「公共図書館での電子書籍貸出は書店の脅威?」「サムの息子法」など出版業界関連の気になるニュースまとめ #172(2015年6月8日~14日)

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毎週月曜恒例。出版業界関連の先週のニュースで、ボクが気になったものにコメントをつけてまとめていきます。電子出版界隈が中心です。先週は「公共図書館での電子書籍貸出は書店の脅威?」「サムの息子法」などが話題になっていました。

【広角レンズ】街の書店、磨く仕入れ力 利益率向上へ「買い切り」も(1/4ページ) – 産経ニュース ※2015年6月8日

出版社が出店し書店と直接取引の商談をする「書店大商談会」の話題から、委託販売制ではなく買い切り制で書籍の発行を始めたミシマ社の話題など。商談会の実行委員長・南天堂書房社長の「これから書店が生き残るには、取次任せではなく、自分で商品を見極めるだけの“仕入れ力”が大事」というのは、どの小売業でも言えること。

【JEPAセミナーレポート】一人出版社を立ち上げた境氏が語る「重視するのはリアル」 | OnDeck ※2015年6月8日

境祐司氏の「一人出版社」について。「デジタル専門の出版社を目指しながらも、重視するのはリアルでのコミュニケーション」というのは、実用書だけではなくどのジャンルでも活かせるノウハウだと思います。

角川・ドワンゴ社長に川上氏 佐藤氏は会長に :日本経済新聞 ※2015年6月9日

会長と社長の入れ替え人事。どういう意図だ……と思いIR資料(PDF)を確認。

平成26年10月1日(株)ドワンゴと(株)KADOKAWA の経営統合により発足した当社は、現経営体制下、健全かつ安定した経営基盤の構築を進めてまいりました。こうした実績のもと中長期的な展望から、新たな体制で成長を加速させ企業価値の向上を目指すため、代表取締役社長の異動を行うことといたしました。

佐藤辰男社長体制でリストラクチャリングして筋肉質な組織になったので、今後は川上量生社長体制で成長路線に行きます、ということなのかな。

英国で1年間にわたる実験が終了「公共図書館での電子書籍貸し出しは、購入につながらない」- hon.jp ※2015年6月8日

米OverDrive社、英国の電子書籍実験結果に異論、独自見解を発表 ※2015年6月9日

「Buy it Now」ボタンのクリック率は1%以下という結果に、OverDrive社が即座に反論、という図式。詳細については下記2本を読んだ方がいいです。

英国公共図書館における電子書籍貸出の試行プロジェクトが終了 図書館による電子書籍の貸出は書店にとって脅威となる? | カレントアウェアネス・ポータル ※2015年6月9日

公共図書館の電子書籍貸し出しは書店にとってメリットなし? – ITmedia eBook USER ※2015年6月10日

電子書籍を借りた人のうち39%は今後、書店を訪れる頻度が減るだろうと考えており、37%が新たに紙の図書を買うことも減るだろうと考えている

英国書籍販売協会が「公共図書館での電子書籍貸出は書籍販売業に損害を与えるだろう」と懸念を示したのは、恐らくこの部分が要因だろうと思われます。が、せっかくなのでもう一歩踏み込んで考えてみます。

単純に広告のCTR(Click Through Rate:広告のクリック数を、広告の表示回数で割った率)として考えれば、1%って「すごい」数字です。問題は、それによるメリットを享受するのがどこなのか? という話になるでしょう。

1ヶ月ほど前のまとめにも書きましたが、英国の電子書籍市場はKindleのシェアが95%という状況です。ところが、公共図書館電子書籍貸出試行プロジェクトのレポート(英文・PDF)を読む限り、Kindleストアはプロジェクトに参加していません。つまり「Buy it Now」ボタンは、どこか他の電子書店への導線になっていたようです。

このレポートにも「Kindleのシェアは状況証拠からすると90%」と書いてあり、「残り10%のユーザーだけを対象にしたわけではない」理由も書かれています。EPUB形式で配信しており、汎用タブレットユーザーも多いから、Kindle専用端末ユーザーは半分以下だ、と。どうなんでしょうね? この理屈。

シンプルに考えて、これだけ圧倒的なシェアを握っているストアへの導線じゃなかったら、利用率はガタ落ちになるでしょう。仮にDRMフリーのEPUBが配信されていたとしても(レポートには明記されていません)、それをmobi形式に変換するハードルもあります(パソコン必須、アプリで変換、ファイルをUSB経由で転送という工程が必要になる)。

ただこれ難しいのは、公共図書館が特定ストアだけを優遇する措置ってとれないと思うんですよね。もし「Buy it Now」ボタンがKindleストアへの導線になっていたら「公共図書館の電子書籍貸出は、Amazonを儲けさせるだけだ」と批判されるでしょうし。ランディングページを用意して、購入可能なストアを複数提示しユーザーの選択に任せる、というのが一番無難だったのかな。

イーブックが大幅続落、第1四半期増収確保も最終損益赤字 | 個別株 – 株探ニュース ※2015年6月10日

第1四半期の最終損益は200万円の赤字だったそうです。「先行投資負担が損益を押し下げ」とあるのでIRカレンダーで2~4月を振り返ってみたら、ブークス子会社化と中国での合弁会社が。これが原因かな?

札幌「くすみ書房」閉店の知らせに惜しむ声 – ITmedia eBook USER ※2015年6月11日

「なぜだ!?売れない文庫フェア」や、会員制サービス「くすみ書房 友の会『くすくす』」など、斬新なフェアや企画を次々行っていたくすみ書房が、6月21日で閉店。お疲れ様でした。

米アマゾンの電子書籍事業、欧州委が正式調査 独禁法違反の疑い | マネーニュース | 最新経済ニュース | Reuters ※2015年6月11日

欧州の、米国企業対抗策。少し前に、「Google Shopping」や「Android」も調査開始されています。

ソフトバンク、月額500円で雑誌+コミックが読み放題の「ブック放題」を提供 – ITmedia Mobile ※2015年6月11日

ソフトバンクの新サービス。「他キャリアのデバイスでは利用できない」点が、完全にドコモに負けています。auにも同じことが言えますが、1位がオープン戦略で、2位以下が囲い込み戦略って、立場逆でしょ。

なお、ソフトバンクはこれまで同様の読み放題サービス「ビューン」を提供してきましたが、「ビューンで配信されている雑誌のほとんどが、ブック放題でも配信される」「Androidスマートフォンとタブレット向けのビューンの新規申し込みを、2015年6月下旬以降に終了」ということは、恐らく切り捨てる方向に。

不況にあえぐ出版業界を変えるか 「時限再販」を追う(前) – 新刊JPニュース ※2015年6月11日

不況にあえぐ出版業界を変えるか 「時限再販」を追う(後) – 新刊JPニュース ※2015年6月12日

前半を読んで、SBクリエイティブなど出版社側からの仕掛けだと思ったら、実は日販・CCCの子会社であるTSUTAYA専門取次のMPDからの仕掛け。「取次飛ばし」の動きを座して待つわけにもいかないですもんね。ただ、「時」の丸囲み文字は、何を意味するか知ってる人以外に理解できない表記なので、あまりよろしくないと思うのですが。

犯罪のメモワール出版はどこまで許されるのか « マガジン航[kɔː] ※2015年6月14日

神戸連続児童殺傷事件の犯人「酒鬼薔薇聖斗」こと「元少年A」が書いた『絶歌』と、アメリカの「サムの息子 Son of Sam」法と呼ばれている州法について。犯罪をネタに儲けた利益は、法廷が差し押さえて賠償金とする制度とのことです。

太田出版編集担当者によると「著者本人は、被害者への賠償金の支払いにも充てると話しています」とのこと。ちなみに1999年には文藝春秋から『「少年A」この子を生んで……―父と母悔恨の手記』という本も出ており、こちらも印税はすべて被害者遺族の方々への賠償金に充てると明記されていたそうです。

実はこの辺りを検索すると、いろいろ妙な噂話が出てきて嫌な気分になれます。実際に支払ったかどうか、当事者以外には分からないからでしょうね。アメリカのように法制度化した方が、真偽不明な噂話が流れずに済むかもしれません。

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