「定額読み放題サービス 出版社の活用法」を出版業界紙『新文化』2017年5月25日発行号に寄稿、完全版を公開します

『新文化』2017年5月25日発行号8面

本稿は、出版業界紙『新文化』2017年5月25日発行号に寄稿した原稿の完全版です。文字数制限でカットされた部分を復元し、横書き向けに体裁を整えてあります。以下の文体は常体です。

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本稿では、最近話題になることが多い「読み放題サービス」を、出版社がどのように活用していけばいいかについて論考する。

マーケットの現状

まず、マーケットの現状から把握しておこう。平成28年版情報通信白書(総務省)によると、2016年時点で「普段、私的な用途のために利用している端末」は、スマートフォンが60.2%、フィーチャーフォンが41.9%、タブレットが19.5%である。

年代別では、スマートフォンの利用率は20代が87.0%と最も高く、30代が73.0%、40代が60.0%、50代が54.0%、60代が35.0%と、年代が上がるごとに下がっていく。

逆にフィーチャーフォンは60代が62.0%と最も高く、年代が下がるごとに利用率も下がっていく。つまり、いわゆる「スマホシフト」は若年層ほど進んでいることがわかる。

また、インターネットの利用目的として多いのは、情報検索が88.8%、ニュースが85.6%、地図・ナビゲーションが80.4%、ネットショッピングが79.9%、動画視聴が72.9%、ソーシャルメディアが60.9%などだ。

電子書籍の利用率は全体で24.2%。年代別では、20代が38.0%、30代が32.5%、40代が21.0%、50代が22.0%、60代が12.0%。スマートフォンと同様、年代が上がるごとに利用率は下がっていく。

出版科学研究所によると、2016年の電子出版市場は、1909億円。出版市場全体からすると、まだ11.5%程度だ。ただし、電子出版市場の76.5%は電子コミックである。これは、スマートフォンの普及率が、若年層ほど高いことが理由の一つとして考えられるだろう。

定額読み放題サービスのあれこれ

さて、定額読み放題サービスは「ブックパス」「コミックシーモア」「ビューン」「タブホ」など、さまざまなサービスが展開されてきた。ただ、大きく流れが変わったのは「dマガジン」登場以降と言っていいだろう。サービス開始は2014年6月。またたくまに会員数を増やし、2017年3月末時点で363万契約にまで至っている。

2016年8月には「Kindle Unlimited」と「楽天マガジン」が、10月には子供向けの「学研図書ライブラリー」が、12月にはKADOKAWAのマンガ誌を中心とした「マガジン☆WALKER」が、そして、2017年1月には山と溪谷社が「図鑑.jp」を開始、などなど、なんでも扱う総合型から、雑誌やコミックなどジャンル特化型まで、バリエーションも豊かになってきた。

定額読み放題サービスの収益配分

定額読み放題サービスは、有料会員の数によって収益配分の原資が決まる。例えば「dマガジン」は、月額税別400円の363万契約(=14億5200万円)が原資となる。ここからドコモの取り分を引き、残りが参加誌で配分される。

配分率は、読まれた量によって決まる。つまり出版社の収益は、有料会員の多寡はもちろん、配信コンテンツの人気によっても大きく左右される。また、ライバルが多いほど、1点あたりの分け前は減る可能性が高くなる。

1点あたりの分け前があまりに少ないと、出版社としては配信する意味がない。そこでプラットフォーム側では、有料会員を増やす努力をするのと同時に、配信点数があまり多くならないようコントロールする。収益配分を考慮すると、自ずとラインアップの限界も決まると言っていい。人気コンテンツがないと、有料会員が増えづらいのがコントロールの難しいところだろう。

「dマガジン」と「Kindle Unlimited」

例えば「dマガジン」は、本稿執筆時点で180誌以上を配信しているが、雑誌全体の発行銘柄数が約3000あることを思うと、かなり配信対象は限定されている。ただし、「週刊文春」や「週刊新潮」などの人気誌が、定額読み放題サービスでは独占的に配信されている。

また、私は「Kindle Unlimited」の配信点数を毎月定点観測している(※9カ月経過時点)が、ジャンル別でも出版社別でも増減は頻繁にある。コミックは当初に比べると4200点ほど減っている。逆に、アダルトは4300点ほど増えている。

出版社別では、そもそも集英社とKADOKAWAは初めから参加していない。また、講談社は1200点以上が対象になっていたが、全点一方的に対象から外され、抗議文を発表している。小学館は850点以上が対象になっていたが、毎月のように漸減し続け本稿執筆時点では170点になっている。

出版社はどのように活用すれば?

では、出版社は定額読み放題サービスを、どのように活用すればいいのだろうか? 私は、知名度が低かったり自社で売る力が不足していたりする場合は、定額読み放題サービスを活用するのがいいと考える。

逆に、単品販売でも充分売れるコンテンツであれば、定額読み放題サービスには配信しないほうがいいだろう。それは、単品販売のほうが、収益性が高いからだ。

定額読み放題サービスは、コンテンツを読者へ届ける手段の一つに過ぎない。なるべく安売りせず、高く売れる手段を選ぶのは商売として当然のことだ。

有料会員制の記事購読サービス

さて、少し視点を変えてみよう。日経電子版や「NewsPicks」「cakes」といった有料会員制の記事購読サービスも、読み放題サービスの一種だ。中でも日経電子版の有料会員数は、54万人を超えている。直接契約であり、収益率は高いだろう。

定額読み放題サービスと、有料会員制の記事購読サービスの違いは、書籍や雑誌のようにパッケージ化されていない点のみだ。「dマガジン」は記事単位でも閲覧可能であり、実はあまり大きな違いはないと言っていいかもしれない。

図書館向け電子書籍貸出サービス

視点をもう少し変えてみよう。図書館向けにサービス展開されている「TRC-DL」「LibrariE」「OverDrive」「Maruzen eBook Library」「BookLooper」などの電子書籍貸出サービス(電子図書館)も、読み放題サービスの一種だ。

定額読み放題サービスとの違いは、対価を払うのがユーザーではなく図書館であること。ユーザーから見ると、無料の読み放題サービスなのだ。ただし、一度に借りられる人数などに制約がある。契約次第だが、同時に二人以上は借りられない場合が多い。

配信コンテンツの選択権はプラットフォーム側ではなく、図書館にある。出版社への対価は、図書館に売れた数によって決まる。つまり、図書館向け電子書籍貸出サービスは、実際には図書館向け電子書店と言っていい。

現状、大学図書館向けにはかなり普及してきたが、公共図書館への導入数は極めて少ない。出版社が図書館向けに販売を許諾しているコンテンツが、あまりに少ないのだ。電子書店向けの10分の1以下に過ぎない。電子書店と同様、ラインアップの拡充とともに普及していくであろう。

それにはまず出版社側が、売るコンテンツを供給することだ。いま図書館向けに多く売れている紙の本は、電子版でも売れるはずだ。

マンガアプリやウェブマガジン

もっと視点を変えてみよう。マンガアプリやウェブマガジンも、読み放題サービスの一種だ。

ニールセンデジタルが3月に発表したマンガアプリの利用状況によると、月間利用者数(MAU)の1位は「LINEマンガ」で279万人、2位が「comico」で260万人、3位が小学館「マンガワン」の247万人と続く。無料マンガ配信でユーザーを集めることにより、単独での収益化というより、作品認知手段としての役割が大きくなっている。

無料配信の翌日に続刊が物理書店で売れるような事例も増えており、「LINEマンガ」と物理書店のコラボ企画も始まっている。無料マンガ配信をきっかけに売れるのは新刊に限った話ではなく、過去作品の掘り起こし手段としても有望視されている。「LINEマンガ」のストアでは、既刊の販売が82%を占めているそうだ。

一般的なウェブメディアも

さらに視点を変えよう。誰でも閲覧可能である一般的なウェブメディア全般も、言ってみれば読み放題サービスの一種だ。

ウェブメディアの収益源は広告であり、収益は多くの場合PV数に比例する。そのため、ウェブメディアで稼ごうと思うとPV至上主義に陥りがちだ。その結果、煽ったタイトルでユーザーを釣ったり、制作コストを抑えるため他から盗用したりといった問題が続出している。

無料のウェブメディアと広告というビジネスモデルは、そろそろ限界だろう。

環境の変化に対応しよう

読者へコンテンツを届ける手段は多様化している。伝統的な出版手法だけで届けられる範囲には限界がある。

逆に、ウェブだけ、アプリだけというのも狭すぎる。コンテンツによって、向き不向きもあるだろう。どの手段が最も適切なのか、いろいろ試してみよう。

環境の変化に対応できなければ、恐竜のように滅びゆくのみだ。

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