過激な発言も飛び出すパネルディスカッションと、アイドルグループライブ&握手会 ──『デジタルコンテンツ白書2014』発刊セミナーレポート

『デジタルコンテンツ白書2014』発刊セミナー&パネルディスカッション

一般財団法人デジタルコンテンツ協会(DCAJ)が9月5日に開催した『デジタルコンテンツ白書2014』発刊セミナーレポートのパート2。山口哲一氏、川口洋司氏、濱野智史氏のプレゼンと、まつもとあつし氏、掛尾良夫氏を交えたパネルディスカッションです。パート1はこちら

  • 山口哲一氏(デジタルコンテンツ白書「音楽」執筆/音楽プロデューサー/バグ・コーポレーション 代表取締役社長)
  • 川口洋司氏(デジタルコンテンツ白書「オンラインゲーム」執筆/日本オンラインゲーム協会 事務局長/株式会社コラボ 代表取締役)
  • 濱野智史氏(デジタルコンテンツ白書「インターネット」執筆/日本技芸 リサーチャー/情報環境研究者
  • まつもとあつし氏(デジタルコンテンツ白書「特集」執筆/ジャーナリスト/コンテンツプロデューサー)
  • 掛尾良夫氏(デジタルコンテンツ白書「映画」執筆/城西国際大学メディア学部教授/株式会社キネマ旬報社顧問)※モデレーター

理想の音楽市場とは? ──音楽業界から山口哲一氏

まず山口哲一氏から、音楽業界について。

山口哲一氏

白書の執筆は4年目だけど、今年は音楽業界が暗過ぎて、何を書いたらいいか悩んでいたら締め切りを過ぎちゃったそうです。

音楽売上推移

「パッケージ販売は意外と粘ってた」とか。「着うた」に代表されるフィーチャーフォン市場は小さくなる一方で、逆にライブは伸張しています。

複製から利用へ

同じクラウドでも、所有から利用へ=複製権(Copyright)からアクセス権へ変わりつつあるのが現在の潮流だそうです。例えばiCloudは楽曲所有者がユーザーだけど、Spotifyなどのストリーミング型サービスは楽曲所有者がサービス事業者で、ユーザーには利用権を提供しているに過ぎません。

デジタル技術の活用が遅れているのが日本の音楽市場停滞の元凶で、ダウンロード型からストリーミング型へ移行している国では市場が活性化しているそうです。日本以外は、下落に歯止めがかかっていると。

諸外国の状況

つまり、まつもとあつし氏のプレゼンで話題に挙がったiTunes Storeはイノベーションのジレンマに陥っているのは間違いなく、逆にストリーミング型サービスの収益分配を巡って起きている論争は論理的整合性がとれていないと指摘します。

配信会社からレコード会社への支払は明確だけど、レコード会社とアーティストがどう分けるか? というところで揉めているそうです。ストリーミング配信なのに、なぜかCD同様の返品控除枠が残っていたり。「デジタルに最適化したルールになっていない」と山口氏。

日本にチャンスあり!

では理想の音楽市場とはどういう姿か? パッケージ市場がまだ残っているのは日本くらいなので、「利用」市場との組み合わせによるハイブリッド型音楽市場が形成できるのではないか? と山口氏は言います。ただそれには、著作権処理とビジネススキームの再構築が必須だそうです。

めまぐるしい変遷 ──オンラインゲーム業界から川口洋司氏

オンラインゲーム業界は15年の間に、めまぐるしい変遷を遂げていると川口氏。ただ、オンラインゲーム業界全般をきちっとまとめた資料がないため、執筆には苦労があったようです。

川口洋司氏

白書には、コンピュータ技術(PC、コンソール、フィーチャーフォン、スマートフォン・タブレット)、通信技術(ナローバンド、ブロードバンド、3G、4G)、ビジネスモデルのイノベーション(パッケージ販売、サービス定額課金、サービスアイテム課金)についてまとめてあるとのこと。

ゲーム業界の3つの大きな変化

例えばビジネスモデルの変遷は、上のような図。オンラインゲームは、店舗でのパッケージ販売・サービスも月額課金という形から、ソフトは無料配布してサービスだけ月額課金に、ソフトもサービスも無料でアイテム課金に(これはNEXONの賭けだったらしい)、2004年ごろからSNSでのオンラインゲーム、2012年からスマホでプラットフォームやデバイスの世界共通化が図られた、という流れです。

プレゼン資料は用意しませんでした ──インターネットジャンル担当、濱野智史氏

「『インターネット』ジャンルって広いので、執筆陣では私だけ横串になってます」と濱野氏。最近こういうプレゼンのために資料は用意しないことにしているけど、さすがにちょっと失敗したかな? と、笑顔です。

濱野智史氏

白書には書いてないけど、6月からアイドルプロデュースをやっているそうです。アイドルは、音楽とゲームを足して2で割るような状況になっているとか。「後で体験していただきましょう。一部で流行ってるんです。他のコンテンツより面白いから、恐らく終わることはない。知らない人には分からない。論じても仕方がないので、連れてきました」と語っていました。ちなみに白書の後半には、パズドラの話も書いてるそうです。

パネルディスカッション

掛尾良夫氏

ここからは掛尾良夫氏がモデレーターになって、パネルディスカッションが行われました。まとめるのは難しいので、ほとんど会場で採ったメモそのままです。敬称略で、まつもと氏は「松本」表記にしてあります。

デジタル化でリアル体験の価値が上がっている?

山口氏とまつもと氏

掛尾 まず、デジタル化でリアル体験の価値が上がっていることについて。

山口 コンサートで稼ぐのは50年前からやってる。グッズで稼ぐとかファンクラブモデルも。音楽業界というと、どうしてもレコード業界に目が向いてしまうけど、リアル体験はずっと昔からやってる。

掛尾 初音ミクが大きなコンサートやる。クールジャパン。確かに音楽は、昔からやってる。

松本 リアルかどうかの切り方でいいのか? ニコ動はバーチャルで可視化されている。リアル? 体験?

濱野 握手会は誤解されてる。自分も誤解してた。アイドルにハマっているのは「アホ」だと思ってた。行くと堕ちる。リアル経験。誰もが握手会せざるを得ない。「行った」と言いたい。ことごとくそういう方向に向かってる。CDなんかもう不必要なのに握手券付けて無理やり売ってる。配信だったらレコード会社なんか要らない。時代・技術が起こした必然。コンテンツを売る簡単さ。複製コストがゼロなのに売れていくのは、ボロ儲け。旨味を食いつくすだけになってる。複製できないものを売るしかない。10年間模索されてる。

掛尾 ライブの感動が伝わったような。

川口 ゲームとリアル体験は実はずっと繋がってる。オフ会。ガンホーが主催して3万人。対面して対戦。関係無いようで、非常に関係がある。

濱野 今の話は感動した。ネトゲ廃人周囲にいっぱいいた。ネカマやってる先輩を後ろで見てるのが面白かった。

松本 リアルこそ価値あるのか? が真なのかどうか。リアル体験は価格弾力性。この後握手会があるが、彼女たちはここに居なきゃいけない。そこに経済合理性はあるのか?

山口 僕は濱野さんの(レコード会社なんか要らないという)意見には合意しない。コンテンツはクオリティも大事。「音楽ってPCで作れるからコストかからないよね」みたいな意見あるけど、このままだと「レコーディング・エンジニア」という職業が宮大工になっちゃう。知ってる一流エンジニアが、35万円を25万円に値下げした。AKBの曲はほとんど彼がやってる。年収1億5000万。「パソコンだけで作ってるのは音楽だと思ってない。そこが分かるプロデューサーがヒットを出す」と言っていた。ものすごく美味しいものが作れなくなる。リアル体験はそこと繋がる。ゲーム実況動画がウケてるところから、学ぶべきところはあるかも。

濱野 感慨深いけど、いまはこんなに安い値段で音楽作ってるのか、みたいな感覚もある。曲を作るにあたって「運用する」。リアル体験で盛り上がる地点をあえて作る。サービスとして捉えている。

新しいビジネスを構築する上で、付加価値をどう創造する? ルールはどう変える?

濱野氏とまつもと氏

掛尾 次のテーマ。私が居るのは出版社と映画会社。100年以上続いてる。既得権益が弱いところはあんまり問題起きてない。新しいビジネスを構築する上で、付加価値をどう創造するのか? ルールはどう変えたらいいのか?

山口 ここに書いてある通り。僕はプレイヤーなんで発言が難しい。既得権者はプライドを持ってきちんとやって欲しい。レコード会社が新人発掘・育成にお金を回さなくなってる。「生き残る」ためにプライドを捨ててたら、既得権者の価値がない。ずっと4番打者だったけど、7番打者くらいに変わったら? みたいな。

掛尾 製作委員会方式について。利益が制作側に回らない。映画で製作委員会やっているのは日本だけ。人材を育成しない。

松本 コンサバ(保守)な発言をするが、市場規模が違うのでハリウッドモデルをそのまま日本に持ってこれない事情がある。資金調達できない。既得権者に変化を迫るには、著作権を変えるしかない。複製権から利用権。きちんとした定義が為されていない。法律がまず定まらないと。今一番ホットなのは著作権。

掛尾 ちょっと話の持っていき方を失敗。「ビジネスモデル」についてで。

濱野 僕は暴走ぎみに見えて、普通にやってる。偉そうなこと言ってるけど、まだ曲が出せてない。だから今日のライブはカバー。ちゃんとJASRAC申請してる。今日はライブメインじゃないし演者に報酬を払わないから、JASRACへの支払いはめちゃ安い。アイドルは抜け道使っちゃってる。アイドルに一番お金が入るようにしたい。既得権って芸能事務所とかレコード会社? テレビに出なくてもアイドルはできる! と思ってる。コンテンツビジネスですらない? 僕はアイドルプロデューサー業で稼がないと宣言してるので、参考にならないかも。

掛尾 オンラインゲームは?

川口 どんどん変わってきてる。スマホだとキャリアの電波だけ使ってる。事業者対海外のプラットフォーマーという時代。Google、Appleの次に出てくるのは、Amazon、Microsoftか。

海外について

掛尾氏と川口氏

山口 ちょっと宣伝しておくと、デジタルコンテンツ白書にはJ-POPの現状についてがっつり書いた。海外で売ろうと思わない人はバカ。海外で儲けた経験のある人が、ほとんどいないことが問題。遅ればせながら、音楽業界も海外で。気づいたらSonyはダメでSamson? GoogleやAppleに文句言えないのが最大の問題点かも。

松本 世界展開事例で、セーラームーンのリバイバル「配信」。ニコニコ使って、各国語対応。100万人が来場した。海外のプラットフォームで、Huluやネットフリックスと提携し、YouTubeはあえて使わなかった。そういう事例をもっと集めたい。

濱野 デジタルコンテンツ白書であまり話題に上がらないのが「オタク」。気持ち悪いけど、必然的に増える。フランスから2ヶ月休みとって来日して、アイドルばかり見てる人が居る。日本語も英語もほとんどできないのに、アイドルの名前だけで30分会話できる。中国でも。世界とか日本とか分けなくてもいい時代が来てる。ちなみに、アイドルグループ名は「プラットフォーム」。

川口 今日はこれが一番話したかった。ゲームの海外販売は、今後もどんどん拡大する。先日、Googleが子供のアプリ内課金裁判で和解金を支払うニュースがあった。海外のプラットフォーマーには逆らえない。課金情報、ユーザー情報は、全てプラットフォーマーが持ってる。日本のゲームメーカーは、全くユーザー情報を得ていない。未成年者課金は、ディベロッパーがプラットフォーマーに言われるがまま、粛々と返金している。あと、日本市場が美味しいので、海外からの配信が増えてる。消費税がかからない。10%になったら生きていけない。ようやく国税庁が動く。使った地域で課金。世界共通のプラットフォームでビジネスやろうとすると、いろんな問題がある。厳しい戦いを強いられている。

質疑応答

質問 LINEの未成年、いじめ、愛知県で「使うのやめろ」、未成年課金で15万円とか。スマホ使うのが悪みたいな空気があるが?

松本 LINEはずっと取材してる。コミュニケーションツールだから、必ず問題が起こる。古くはダイヤルQ2。スマホが悪いわけじゃない。

川口 未成年者判別システムがGoogle・Appleにない。ゲームの中に年齢情報モジュール入れてる。ゲームの中であなたは何歳?みたいな形。情報がこっちに来ない。プラットフォームが善処してるわけじゃない。

質問 クールジャパン、特に音楽CDには内外価格格差があるが?

山口 日本で3000円、アメリカ10ドルくらい、アジアで3ドル。そのうちフランスの中学校で「日本でCDってのが売れてるんですって!」って言われるようになる。「日本の文化」でいいじゃないか。ジャケットが綺麗とか。品質が全然別物。CDは記念品、と割り切るのがいい。Tシャツ売ったりするのと同じ。

……というような話が、執筆陣によって繰り広げられました。『デジタルコンテンツ白書2014』の第1章はまつもとあつし氏による特集、第2章は2013年のコンテンツ産業市場規模分析、第3章は日本のコンテンツ政策、第4章はコンテンツの分野別動向、第5章はメディアの分野別動向、第6章は海外動向です。

一般財団法人デジタルコンテンツ協会

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アイドルグループプロジェクト「Platonics Idol Platform(略称「PIP(ピーアイピー)」のライブと握手会

最後に、濱野智史がプロデュースするアイドルグループプロジェクト「Platonics Idol Platform(略称「PIP(ピーアイピー)」のライブと握手会が行われました。これが目当ててセミナーに来た人も居たようで、かなり温度差がありました。握手会の時に「アウェイ感」って言ってた子がいました。負けるな頑張れ(苦笑)

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握手会は全員強制参加でした。握手会目当てで来てた人が渋滞の原因になって、なかなか前に進めない……正直、強制参加は悪手じゃないかな? という気もちょっと(シャレではなく)。

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