【書評】田中慎弥さんの「共喰い」を読んだ。

芥川賞授賞式の受け答えで一躍脚光を浴びた田中慎弥さん。ボクもニコ生で見ていて大爆笑したんですが、それに乗せられて本を買うのはちょっとなーと躊躇していました。

しかし、毎日新聞に寄稿した「言いたいこと、あの夜のこと」という文章を読んで、口で喋る言葉を聞くより活字になったものを読むほうがこの人のことは正しく理解できるだろうと判断し、本を買うことにしました。

共喰い

共喰い

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田中 慎弥

集英社

売り上げランキング: 2

毎日新聞の文章を読んで、”石原慎太郎都知事との対立”みたいな構図はマスメディアが勝手に描いた構図だというのはよく判りました。ただ、最後に書いてあることには少しだけツッコミ。

私はネットをほとんど知らないが、ブログやツイッターで言いたいことを言っているように見える日本人は、実は言いたいことを出し切れていないのかもしれない。この点を分析する能力は自分にはない。ひょっとすると、言いたいことを自由に言っている石原氏や私は、古いタイプの書き手なのだろうか。

少なくともボクが見ている範囲のネット住人たちは、わりと言いたいことを自由に言ってるように見えます。ただ、ネット上で実名を出している著名人の場合、”立場”や”地位”を守らなければならないため、言いたいことが言えなくなってる可能性はありますね。でもたぶん、そういう人の多くは”匿名”で利用できるサービスを利用して、吐き出してるんじゃないかなーと。2ちゃんねるを利用するのは若年層より中高年の方が多いような気がします。あくまで想像ですが。

さてこの本には、『共喰い』と『第三紀層の魚』の二篇が収録されています。

まず『共食い』について。わりと直球で性描写してます。父親は女を殴りながらセックスします。主人公は父親に対する嫌悪感と、その血を受け継いでいる自分の衝動への恐れを抱いています。そして、川辺の街からいつか出ていきたいと思っています。

ウナギの描写が生々しいので物語の本筋を見失いそうになるのですが、釘針で釣り上げたウナギを見て生じてしまった衝動を抑え切れなかった自分を許せず、父親と同じ道を歩みたくないという明確な意思が生まれるようになった、という少年の成長を描いた物語、という感じですかね。結末は読んでのお楽しみ。

お次は『第三紀層の魚』について。小学四年生の主人公と、もうすぐ亡くなりそうな曽祖父・祖母・母親と、こちらも釣りの話。物心ついてから身近な人が亡くなる経験というのは、その瞬間より後からじわじわと効いてくる気がします。大物釣りをきっかけに、その感情が溢れ出すという話です。

最近はSFが多かったので、純文学って久々に読んだ気がします。田中慎弥さんのあの会見からは、全く想像がつかない文章ですね。たまにはこういうのを読むのもいいかな?と思いました。年輩の方が、もう戻ることのできない少年時代を懐かしく思いだす本、って感じですかね。

[追記]

「共喰い」と「道化師の蝶」両方が全文掲載される文藝春秋3月号が発売中です。定価800円。両方ともハードカバーで買うと計2,300円なので、お得ですよ。

文藝春秋 2012年 03月号 [雑誌]

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文藝春秋 (2012-02-10)

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