「嫌儲」思想への勘違い

さて「南極点のピアピア動画」のレビューで、ドワンゴ会長川上量生さんの解説に対し「大いに異論がある」と言ったことについて書いておこうと思います。結論から言うと、ボクが勘違いしていました。

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ちょっと長いですが、川上さんの解説から該当箇所を引用します。

無料のコンテンツであってもユーザが気に入ったコンテンツへ感謝の気持でお金を払える投げ銭機能をつけてほしいというのは、かなり初期の段階から多くのユーザーの要望として繰り返しいただいている。にもかかわらず投げ銭機能をつけない理由はネットで他人が儲かることを激しく嫌うひとが一定数存在するので、動画の投稿者が叩かれて場が荒れることを恐れているというのがひとつ。

ここにボクは、激しく違和感を覚えたんですね。正当な手段で儲けている人を、ただ妬ましいだけで叩く人はいないだろうと。

これは以前、ニワンゴ取締役の木野瀬さんとやり取りをした際も同じ見解でしたので、恐らくドワンゴ/ニワンゴ社内での共通見解なのかな?と思います。

これ実は、津田大介さんも同じようなことを同じタイミングで言ってるんです。

これボクも、全くないとは思わないんですね。去年の年末に起きたステマ騒動で、広告であることを明示しているにも関わらず「ステマ」扱いしているような事例も目にしていますので。ノリと勢いだけで、正当な手段で稼いでいる人を勘違いで叩いてしまうようなケースもあり得るだろうな、と。

ただそれは、ボクもこのツイートで「時節柄」と言っているように、一過性のものだと思っていたんです。つまり、ステマ騒動が沈静化すれば、何でもかんでも無闇に叩くような風潮は収まるだろうと。

ボクは、嫌儲とは他人のフンドシ使って儲けてる奴らが許せねえ!という意識のことだと思っていました。

だから最初は、昨日川上さんの解説を読んだ時の気持そのままに、エントリーを書こうと思ったんです。でも、もしかしたらボクの認識が間違えているかもしれないと思い、「嫌儲」について検索してみました。

嫌儲 – Wikipedia

一方で嫌儲の思想はその性質上、資本主義の上で適法な取引にも反対してしまうことがある。例えばニコニコ動画上で発表された鶴田加茂の楽曲「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」は、商業展開を行う際、著作権者が「嫌儲」的な発想による批判の矛先となってしまった。

ちょっと記憶が薄れかけていたのですが、そういえば JASRAC に登録するしないで揉めていたことがありましたね。注釈にリンクも付いていたので、そこから辿って当時の記事を何本か読み漁りました。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0807/18/news048.html

「ニコ動作家はもうけちゃダメ?」「才能、無駄遣いしていいの?」 (1/4) ITmediaニュース

この記事内でも津田さん以外の人まで、「嫌儲」の文脈で「日本は出る杭は打たれる文化」ということを言っているんですね。何かおかしい。どうも納得ができない。そこで Google+ で問いかけをしてみたんです。

わりとさいきん、ステマ騒動で2ちゃんねるまとめブログが叩かれて、「VIP」住人が「嫌儲」へ移住するみたいな動きがあったじゃないですか。あれって「儲けている」から叩かれているのではなく、「他人の文章を無断転載編集して儲けている」から叩かれてるわけですよね?

ボクの周囲の方々も、ボクと同じような見解でした。なぜこんなに見解がズレるんだろう?不思議でした。

そこでふと思いつきました。

Web投げ銭を提唱した、ろじっくぱらだいすのワタナベさんは、どうだったんだろう?」

以前読んだアスキーの記事で、インタビュアーから「妬み」というフリがあったにも関わらず反応していなかったのを覚えていました。

http://ascii.jp/elem/000/000/203/203412/index-4.html

ASCII.jp:ろじぱらのワタナベさんに聞く、テキストサイトの可能性|古田雄介の“顔の見えるインターネット

ろじっくぱらだいすはワタナベさんのオリジナルコンテンツですから、もしボクの見解が間違っていない(つまり「嫌儲とは他人のフンドシ使って儲けてる奴らが許せねえ!という意識」というのが正しい)のなら、ああいう提言を行なったとしても周囲からは歓迎されたはずだと思ったのです。そこで、Twitter で聞いてみました。

……ショックでした。アスキーの記事で「妬み」に関して触れていないのは、「そこに触れても、妬んでいる人が妬まなくなるわけではない」という諦念があったからだったそうです。「他人のフンドシ使って儲けてる奴らが許せねえ!という意識」の方々だけじゃなく、ただ単に妬みから叩く人がいた。つまり、川上さんの見解は正しいということなんです。

いや、もしかしたら今はもう違うのかもしれません。ワタナベさんが「Web投げ銭」の提唱を行ったのは2002年の5月ですから、もう10年経っています。人々の意識が変わるには充分な月日でしょう。

今はもう、ボクと同じようにブログに自分の文章を書き、アフィリエイトを貼っている人は大勢います。堀江貴文さんの成功をきっかけとして、有料メルマガが続々と発行され今では珍しくないものになりました。

ニコニコ動画クリエイター奨励プログラムのような仕組みや、GumroadSynapse といったマイクロペイメントと呼ばれるサービスも続々と登場してきました。「Webを使って稼ぐ」という行為への抵抗感は、相当薄れてきているはずです。未だに嫌われる行為というのは、他人のフンドシを使って儲ける行為だけだと信じたい。

実はワタナベさんと全く同じ問いかけを、ピアニート公爵にもしてみたんです。

ピアニート公爵がアルバムを出されたのは去年の4月、ちょうど1年前くらいです。

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もうこの時点では、「ただの妬みに基づく嫌儲」での叩きはほとんど無くなっているとみなしていいと思うんですね。ただ、津田さんや川上さんたちは、過去の経緯を知りすぎてしまっているが故に、そのイメージで語ってしまっているのではないかと。

ちょうど出たばかりの津田さんの著書にも「嫌儲」に関する記述があるというつぶやきを見かけたので、念のため読んでみました。

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海外のネットユーザーにとって、良い記事を読んだらアドセンスをクリックして書き手にお金がいくようにするのは不文律なのです。

これ、ボクは知りませんでした。なんかそんな行為が横行していたら、アドセンの意味が薄れてしまうような気もするんですが、津田さん曰く CTR が日本と海外では段違いらしいです。「アドセンクリックみたいな、自分の懐が痛まない行為にすら抵抗がある日本人」というのが津田さんのイメージらしいです。

それが本当なら、そういう風潮を変えていけばいいと思いませんか?

「他人のフンドシ使って儲けてる奴らが許せねえ!」という意識は、変えなくてもいいと思うんです。でも、自らの手でオリジナルのコンテンツを創作している人に対しては、むしろ応援しましょうよ。

ソーシャルパトロンでも、マイクロペイメントでも、アフィリエイトでも、アドセンクリックでも……いえ、それこそツイートで拡散したりFacebookでいいね!したりGoogleで+1したりはてなでブックマークでも全然構わないと思います。何かいい文章・イラスト・音楽などと出会ったら、作者に敬意を表し、何らかの形で報いませんか?

そういう文化が育まれることによって、様々な仕組みも生きてくるのだと思うんです。

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