2012年2月8日水曜日

【書評】岡田斗司夫さんと福井健策さんの対談本「なんでコンテンツにカネを払うのさ?」を読んだ。

ニコニ・コモンズの件に限らず、著作権関連のことにはアンテナを広げているのですが、「誰か・なにかをFREE(無料&自由)にする」というコンセプト FREEex を提唱する岡田斗司夫さんが、なかなか挑戦的なタイトルの書籍を出してきました。しかもそれが、著作権法関連では日本で第一人者と言っても過言ではない、弁護士の福井健策さんとの対談。これは面白そうだとポチりました。

なんでコンテンツにカネを払うのさ? デジタル時代のぼくらの著作権入門
岡田 斗司夫 福井 健策
阪急コミュニケーションズ
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対談本というのは会話の臨場感がなんとなく伝わってくるので、スカッと読めてしまうんですよね。本の作りとしてはわりと安直だと思うんですが、しっかりとした対談であれば中見は濃い。この本もそんな一冊でした。



冒頭に
この本の中見は、引用されたがっている。
とありますので、気になったフレーズはどんどん引用します。

岡田斗司夫さんによる「はじめに」では、いきなり
「映画が盗まれてる」「違法ダウンロードは~」の予告編もどきの映像、うっとうしくないですか?私はあれがもう、嫌いで嫌いで(笑)。
と本音が爆裂しています。映画業界のことはよくご存知なので、監督や俳優・スタッフにはロクに権利配分されない現状に腹を立てているというのもあるようですが、そもそも著作権というのが「権利者を守る」のではなく、「権利者の利益のため」に使われている現状が嫌だと。
あらゆる作家やクリエイターは、絶対に模倣やパロディから出発する。そこがクリエイティブの土壌であり、源泉なのだ。
だから、禁止されれば枯渇してしまうという危惧を抱いているようです。もちろん、面白い小説やマンガを書く作家が食えなくなってしまうのは困る、というのも前提にはあるようですが。

それに対し、福井さんは弁護士として、作品の合法的所有者である著作者や作家たちを守るために、著作権を武器として戦っています。岡田さんは著作権を相手に戦っています。

対立するスタンスの二人が対談ですが、二人とも大人ですから互いの意見を尊重する態度は身につけている。真っ向からぶつかり合うのではなく、それぞれの考え方について認め合う会話になっている。読んでいても気持ちいいですね。


第1章は、「電子書籍の自炊から著作権を考える」というテーマです。

私的複製の範疇は、自分自身や家族が使うため。だから「私的複製」の代行ビジネスは違法性が高い、と福井さん。そこへ岡田さんがこんなことを聞く。
養子を1万人くらいとっても大丈夫なんでしょうか?
要するに、「家族」という概念を拡張してしまったらどうなのか?ということです。発想がぶっ飛んでますね。条文だけからすると可能性はありそうですが、養子としての実態が伴わないとダメだと福井さんに言われます。

福井さんは、
著作権法をどうやって改善していけばいいのかということを考え続けていて、自分なりには大胆だと思う案も考えてました。でも、今の岡田さんの話を聞いたら、自分がすごいコンサバ(※鷹野注:conservative 保守)な人間に思えてくる(笑)
と驚愕します。もう完全に対談は岡田さんペース……と思いきや、自炊のビジネスモデルはどこまでの範疇なら現行法で許されるか?という話になると、福井さんのペースに戻ります。

仮にユーザーが使うためならスキャン外注は構わないという論理が認められたとすると、現行法上裁断された本を破棄する義務は無いため、元所有者が再販 → 購入者がスキャンして再販 → 購入者がスキャンして……というプロセスが無限に繰り返せることになってしまいます。実際すでに、ネットオークションなどで裁断済み本が大量出品しているような事例もあるようですね。

話は「私的複製」というところから、「DRM」の話に発展します。例えばDVDの売り上げがどんどん減少していることについて、岡田さんは
コンテンツを愛しているいちばん熱心なユーザーにDRMで不便を強いて、その結果として海賊版を広めて、激安で売るしか道がなくなってしまった。
と、規制を強くする方がかえって衰退を早めるという論を展開します。

これはボクも実感していることで、せっかくDVDやBDを買っても、ケースから出して、トレイにセットして、鑑賞し終わったらまたケースに入れて、という行為が非常に面倒なんですね。特にアニメなんかだと、1巻に2話しか入ってなかったりするので、出し入れの頻度が高い。リッピングソフトを導入して吸いだしをトライしたこともあるんですが、うまくいかない。面倒なので、あまり観なくなる。だとしたら購入する意味が……というのを最近感じるようになってきました。

ブックオフなどの新古書店が出始めたとき批判されたけど、結局アレが読者人口を増やすことにつながった、と岡田さんが攻勢に出ますが、福井さんは「検証が重要だ」とかわします。コピーを完全に自由にしたら、クリエイターは本当に潤うのか?と。バラ色の仮説を語るだけではダメだというところで第1章が終わります。


第2章は、「そもそも著作権って何だろう?敵なのか?味方なのか?」という話に移ります。
「畑から野菜を盗んだら泥棒だけど、ソフトウェアやコンテンツはいくらコピーしたって減らないんだから泥棒じゃない」というわけです。
という大学生の主張(と言いながら岡田さんの主張のような気がする)について、野菜とコンテンツがどう違うという視点は的確だと福井さん。

要するに著作権は「情報コントロール権」なんだけど、 情報は1人で使おうが100人で使おうが減らないし、独占管理しづらい。だから著作権は二重の意味で無理がある、本質的に無茶な仕組みと。

ここで出てきたプラトンとアリストテレスの話、「ネットバカ」でも口頭伝承の時代から文字が発明されて以後の変遷という話の中でも出てきた記憶があります。
プラトンが人の意見を文字で記そうとしたら、これにアリストテレスが反対するというのです。(中略)プラトン側は、意見は文字にして紙なり粘土板なりに記すことで、客観性を持った実在になり、それが情報として流通できるようになるという。(中略)アリストテレス側は、そんな風にしてしまうと、最初に意見を述べた人の人格や重み、言葉のニュアンスといった要素がすべて消え失せてしまう、そう反対したというのです。
わりと有名な寓話なんですかね?岡田さんがツイッターで、発言の一部だけを切り取られて独り歩きしてしまう経験が、アリストテレス的だという冗談につながるのですが、そこから話が思いがけない方向に進みます。

アリストテレス的な発想は、大陸法(西ヨーロッパ)的で、著作者人格権(著作物は創作者の人格を体現したもの)。

プラトン的な発想は、英米法的で、財産権(著作物をこの社会においていかに有効的に使うかに重きを置いている)。
※ 元の文中では、ずばり「財産権」という言葉は出てきていません。これはボクの解釈です。

こんな風に話がつながるとは。思わず膝を打ちました。

福井さんも著作権が制度疲労を起こしているという認識はお持ちのようで、
法律が間違っているから守らなくていいと言い始めたら、我々の社会なんて「しょうもないもの」になる。今のルールがおかしいと思ったら、その制度を変えていく努力をする。
ということも仰っています。また、"引用"は著作権法の例外として法的に認められている行為なのに、いちいち許諾を取るのは馬鹿な話、であるとか、必要性があるなら若干のグレーさがある程度の領域で、一歩踏み出す勇気は持つべき、といった大胆な意見もお持ちのようです。


第3章は、「コンテンツホルダーとプラットフォームの戦い」について。
日本ではパロディや二次創作が氾濫しているように見えるかもしれませんが、それは「著作権者が把握していない」か「規模が小さいからお目こぼしされている」か「著作権者の許可を取っている」のいずれかでしかないはずです。
だいたいの場合、1つ目か2つ目でしょうね。人によって判断は違うと思いますが、把握しきれないので諦める、消しても消してもキリがないから泣き寝入り、害は小さいから我慢、害より益のほうが大きいので黙認、といった受けとめられかたをしていると思います。
先ほど、欧米では著作権保護期間が軒並み20年延長され、70年になったと言いましたが、保護期間の長い国というのは要するに「文化輸出国」なんですよ。知的財産の輸出を強めることが国益にかなう国は、基本的に保護期間を延ばす傾向にあります。
ボクはこれ、認識していませんでした。言われてみれば確かにそうですね。対する日本は、ゲームだけは輸出国、映画・音楽・雑誌・書籍は輸入超過だそうです。国がバックアップして "クールジャパン" という売り込みをしようとしていた理由が判りますね。世界に絶賛されているのではなく、絶賛されるようになりたいという話だということなのでしょう。

対談はここから、コンテンツホルダーの弱さとプラットフォームの強さという話になります。福井さんが「流通が力を持ち過ぎている」というニュアンスの指摘をすると、それに対する岡田さんの意見が凄い。
プラットフォーム企業が力を持っているのは、まだネットワーク自体が途上段階にあるからだと僕は考えているんですよ。中途半端な状態だからアマゾンやアップルが囲い込みできてしまっていますが、いずれはこうした企業でも囲い込みが不可能な時期がやって来るはずです。
未来を見ています。
もしクリエイターが「お金なんていらない。コンテンツはタダで出しちゃうよ」と言い出したら、どうなると思いますか?
目の付け所がシャープですね。常人には出てこない発想だと思います。岡田さんらしい。要するに、クリエイターが食べていける手段が別にあれば、プラットフォームによる囲い込み戦略は崩壊するということです。

じゃあクリエイターはどうやったら食べていけるのか?作品のクオリティでも、プロとアマとの境界が薄れつつある。広告モデルできちんと収益を上げられている所も限られている。というところで次の章に移ります。


第4章は、「クリエイターという職業」について。
コンテンツを作るということを、野球で説明するとすっきりすると、僕は思っているんですよ。例えば野球がクラスでいちばんうまいからといって、そいつは野球で食っていくことはできませんね。
創作だけで食っていこうという態度が真面目じゃありません。
厳しい意見です。エンターテイメントなどの特殊な職能を、許容できる余剰がボクたちの社会にあるかどうか次第だ、という話です。誰もが創作に参加できるようになったので、レッドオーシャンになっていると言うこともできるでしょうね。
仮にベーシック・インカムのような形で日々の生活が保障されるのであれば、「著作権なんていらないよ」というクリエイターは多そうですね。なにせ、大半のクリエイターが自分の作品で飯が食えるほどには稼げていないのは古今東西の現実だから。
これは岡田さんと福井さんの共通見解でした。

ただ、いきなり著作権法を無くすこともできないので、説得力のある代替案を提示しなければならない、という話になります。

現状把握として、出版物・音楽CDの販売額はひどい落ち込み方をしているけど、ライブイベントは微増しているという数字の話が出てきます。この辺りは「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」とも共通する話です。

ただ、岡田さんは今後、出版にしても放送にしても、市場規模がシュリンク(縮小)していくことはもう避けられないという予測をしています。
これは、僕らがデジタルというパンドラの箱を開けてしまった以上、不可避なんです。
岡田さんは「情報はフリー(無料)になりたがる習性を持っている」という、クリス・アンダーソンの「フリー」から多大な影響を受けていますね。FREEex (旧オタキングex)は、そこからの発想だとブログにも書いてありました。

【社長日記】オタキングex創世記9. すべてはFREEに向かう(回天編)
http://otaking-ex.jp/wp/?p=9810

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話はここからしばらく、自炊の森の炎上について、コミケ専用通貨というアイデア、日本鬼子による国防など、あちこちへ脱線します。脱線とはいえこの辺りの話も面白いですけどね。
無料で小説を書く人、無料で映像を作る人、無料で音楽を作る人がこんなにも世界にはいる。そんな世界において、コンテンツで金を取ろうなんてことは無理に決まっています。
というところに話は戻ります。文化の多様性のためには、貧乏なプロクリエイターではなく、無料で作品を作っているプチクリエイターを守るべきだ!と岡田さんは主張します。岡田さんの発想は極端だけど面白い。でも極端だから、今すぐ実現することは無いように思えます。岡田さん自身も、ゴールに辿り着くまでには50年か100年くらいかかるかも、と考えているようです。


第5章は、「ネットの中に国家を作り上げる」という話。福井さんによる全メディアアーカイブ構想が説明されます。全てのジャンルのコンテンツを古いものから新しいものまで「オプトアウト」方式で集める場を作る、という内容です。それには法改正が必要だという話なのですが、ニコニコ動画は法改正など待たずにへ遮二無二進もうとしている状態だと思います。

少し余談ですが、ニコニコ動画のやり方に反発する人は、クリス・アンダーソンの「フリー」・「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」・「なんでコンテンツにカネを払うのさ?」のどれか1冊でもいいので読んでおくべきだと思います。彼らが何を目指しているのか、どうしてこういう仕組みを作ろうとしているのかが理解できると思います。まず「敵を知る」ことですよ。

この3冊なら、対談形式の「なんでコンテンツにカネを払うのさ?」が、いちばん平易で読みやすいですね。根本をしっかり理解しようと思うなら「フリー」で、より具体的なのが「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」です。

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さて話を本に戻すと、福井さんがなぜこういう構想を描いているのか、という話になります。要するに、米国発のプラットフォームが世界を席巻しており、利用規約は寡占企業が一方的に作ったルールでしかも国境を超えるため、TPPなど関係なく「グローバルスタンダード(アメリカローカル)」に従わざるを得なくなってしまう、という懸念を抱いているそうです。何かヤバイ方向へ動き始めた時に、他言語ユーザーの批判が果たして反映されるのか、と。Google の新しい利用規約の話を思い出しました。

対談形式なので、話にオチが付いた所で本文は終わるのですが、「おわりに」の冒頭に書いてある福井さんの言葉には声を上げて笑ってしまいました。それは引用せず、本を読んでのお楽しみにしておきます。

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