ネットで氾濫する捏造・剽窃記事を出版業界は笑えるか?

Fake News

 今回は、日米でほぼ同時に起きた、ネットメディアの信頼性を揺るがす事件について論考しよう。なお、私は日本電子出版協会(JEPA)と同様、電子出版を広義に捉えているため、ネットメディアも「電子出版」の一部だと考えている。


アメリカを揺るがす捏造記事


 アメリカ大統領選挙は接戦の末、共和党のドナルド・トランプ氏が当選した。トランプ氏は差別発言が多く、事前の世論調査ではヒラリー・クリントン氏の優勢が伝えられていた。そのため、なぜこういう結果になったのか、さまざまな分析が行われている。いわゆる犯人捜しだ。

 そんな中、FacebookやGoogleなどのIT企業に批判が集まった。選挙期間中、例えば「ローマ法王がトランプ氏を支持」といった事実無根の捏造ニュースが、Facebookのトレンド(※日本向けには提供されていない機能)に表示されたり、Googleの検索結果一覧の上位に表示されたりしていた。それが選挙結果にも影響を与えたに違いない、というわけだ。

 Facebookは少し前に、トレンドへの記事選出を、人間からアルゴリズムに切り替えている。その直後から、捏造ニュースがトレンドへ頻繁に載るようになってしまったようだ。Googleの検索結果順位もアルゴリズムによって決定されているが、やはり捏造記事が上位表示されてしまうことがある。

 機械学習だのディープラーニングだのと、最近は人工知能がブームのようになっているが、高速に大量のデータを処理することは得意でも、高度な判断を要する部分ではまだ人間の能力のほうが上のようだ。


捏造記事はなぜ生み出されるのか?


 ところで、こういった捏造記事は、なぜ生みだされるのだろうか? それは、扇情的な記事はアクセスされやすく、手軽に広告収益が得られるからだ。BuzzFeed Newsによると、選挙期間中に捏造記事を量産していたメディアの一つに、アメリカ大統領選とは無関係な、マケドニアの若者が立ち上げたものがあったという。トランプ氏の支持者向けに捏造記事を書くと、数十万回とシェアされ、面白いように広告売上が稼げたらしい。

 もちろんこれはマケドニアに限った話ではなく、アメリカ国内にも同様の手口で荒稼ぎしたサイト運営者が存在する。BuzzFeed Newsの「稼げるなら、やっちまえ」「誰もファクトチェックしない」という見出しに、私は暗澹たる気分になった。

 FacebookもGoogleも選挙後、こういった捏造記事には広告を掲載しないなどの対策を打ち出した。恐らく、一時的には効果が出ると思うが、抜本的な対策は難しいだろう。例えば、Googleの検索アルゴリズムチームは昔から、検索エンジン最適化(SEO)と称したブラックハットと戦い続けている。対策するとその裏をかく、また対策するとさらにその裏をかくという、イタチごっこがずっと続いているのだ。


日本でもほぼ同時に発生したキュレーションサービス問題


 アメリカでこういった捏造記事の問題が話題になったのとほぼ同じタイミングで、日本でも「キュレーションサイト」や「まとめサイト」などと呼ばれているメディアの問題が勃発した。発端は、DeNAが運営している「WELQ」という医療系情報サイトだ。

 あまりに情報がいいかげんで薬機法に違反するのではという指摘と、「リライト」や「引用」という名目で他のサイトに掲載された情報を剽窃して記事を量産しているという指摘で、最終的にはDeNAが運営する全メディアの全記事が非公開に追い込まれるほどの大炎上になった。

 一般的には、編集責任のあるニュースメディアではなく、不特定多数からの投稿を受け付けるプラットフォームだから、というのがこういったサイトが免責される理由になっている。

 プロバイダ責任制限法によって、権利侵害などの事実があったとしても、運営側がその事実を知らなければ賠償責任は負わないのだ。投稿者の情報開示請求に応じたり、削除依頼があれば投稿者へ知らせ一定期間後に削除したりといった対応を行えばいい。


実態は「キュレーション」ではなく「発注」だった


 ところが実際には、DeNA自身がクラウドワークスやランサーズといったクラウドソーシングサービスなどを利用して記事を発注し、他サイト掲載情報の語尾を言い替えるなどの「リライト」方法を具体的に指示していたのだという。

 当然のことながら、引用であれば出典明示や主従関係などの要件を満たす必要があるし、書き替えなら引用ではないし、書き替えた表現が換骨奪胎できていなければ剽窃だ。発注した上で原稿の書き方にも口出しをしていたのだから、「権利侵害の事実を知らなかった」と責任を逃れることは難しいだろう。

 また、クラウドソーシングサービスでの記事発注額は1文字1円未満のものが大半であり、まともに書いていたらとても無理だから剽窃が蔓延する、という要因もあったようだ。他にも、真偽のほどは不明だが、剽窃記事を自動生成するボットの存在まで噂されている。

 DeNAからの延焼を防ぐためか、ヤフー、サイバーエージェント、リクルートなどが運営しているキュレーションサイトでも、一部の記事を削除するなどの対応に追われている。LINEが運営する「NAVERまとめ」は、投稿コンテンツの質を向上するためのチェック体制強化や投稿者のランク付けといった対策を行っていくと発表した。ここまで騒ぎが大きくなると、襟を正さざるを得ないといったところか。


ネットメディアに限った問題ではない


 なお、冒頭で「ネットメディアの信頼性を揺るがす」という書き方をしたが、この問題を最初に追及し始めたのは個人ブログやネットメディアだったことも指摘しておくべきだろう。あたかもネットメディア全体が悪いかのような印象を持ってしまいがちだが、同じネットメディアでも真面目なところもあればいいかげんなところもあるということだ。

 新聞だって、大手の一般紙もあれば、「日付以外信用してはいけない」と揶揄されるようなスポーツ紙もある。商業出版でも、ネットに投稿されている写真を剽窃して本にしてしまった事例はゴロゴロしている。週刊誌にも、酷い捏造記事が載ることがある。決して他人ごとのように「これがネットの現実」と笑ってはいられない。

 ただ、私は決して悲観していない。デジタル化で複製が容易になり、ネットワーク化によって簡単に拡散されるようになったのは確かだ。コンテンツが物理メディアだけで流通していた時代に比べると、剽窃の件数は飛躍的に増えたことだろう。しかし同時に、デジタル・ネットワーク上だからこそ、その行いは可視化され、検証も素早く行われているに違いないのだ。

 アナログでの剽窃は、リーチする範囲が発行部数によって物理的に左右されるため、発見される可能性がデジタル・ネットワーク上にある情報に比べると相対的に低く、発見後に比較検証するのも大変だったはずだ。そう考えると、テクノロジーの進歩によって世の中は健全な方向へ進んでいるに違いない。そう私は信じている。

(初出:出版ニュース2017年1月上・中旬号