『にじファン』の運営方針と出版社と著作隣接権

にじファン

にじファンは、小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿された二次創作作品の紹介サイトです。こちらのサイトが3月15日以降、著作権侵害を理由に、投稿されている作品の多くを検索できないようにする処置をとりました。この対処がある意味正しくある意味間違っていることについて、そこからの派生で、最近話題になっている著作隣接権についてお話ししたいと思います。

これまでにじファン/NOSでは、二次創作物作成を明確に禁止している著作権者(コンテンツホルダー)様の関連作品に対し、権利者より何らかの通達がない限り、積極的な削除対応は行っておりませんでした。

しかしながら昨今、台詞や文章を原作から多数引用した作品や実在人物を題材とした作品に関する情報提供が増加しております。これらの作品の中には以前より二次創作物作成の禁止を明言されているコンテンツホルダー様関連作品の二次創作物も含まれており、 今後にじファンの運営継続の上で重大な問題となるものと判断いたしました。

つきましては、にじファン/NOSでは本日、平成24年3月15日付けで公式サイト等でテキスト形式の二次創作物作成の禁止が明言されているコンテンツホルダー様関連作品の投稿を全面禁止致します。また、実在する人物(歴史上の人物を除く)を基にした作品に関しても本日より投稿を全面禁止致します。

禁止対象作品の詳細は二次創作作成禁止一覧をご覧下さい。

ボクも何度かエントリーを書いていますが、まず大前提として、権利者の許諾を得ていない二次創作物は著作権侵害です。

だから、法人として投稿サイトを運営する限り、にじファンのこの対処は致し方ないことだと思います。ただ、当初はオプトアウト方式(指摘があれば削除)で運営していたのを、急遽方針を変えたことについての反発も理解できます。

問題なのは、どの作品が禁止対象となるか、です。二次創作作成禁止一覧のページには、FAQが載っています。

Q.Aという出版社はA出版社公式サイトで二次創作を禁止しています。しかしながらA出版社から漫画を出版されているB先生のサイト上で二次創作を黙認すると表明しています。

A.B先生のサイト上で二次創作を黙認している場合であってもA出版社に権利がある限り、当サイトでは原則としてA出版社の表明を尊重します。

ボクは最初このFAQを読んだとき、「出版社に権利がある限り」ってどういう意味だろう……?と疑問に思いました。そして、二次創作への見解についてのページを読み、恐らくにじファン運営がどこかから強烈な抗議を受け、過剰反応し萎縮してしまったのだと想像しました。

当サイトは著作権者(コンテンツホルダー)の意見・判断を受け入れ、コンテンツホルダーに不利益となることを行い続けるつもりは一切ございません。 コンテンツホルダー様が望まない二次創作物の掲載は一切認めず、原則として指示があればそれに従い、二次創作物作成禁止リストに追加します。 よって、以下に該当する著作物の二次創作物は掲載できません。

ここまでは理解できます。

  • ほか著作権者(コンテンツホルダー)が二次創作物作成を禁止している作品(二次創作禁止一覧はコチラ)

ここから先ほどのFAQのページにつながります。一覧の中には、出版社の名前がズラリと並んでいます。小説や漫画などの著作物に対し、出版社には著作権が無いからコンテンツホルダーとは言えないにも関わらず、です。これではもし真の著作権者(作者)が二次創作を許可していても、出版社がダメと言ったらにじファンへ二次創作作品を公表することはできなくなってしまいます。

恐らく今後、にじファンから二次創作作品の大半は姿を消すでしょう。突然の運営方針変更と、著作権を過剰に解釈したやり方は、創作者からも読者からも支持されないからです。恐らく多くの人がTINAMIpixivへ移住するのではないでしょうか。にじファンはそれを覚悟の上で行った対処でしょうから、致し方ありませんね。


さて、少し話は変わります。前述のとおり、小説や漫画などの著作物に対し、出版社には著作権がありません。出版社にあるのは出版権(複製権の独占許諾)のみで、数年の期限付き契約になっているのがほとんどだと思います。だから例えば自炊代行業者への訴訟も、出版社ではなく作家が行なっています。

ところが、作者・編集者双方に、この認識が無い人が多いんですね。法的には作者(著作権者)が強いはずなのに、現場では編集者が強かったりするようです。雇用関係ではないのに、雇用関係みたいな感覚があるようですね。既に人気のある作家ならそんなことは無いでしょうが、新人の作家なんかは編集者に生殺与奪権を握られているのも同然の状態なのだと思います。

法的根拠は無いのに出版社を勝手にコンテンツホルダーとみなし、出版社が禁止しているからという理由で二次創作の投稿を禁止してしまったにじファンの事例は、作者と編集者の関係を象徴するできごとだと思います。悲しいことに、過剰反応と萎縮効果で周囲の動きを制限できてしまうのですよね。

だからといって、出版社を悪者扱いするつもりはありません。実際のところ、出版社のような大きな組織が海賊版を排除するために動けたら、著作権者個人では時間的に不可能な対処も可能になるからです。著作権者のエージェント(代理人)として面倒なことを引き受けてくれたら、作者としては大変ありがたいことだと思います。

だからこれは恐らく、エージェントとして動きたい出版社の勇み足なのでしょう。

インターネット上で人気書籍の海賊版が格安で流通していた問題に触れ「出版社、書店、作家というサイクルが崩壊の危機に瀕している」と述べた。その上で、出版社が著作権に準じる「著作隣接権」を持たないため、原告になれないことに言及、出版社が隣接権を持つ必要性を強調した。

出版社がいきなり政治家へ陳情に行っちゃったんですね。自らの権利拡大のために。いや、目的は著作権者のエージェントになるためでしょうけど、それにはまず著作権者と話をするのが筋だと思うのです。出版社のこの動きに対し赤松健さんは過敏に反応をし、講談社の役員にこれはどういうことなのか説明を求めました。

これをきっかけにして、作家・編集者・法学者・弁護士など様々な方々が、著作隣接権について自分の意見を表明し、議論が巻き起こりました。これはとても素晴らしいことだと思います。こういう議論がボクたち一般市民にも可視化されているなんて、昔ならあり得ないことだったでしょうから。密室で知らないうちに物事が勝手に決まっていくほど怖いことはありません。まだ何かが決まったという段階ではありませんが、ボクはこの動きを今後も注意深く見守っていきたいと思います。

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