「アマゾンが取引先に協力金を要求」「外務省が小学館に圧力」「コミックス売上、紙と電子が逆転」など出版業界関連の気になるニュースまとめ #312(2018年2月26日~3月4日)

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先週は「アマゾンが取引先に協力金を要求」「外務省が小学館に圧力」「コミックス売上、紙と電子が逆転」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年2月26日~3月4日分です。

チンギス・ハーンに男性器を落書き 漫画に朝青龍ら抗議〈朝日新聞デジタル(2018年2月23日)〉 はてな

見落としていたので改めてピックアップ。外務省が表現の自由を侵してしまった事案。モンゴル政府が、日本の外務省へ抗議するのは自由です。でもそれを受けた外務省が小学館に連絡してしまうのは、どういう連絡だったかに関わらず「公権力による圧力」なのでアウト。

ちょっと恐ろしいのが、この外務省から小学館への連絡を問題視する報道を見かけないこと。表現内容のいい悪い以前に、公権力による表現規制を認めてしまっていいのでしょうか。このままでは、戦前に逆戻りしてしまいます。弁護士の福井健策先生が「表現の自由の真骨頂というものは、気分が悪くなるような表現や情報を、それでもできるだけ権力で規制はしないところにあります」とおっしゃっていたのを思い出しました。

とらのあな、台北に初の海外直営店をオープン 日本の同人誌を台湾へ〈ITmedia ビジネスオンライン(2018年2月23日)〉 はてな

見落としていたので改めてピックアップ。「とらのあな」もついに海外進出。先行事例として、「アニメイト」は大手出版社とタッグを組んで2015年からタイ・バンコクで店舗展開しており、初年度黒字を見込むほど好調だというニュースが1年ほど前にありました。

電子コミックスの売り上げ、紙コミックスを初めて上回る〈ITmedia ビジネスオンライン(2018年2月26日)〉 はてな

出版科学研究所が1月25日に発表した2017年の数字で「コミックス単行本が約13%減と大幅に減少」とあったので、概算では紙と電子の売上が逆転することはほぼ間違いないだろうという状況でした。2月26日の発表では「紙のコミックスが同14.4%減の1,666億円」と、概算時点よりさらに落ち込んでいます。

ご覧いただいたように、数年前までは、紙のコミック誌の減り方に比べると紙のコミックスは比較的堅調でした。ところがここ数年、紙のコミックスも急減しており、これがなにを要因とするものなのか、慎重に見極めたいところ。出版科学研究所が挙げている要因は「これまで市場を支えてきたビッグタイトルの完結や部数規模の縮小、またこれに替わる新たなヒット作が出ていないこと、読者の紙から電子へのシフト」です。紙から電子へのシフト――つまり、カニバリズムが起きてしまった! というのが「わかりやすい」仮説でしょう。

ところが、このブログでも何度か書いているように、複数の電子書店の人から新刊対既刊の販売比率が「2対8」とか「12対88」という話を聞いていて、新刊の在庫が中心となるリアル書店とはかなり売れ方が異なるようです。「棚」という物理限界のない電子書店は、典型的な「ロングテール」になっていることが推測できます。まあ、どこまでを新刊とするか? という定義次第で厳密な数字はブレる可能性がありますが。

大学生「読書時間ゼロ」半数超 実態調査で初〈日本経済新聞(2018年2月26日)〉 はてな

全国大学生協連が毎年行っている学生生活実態調査。「学生の経済状況」「就職について」「日常生活について」という大項目が3つあり、読書時間は「日常生活について」の1項目に過ぎません。ところが毎年のように、読書時間だけがピックアップされ各紙でニュースとして取り上げられているのが、なんとも。なお、全国大学生協連のリリースの「まとめ」には「スマホ利用が読書を減少させたという説は支持されない」と明記されています。

また、18歳人口と大学入学者数・進学率の推移(文部科学省調査)を見ると、18歳人口はピークから4割ほど減っているのに、大学進学率は伸び続けているため、大学入学者数はここ20年ほどあまり変わっていない(むしろ微増)という全体傾向も考慮する必要があるでしょう。つまり、「大学生が本を読まなくなった」というより、「本を読まない層も大学へ入るようになった」と捉えるべきなのかな、と。

50年分が無料で読める「ジャンプ図書館」開催 ネット上で歓喜の声〈ITmedia ビジネスオンライン(2018年2月26日)〉 はてな

最初、タイトルの「開催」を見落とし常設と勘違いして「なんと!」と驚いたのですが、常設図書館ができるわけではなく、3月15日から26日の期間限定でした。サブタイトルに「レアな読み切り作品もよみがえる」とありますが、文藝春秋みたいに電子で出せばいいのに。「一部抜けている号がある」というのは、外へ出せるようなストックが集英社に残っていないのかな?

Amazon to sponsor Digital Book World 2018 for first time in conference history〈BookMachine(2018年2月26日)〉 はてな

アメリカで毎年開催されている電子書籍のカンファレンス「Digital Book World」に、Amazonがはじめて協賛。過去のレポートを見聞きしている限り、従来はどちらかというと伝統的出版社を対象に「対Amazon」について検討する会だったように思うのですが、今回からはかなり色合いが変わりそうです。

鬼才とり・みきが放つ伝奇スペクタクル『石神伝説』文春砲の原点!?『特派記者ドッポ』等90年代の名作コミックを電子書籍で一挙配信!〈@Press:アットプレス(2018年2月27日)〉 はてな

メディアで記事になっていないようなのでプレスリリースをそのままピックアップ。文藝春秋、マンガ誌発行していたことあったんですね……知らなかった。Wikipediaによると1996年6月から1999年5月まで刊行されていたようです。もう紙では入手困難な作品ばかり。文藝春秋電子書籍編集部、すごいところを掘り出してくるなあ。

KADOKAWA、アスキー事業の移管を発表 時期は4月1日〈おたくま経済新聞(2018年2月27日)〉 はてな

「週刊アスキー」「ASCII.jp」や関連EC事業・イベント・出版事業などが、KADOKAWAから角川アスキー総合研究所へ移管されることに。吸収合併したアスキー・メディアワークスの、エンタメ以外を再度子会社へ移した、という感じでしょうか。所沢への移転する部門しない部門というのと関連するのかも?

アマゾン、取引先に「協力金」要求 販売額の1~5%〈日本経済新聞(2018年2月27日)〉 はてな

これって、独占禁止法「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」の、「不当な経済上の利益の収受等」にあたるような。公取委、また動くかしら?

出版状況クロニクル118(2018年2月1日~2月28日)〈出版・読書メモランダム(2018年3月1日)〉 はてな

毎月楽しみな、小田光雄氏の出版状況クロニクル。ソースが提示されていないのですが、アマゾンの出版社向け事業戦略説明会で、「年間1億円以上出荷している出版社55社が新たに直接取引を開始し、累計141社、年間100冊以上出荷していて1億円未満の出版社は605社が開始し、累計2188社、双方で直取引出版社は2329社と発表」したそうです。出版社の7割近くが!? と驚いたのですが、ある出版社の中の人から、全面的に直接取引しているのはまだ二桁で、恐らく雑誌バックナンバー販売のためだけに「e託」を利用しているケースもカウントされている、というのを示唆されました。なるほど。

講談社のマンガ6誌読み放題アプリは、出版界の危機感から生まれた 「船が沈もうとしているのに…」〈ハフポスト(2018年3月1日)〉 はてな

「コミックDAYS」担当者へのインタビュー。危機意識が社内で共有されて……というところはいいのですが、それが2017年1月の時点というのが「マジか」という感想。講談社野間社長が新刊書をすべて電子化する方針を打ち出したのは、2011年秋のことです。トップダウンでの取り組みだったから、現場が実感できる状態になるまで時間がかかったということなのでしょうか。ううむ。

D2CとNTTドコモ、「dマガジン」で広告事業を開始〈ITmedia マーケティング(2018年3月1日)〉 はてな

定額読み放題サービスに広告事業が追加。紙版で広告が入っていたページを埋める無意味なページが、電子版専用広告に差し替わるのであれば、許容範囲かなとは思います。「広告掲載を許諾した49社147誌」の一覧はこちら。数誌確認してみましたけど、広告がどういう入り方をするのかは確認できませんでした。しかし、料金形態がいかにも広告代理店的だなあ、というのが率直な感想です。

最新刊から実写化した原作まで15万冊超が揃う 電子コミックサービス『クランクイン!コミック』3/1日に提供開始〈@Press:アットプレス(2018年3月1日)〉 はてな

記事になっていないようなのでプレスリリースをピックアップ。新たな電子書店がまたもやオープン。バックエンドはメディアドゥです。

 八戸市営書店が開業1年、来店客は目標上回る〈日本経済新聞(2018年3月2日)〉 はてな

14カ月で来館者数18万3200人と、目標を大きく上回っているとのこと。すばらしい。民間の書店と競合しないようなラインアップ、というのがよく考えられています。なお、私は昨年5月に、「著作権」と「電子出版」のワークショップ講師としてお伺いしています。印象としては「限りなく図書館に近い書店」という感じ。図書館法では「公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない」と定められていますが、公営でも書店なら販売できるわけですよね。

ちなみに原稿執筆用の「カンヅメブース」はこんな感じです。

八戸ブックセンター「カンヅメブース」


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