしており、その投資によって一時的に赤字が出ているだけとも言えます。ニコニコのほうは、リニューアル後にどうなるか次第でしょう。

集英社、減収減益の決算 新文化(2017年8月28日)

 前年比で減収減益ですが、当期純利益は53億円以上出ています。コミックス含む「雑誌」が15.6%減と大きく足を引っ張っている状態。好調の「その他」はセグメントが以前通りなら、電書含むウェブやIP・物販などです。「広告」93億円に対し、「その他」が381億円。そろそろ「その他」とまとめていていい数字ではないような気も。

ブックレビューサイト「ブクログ」が第5回ブクログ大賞を発表! 星野源さんのエッセイ「いのちの車窓から」、小説「蜜蜂と遠雷」、マンガ「夜廻り猫」などが受賞 ネタとぴ(2017年8月28日)

 4年ぶりに復活した「ブクログ大賞」。読書好き一般ユーザーからの投票で決まるアワードです。第4回にあった「電子書籍部門」が消えちゃった……まあ、紙だろうと電子だろうと、同じ「本」ですが。

書籍等のレビューサイト「ダ・ヴィンチニュース」、文芸作品の主要シーン漫画化等のリニューアル実施 MdN Design Interactive(2017年8月29日)

 「ダ・ヴィンチニュース」がリニューアル。シンプルでいまどきな感じ。電子書店のセール情報を大幅に拡充するそうです。

2台のiPadを組み合わせて電子書籍の見開き表示を実現する「富豪ブック」を試す PC Watch(2017年8月29日)

 恒例の「山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ」コーナー。今回は2012年から存在している「富豪ブック」アプリネタ。「iPad Pro」12.9インチを2台持つ機会なんてそうそうないですもんね。2台で見開き表示、なんて富豪なんだろう。

Facebook、“フェイクニュース”を拡散するページから広告を排除する方針を明らかに 窓の杜(2017年8月30日)

 嘘ニュースを拡散するFacebookページアカウントは、Facebook上に広告が掲載できなくなるという措置。歓迎したい方向性ではあるのですが、裏を返すと、Facebook広告にお金を使わないと、Facebook内での拡散が期待できない現状を意味しているように思えます。また、嘘ニュースの収入源であるアドネットワーク側(主にGoogle)が対応しないと、根本的な解決には至らないような気もします。

「○○ライター募集」を疑え。WEBにある「ライター募集」で泣きをみないチェックポイントを公開します アオシマ書店(2017年8月31日)

 注意すべき「ライター募集」案件あれこれ。ああ、うん。わかる。なお、アオシマ書店は9月1日から運営方針が変更。レビューやライター募集などの編集記事が新規配信終了、「電書告知サービス」も終了となりました。自動生成される「セール・キャンペーン情報」だけになるのかな? 残念。記事の最後に「ライター募集案件紹介記事を継続してくれるメディアを募集中」とあり、苦笑い。

「ブラックジャックによろしく」二次利用規約改定 佐藤漫画製作所(2017年8月31日)

 『ブラックジャックによろしく』の二次利用規約が8月31日に改定され、電子書店で配信する場合は必ず有料(1円以上)にすること、が追加されました。ただし「その場合に生じた利益については、弊社及び佐藤秀峰に分配する必要はありません」という形になっています。

 8月31日の時点で「作品を無料配布するストアは本日中に無くなります」とおっしゃっていますが、本稿執筆時点で「楽天Kobo」がまだ無料のまま。なにかトラブルでしょうか? そのためか、現時点でも「Kindleストア」の『ブラックジャックによろしく』は『ブラックジャックによろちんこ』に変更されたまま。「品質に問題が見つかった」という理由で、購入不能のままになっています。

紀伊國屋書店と文藝春秋が買切直仕入・独占販売実施へ 文化通信(2917年9月1日)

 対象タイトルは『蘇える鬼平犯科帳』。2015年の村上春樹氏『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング)のときは10万部発行のうち9万部が買切直仕入れでしたが、今回は独占販売です(悠々会の会員書店を除く)。プレスリリースによると、両社合同企画によるプライベートブランド商品とのこと。「紀伊國屋書店創業90年」と「鬼平誕生から50年」を記念しているそうです。『職業としての小説家』のときは結構批判も多かったので、今回はちゃんと対外的に説明できる理由を用意した感があります。「非再販商品」と明記されている点も興味深い。

出版状況クロニクル112(2017年8月1日?8月31日) 出版・読書メモランダム(2017年9月1日)

 毎月楽しみな、小田光雄さんの出版状況クロニクル。はてなダイアリーからはてなブログへ移転リニューアルしています。見慣れていないから若干違和感がありますが、小田さんの意見パートが判別しやすくなったかも。

編集者入魂の「雑誌記事」をAIでデジタルコンテンツ化しませんか? 電通報(2017年9月1日)

 電通の電子雑誌業務支援システム「Magaport(マガポート)」を立ち上げた照井真一氏による、誌面データを自動でマイクロコンテンツに変換する「Magaport記事サービス」のPR記事。富士山マガジンサービスの「fujisan 記事抽出システム」を、独占的に使用しているんですね。「dマガジン」でも記事単位ののマイクロコンテンツ化は行われていますが、こちらのレイアウトは誌面そのまま。「Magaport記事サービス」で、は誌面レイアウトを白紙化する点が大きな違いです。「見出し」「本文」「画像」など記事の構成パーツをAIが自動で判断、各パーツを適切な順番に自動で並べ替え。自動変換だから、短期間・低コスト、というわけです。誌面で縦書きのキャプションが変換後に横書きになっているので、どうやらテキストもちゃんと抽出しているようです。台割り作成や、記事・ページ単位での販売/配信管理機能も付いています。現在の紙の雑誌制作工程を大きく変えずとも、ウェブ・電子書店対応が可能になる、というところが大きそうです。本当は、もっと上流工程から根本的に変えた方がいいんでしょうけどね。

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