ベンチャーの雄メディアドゥによる出版デジタル機構子会社化の意義

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 電子取次業界第1位の出版デジタル機構を、第2位のメディアドゥが買収したことの意味について、出版ニュース2017年5月上旬号に寄稿しました。以下、掲載時のまま、常体文章です。

業界2位が1位を買収


 メディアドゥは3月31日、出版デジタル機構を子会社化した。IR資料(※1)によると、メディアドゥの2017年2月期売上高は155億3200万円(実績)。出版デジタル機構の業績推移も公表されており、2017年3月期売上高は200億6900万円(見込)。電子取次市場でシェア2位の企業が1位の企業を買収した形であり、3位以下の企業にとっては脅威だろう。もしかしたら独占禁止法に違反するのでは? という声も散見されたが、公正取引委員会の審査は問題なく終了している。

 なぜ独占禁止法に違反しないのか? それは、電子出版市場におけるこの2社のシェアが、実はそれほど高くないからだ。2社の売上高合計は約356億円(概算なので決算期のズレは無視する)。卸売先である電子書店の販売手数料率を3割と仮定すると、小売ベースで約500億円。出版科学研究所によると2016年の電子出版市場は1909億円(※2)なので、2社のシェアは4分の1程度ということになる。


薄利多売の電子取次


 さらに細かいことを言えば、売上高にはシステム提供や開発、電子書籍制作支援事業なども含まれるため、すべてが電子出版物の流通額ではない。実際のシェアは、もう少し低いだろう。電子取次3位以下の売上高は不明だが、合計してもそれほど大きな額になるとは思えない。著者や出版社が電子取次を介さず、電子書店と直接取引している比率はそれなりに高いはずだ。

 なお、メディアドゥの2017年2月期売上総利益は、16億3700万円。売上原価138億89500万円のうち、権利者への支払いにあたる著作権料は122億4000万円。売上原価率が9割弱という、極めて薄利多売の商売だ。流通量をどれだけ増やすかが成長の鍵であり、電子出版市場を活性化させるための施策が必要とされる。


官民出資の投資ファンド・産業革新機構が大株主


 では、メディアドゥによる出版デジタル機構の子会社化には、どのような意味があるのだろうか? 出版デジタル機構は2012年に、勁草書房、講談社、光文社、集英社、小学館、新潮社、筑摩書房、版元ドットコム有限責任事業組合、文藝春秋、平凡社、有斐閣の11社を発起人として設立された企業だ(※3)。メディアドゥが買収した時点の大株主には、大日本印刷、凸版印刷、KADOKAWA、インプレスホールディングスなども名前を連ねている。

 そして今回メディアドゥは、出版デジタル機構の発行済み株式の約7割を取得したわけだが、それは財源の9割以上が税金から拠出されている官民出資の投資ファンドである産業革新機構から譲り受けたものだ。産業革新機構は2015年9月に、発行済み株式の約4割を出版デジタル機構自身に売却(約30億円減資)している。それでもなお7割以上の株式を持っていたということは、当初の持ち株比率はもっと高かったことになる。


「非競争領域」をも担う?


 産業革新機構の出資額は当初「総額150億円を上限」と発表されたが、実際の出資額は公開されていない。出版デジタル機構の決算公告によると、第1期(2013年3月期)時点の株主資本は71億2000万円(資本金39億2800万円、資本剰余金36億0400万円、利益剰余金マイナス4億1100万円)なので、それよりは少ないはず。メディアドゥによる株式取得価額は78億4000万円なので、産業革新機構としてはきちんと利潤を上げた良い投資だったと言えるだろう。

 出版デジタル機構の設立趣旨書には「電子出版ビジネスの市場拡大をサポートするための公共的なインフラとなります」と記されている(※4)。あくまで「公共」であり「公営」ではない。電気やガスなどの、公共インフラをイメージしているのだろう。経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)」にも関わっており、書誌情報や標準フォーマットなどの「非競争領域」をも担うとしていた。


民間企業なのに「民業圧迫」と批判されたビットウェイの買収


 2013年5月には凸版印刷系のビットウェイを買収統合し、電子取次事業に進出。一部から「民業圧迫」「最悪の愚策」などと批判を浴びた(※5)。その批判が妥当かどうかはともかくとして、その成り立ちからどうしても「国の援助を受けた公的企業」というイメージで見られていたのは確かだろう。

 なお、出版デジタル機構は2016年3月期に、当期純利益7億7600万円と黒字転換している。2017年3月期見込は、当期純利益11億0500万円。電子出版市場の拡大とともに成長し、利益を着実に出せる体制を整えてきた様子がうかがえる。「非競争領域」と言われると強い違和感を覚えるが、普通の営利企業として考えれば健全だ。


名古屋で創業されたベンチャー企業


 いっぽうのメディアドゥは、1999年に名古屋で創業されたベンチャー企業だ。10年前に電子取次事業を始めて以降、増収増益が続いている。2013年には「LINEマンガ」へのコンテンツ提供を開始し、成長が加速。2013年には東証マザーズ上場、2016年に東証一部へ市場変更し、調達した資金で次々と企業買収を行っている。

 メディアドゥは「LINEマンガ」や「楽天マンガ」など、電子コミックに強い電子取次だ。多くのシステムを自社開発しており、電子書店向けのサービスパッケージなどIT技術にも定評がある。逆に出版デジタル機構は、テキストコンテンツに強いとされているが、販売実績の報告が遅かったり価格変更がなかなか反映されなかったりと、技術力があるとはお世辞にも言えない。つまり、互いの強みを活かし、弱みを克服できる可能性があるのだ。


電子コミックに比してまだ小さな電子書籍・電子雑誌市場


 出版科学研究所によると、2016年の電子出版市場1909億円のうち、電子コミック市場は1460億円と4分の3以上を占めている。電子書籍は258億円、電子雑誌は191億円と、まだまだ小さな市場である。メディアドゥが出版デジタル機構を買収したのは、まさにそのテキストコンテンツ市場の拡大を図るためなのだ。本の要約記事配信を行うフライヤーを子会社化したのも、その戦略の一環だ。

 今後は、配信システム1本化による流通プロセスの合理化、新たな販売促進策、新たなビジネスモデルの創出など、テキストコンテンツの流通量を増やすための施策が今以上に行われることだろう。著者や出版社が電子書店と直接取引するより、電子取次を通したほうが手間がかからず売れる、という状態にできるかどうか。今後に注目したい。

(※1)メディアドゥIR資料
http://www.mediado.jp/ir/library/
(※2)出版科学研究所『出版月報』2017年1月号
http://www.ajpea.or.jp/book/2-1701/index.html
(※3)産業革新機構投資先情報
http://www.incj.co.jp/investment/deal_028.html
(※4)出版デジタル機構設立趣意書
http://www.pubridge.jp/wp/wp-content/uploads/2012/03/press20120329.pdf
(※5)ダイヤモン・ドオンラインの記事
http://diamond.jp/articles/-/36758

(初出:出版ニュース2017年5月上旬号