ライトノベル市場は衰退どころか拡大傾向にある ── 『ORICONエンタメ・マーケット白書2015』より

ORICONエンタメ・マーケット白書2015

以前「ORICON STYLE」に「ラノベ市場はなぜ衰退した?」という記事が載っていたのですが、『ORICONエンタメ・マーケット白書2015』でライトノベル市場について調べたらなんと……という話。

「ラノベ市場はなぜ衰退した?」という立論への疑問

「ORICON STYLE」の記事はこちら。2016年2月10日付けです。

(※Internet Archive

記事の冒頭に「2012年にピークを迎えて以降、売り上げが下降傾向にある」とあるのですが、そのデータが示されていません。だから正直、それ以下の「衰退」を前提とした解説に、私はイマイチ納得できませんでした。

というのは、例えば「ライト文芸」レーベルが増えていたり、「電子書籍」市場が伸びていたりする中で、「ライトノベル市場」という数字には、どこまでが含まれているのか? という疑問を持ったのです。そもそも「ライトノベル」の定義で、しょっちゅう論争が起きるくらいですからね。

出版科学研究所の『出版指標年表』

似たようなタイミングで芝浦工業大学・小山准教授の研究室の学生が、卒業研究でライトノベル市場について調べているのを知りました。こちらのデータ出典は、出版科学研究所の『出版指標年表』です。

ライトノベル市場の現状分析 from Yuhsuke Koyama

なるほど確かに、2012年をピークに減少傾向にあるようです。しかしやはりこちらも、「ライトノベル市場」の定義がよくわからない。そこで、原典を参照してみよう……と思ったのですが、頒価1万4400円(税込)となかなかいいお値段。ちょっと簡単には手が出せません。

ちなみに最新の2016年版は4月25日に出たばかり。図書館には、1つ古い2015年版もまだ入っていないっぽい。2014年版は私が勤めている大学の図書館にあるみたいなので、次の授業前後で調べてみます。

『ORICONエンタメ・マーケット白書2015』が参照できた

ところが、『出版指標年表』と同じようにライトノベル市場について独自に調査報告をしているオリコン・リサーチの『ORICONエンタメ・マーケット白書2015』は、近所の図書館にもう入っているではありませんか! (∩´∀`)∩ワーイ

さっそく調べてきて、データをグラフ化してみました。

ライトノベル 年間売上の推移(ORICONエンタメ・マーケット白書2015より)

ライトノベル市場の売上、2012年以降は拡大し続けてますね。つまり「ORICON STYLE」の「ラノベ市場はなぜ衰退した?」という記事は、オリコン・リサーチのデータによって否定されたことになります。なんてこったい。

これまで順調に市場を拡大してきたライトノベルだが、参入企業やレーベルの増加に伴い、文庫中心の商品展開から近年は単行本を中心とする商品展開に転換しつつあり、当年もそうした傾向が強くみられた。

『ORICONエンタメ・マーケット白書2015』p81より引用

グラフの「BOOK」は文庫以外(=単行本)です。つまり、ライトノベルの「文庫」は減少傾向だけど、四六判など判型の大きい「単行本」は拡大傾向にあるということを示しています。いわゆる「ライト文芸」の拡大を如実に示していると言っていいでしょう。

なお、ORICONのライトノベルレーベル別ランキングは、1位はもちろんダントツで「電撃文庫」なのですが、2位に「JUMP j BOOKS」、6位に「アルファポリス」、7位に「エンターブレイン」、8位に「講談社BOX」、11位に「MFブックス」、14位に「レジーナブックス」が入っています。

なんだかここでも「ライトノベル」の定義論争になってしまいそうですが、とりあえずオリコン・リサーチの定義するライトノベル市場には「ライト文芸」も含まれます。私の定義じゃありませんので、あしからず。

そして「電子書籍」はやっぱり集計対象外

そしてもう1つ、これはオリコン・リサーチに直接問い合わせてみたのですが、「電子書籍」は集計対象外とのことです。この数字は、物理メディアのセルのみ(レンタルは含まれない)なのだとか。上記のグラフにあるように紙のライトノベル(文庫+単行本)市場は伸びているわけですから、「電子書籍」を含めると相当伸びてるのではないでしょうか?

なお、出版科学研究所『出版月報』2016年1月号によると、文字モノの「電子書籍」市場は228億円。このうちどれくらいが「ライトノベル」なのかは不明ですが、解説文には「巻数ものが多く、キャラクター色の強いライトノベルはコミック的な売れ方をし、堅調だ。」とあるので、結構な割合を占めていることが予測できます。

とりあえず『出版指標年表』も調べてみますが、ひとまず「ORICON STYLE」の「ラノベ市場はなぜ衰退した?」という記事は、オリコン・リサーチのデータによって否定されているということで、ひとつよろしくお願いします。

とほほ。

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