JEPAセミナー「地方から電子出版市場を創りだす!」に行ってきたのでレポートしてみる

JEPAセミナー「地方から電子出版市場を創りだす!」を取材してきたので、レポートさせて頂きます。今回は残念ながら商業メディアさんが乗り気じゃなかった……。

池田敬二さん

告知では、徳島県の株式会社教育出版センター 代表取締役社長 乾孝康さんと、宮城県の株式会社ココム 代表取締役社長 男澤亨さんが登壇予定だったのですが、男澤さんが諸事情により急遽来れなくなったため、JEPA 定例会運営委員会の副委員長で大日本印刷の池田敬二さんがピンチヒッターになっていました。

池田さんのパートは主に、地方の公共図書館と電子書籍、イーシングル(短い電子書籍)の2つのテーマでした。

地方の公共図書館と電子書籍

武雄市図書館

池田さんは武雄市図書館デジタル化推進協議会の委員も務めており、武雄市図書館にも何度か視察に行ったそうです。武雄市図書館は公共図書館と書店・カフェが併設されており、指定管理者制度でCカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が管理・運営をしています。

武雄市図書館の2Fから眺めたスターバックス

CCCのTカードによる貸し出しで個人情報が利用され図書館の「読書の秘密」が保たれなくなるのではという批判(実際にはTカードなしという選択肢もある)や、樋渡市長の過激な言説によって何かと話題になることの多い武雄市図書館ですが、集客力はかなりのものがあり、併設のスターバックスの売上も全国でかなりの上位(順位はオフレコとのこと)になっているそうです。

武雄市図書館の2F

また、武雄市図書館では、5万人都市にある図書館としては破格の、600タイトルの雑誌が閲覧可能になっており、500誌が販売されているそうです。バックナンバーも豊富にあることから、それを目当てに長崎や福岡からも買いにくる人がいるとか。

館内パソコン利用可でWi-Fiも完備されているそうです。武雄市MY図書館という電子図書館サービスもあり、iPadの貸出しもやっているそうです。まあ、なんだかんだで、先駆的な試みをしているのは間違いありません。

個人的にすごく気になっているのが、武雄市図書館+書店+スタバで集客したら、周辺の民間業者はたまったもんじゃないだろうなーという点。いわゆる民業圧迫というやつですね。実際こんな記事も出てますし。

公が民と組んで何かをやれば必ずこういう批判は起こるので、あとはどう折り合いをつけていくかだとは思うのですが。

イーシングル(短い電子書籍)

Slicebooks.com

図書館の話から急にイーシングルの話になって、最初はこれがどう「地方」と繋がるんだろう?と思ったのですが。

アメリカのSlicebooks.comや、朝日新聞デジタルSELECT週刊ダイヤモンド特集BOOKSなど、コンテンツを2次利用して100円くらいの安価な設定で販売する手法や、カドカワミニッツブックPHP研究所、東洋経済、インプレス、コンデナスト・ジャパンなどのマイクロコンテンツの事例を紹介した後に、「地方からコンテンツを発信していくという、地方を工場として捉える」方向性と、「東京発のコンテンツをいかに地方へ届けるか」という、双方向で活性化させていくにはイーシングルがいいのではないか、という話でした。

つまりそれは、マス(大衆)に向けたメディアである必要はなく、ニッチなニーズに対し短いコンテンツを扱っていけばいい、ということなのかな、と。

実際問題、ガベージニュースの「出版物の種類別売上の変化をグラフ化してみる」でも顕著に現れているのが、「地図旅行」や「専門書」の壊滅的な下降トレンド。紙で数千部発行して増刷なしじゃ儲からないですよね。ニッチなニーズはむしろ電子の本の方が拾いやすいように思います。

電子出版は地方文化を救えるか?

という話の流れを作って、教育出版センターの乾さんにバトンが渡されました。題して「電子出版は地方文化を救えるか?」

教育出版センターについて

教育出版センター 乾孝康さん

出版社として取次コードを持ちつつ、印刷会社として文字組版もやっているそうです。書籍の出版はだいたい年間50冊くらいとのこと。

地方の出版社は「本が売れて売れてウハウハ」なんてことはまずなく、多くても数千部発行、まず増刷はないという場合がほとんどだそうです。

でも、地方の書店はすぐに売れる本しか置かない場合が多いので、どこに行っても同じような品揃えで、地方の出版物をあまり置いてくれないと。

東京の大手出版社が「儲からない」「面倒くさい」と手を出さない地方のコンテンツは、このままだと消えてなくなってしまうのではないかという危機意識があるそうです。

地方の小さな出版社にとって電子書籍は理想の「本」

地方の小さな出版社にとって電子書籍は理想の「本」

と考えると、電子書籍というのは地方の小さな出版社にとって、理想的なのだそうです。

その理由は……スライドの文字が非常に小さかったので、写真から書き起こしてみます。

  1. 単なる文字と画像だけでなく音声や動画を活用することで新しい表現が可能であり、多彩な教育の分野にも幅広く利用が可能。
  2. 電子書籍は基本的にカード決済等の電子決済が可能で、書店に配本及在庫確認、請求書発行、集金などの煩雑な業務が不要。
  3. 用紙・印刷・製本代金が不要なので、製造原価が紙の本に比べて安い。
  4. 少ない部数で安い定価で発行。
  5. 発送及び返品等の送料が不要。
  6. データ修正だけなので再販及び修正費用が安く瞬時に発行。
  7. 電子書籍は書籍配信サイトにデータで保存しているので、在庫切れ及び良書の絶版などが無い。
  8. 小出版社にとって金銭の負担が大きい在庫に依るスペース確保及び長期資金の休眠化を防ぐ。

まずなにより、組版・製本・配本と在庫コストがかからないこと、すぐに修正して差し替えられること、音声や動画でも表現できること、を強調していました。

そして、「ウェブデブック」というサイトを立ち上げ、全国の出版社を行脚してポータル化を図ろうとしているそうです。1社だけで少ないコンテンツ配信をしていても、なかなか集客できませんからね。

ただ、地方の出版社を回ると、電子書籍に対する否定的な意見も多いそうです。半分横目で見ながら「いつかやっていきたいなあ」と思っている状態とか、我々には関係ない、まだ早いという感覚とか。

ウェブデブックに参加しているのは、教育出版センターの徳島と、兵庫・鹿児島の3地域。「地域特化型電子書籍ポータルサイト」としては、「ジャパンイーブックス」の方が先行している感じです。

ジャパンイーブックス | Japan ebooks

こちらは宮崎の会社が中心になって、香川奈良熊本富山京都宮城岡山福井秋田静岡と、12の地域が参加しています。今年の電子出版EXPOにも出展していたのですが、ブースを回るのを忘れていた……痛恨。

ところで、こういう形のサービス展開をする際に、DRMはどうしているんだろう? このレポートを書いていて、ふとそんな疑問が頭をよぎりました。大企業がやってる電子書店ですら、サービス終了が恐れられているくらいですから、中小規模の事業で「DRMでストアにロックイン」されたら、ユーザーとしてはたまったもんじゃないだろうなーと。質疑応答の時に、思いつかなかった。これまた失敗。

新たな「電子書籍」市場の創造育成

銀行員が外交で持ち歩く膨大な紙の資料を電子化し、複雑な金融商品はムービーで説明するようなソリューションを徳島銀行に提供しているそうです。こういう to B の方が、売上は稼ぎやすいんじゃないかな。

あとは、南海トラフ大震災対策で、古文書の電子化とか、デジタル絵本の制作なんかもやっているそうです。阿波踊りの電子フリーペーパーは、広告掲載で収益を得るモデルだとか。

将来の展望「いつでも どこでも 誰もが 簡単に」

地方は車が無いと生活できないので、1人1台という状態になっています。これはボクの田舎も同じ。しかし、車が運転できなくなった方(高齢者など)は、代替となる公共交通機関がなかったり、あっても非常に不便だったりと、書店や図書館に行きたくても行けないという状態になってしまいます。

そういう方々に、電子書籍は非常に便利です。文字の大きさも変えられるし、いちいち出かけなくても家に居たまま欲しい本がすぐに買えるし。ボクも、母親にLideoをプレゼントしたのですが、先日帰省したらかなりの読書家になっていました。

書店には売れ筋しか置いてないというのもありますし、入手経路や移動手段に困らない大都市圏より、地方の方が電子書籍のニーズは高いのではないかと。「情報発信」に関しても、地方からもっと盛り上がってくるといいなあ、と思いました。

盛り上がるためには、「儲かる」ことが見えてこないといけないのですけどね……教育出版センターのウェブデブックは、月の売上が10万円いったことはないそうで。

KindleストアやiBookstoreやGooglePlayブックスを「教育出版センター」で検索しても出てこないので、大きいインフラは利用していないご様子。それはそれでもったいないなあ……。

ううん、いろいろと考えさせられたセミナーでした。

小説 いまいち萌えない娘

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この本は、ウェブデブックでも売ってました。こうやっていろんな売り場に並べたほうが、多くの人の目に触れると思いますよ。

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