2016年4月18日月曜日

初日に目標額突破した『超訳コスギの言葉』改訂版のクラウドファンディング企画について話を伺ってきた


出版+クラウドファンディング(群衆[crowd]からの資金調達[funding])で、プロジェクト公開初日に目標額を突破したという話を聞いて、版元の担当者に話を伺ってきました(※約4000字あります)。



話を伺ったのは、ビジネス書に特化した出版社であるクロスメディア・パブリッシング書籍編集部の吉田倫哉さんです。

クロスメディア・パブリッシングの編集者・吉田倫哉さん

吉田さんが写真で持っている『超訳 コスギの言葉』の改訂版を出版するための資金調達をするのが、今回のクラウドファンディングの目的です。実は吉田さんは、この本の著者である慶應義塾大学 小杉俊哉先生の授業の履修生だった、という縁があったそうです。


小杉俊哉さんは、NEC、マッキンゼー、アップルなど実業界で活躍したのち、慶應SFCで教鞭をふるっていたそうです(2016年3月で退任)。単位にならない自主ゼミなのに超人気で、定員に対する履修希望者が毎年3~4倍だったというから凄い。主な著書に『起業家のように企業で働く』などがあります。


もとはゼミ生が作った本


面白いことに、このクラウドファンディングのプロジェクトは、慶應義塾大学 小杉俊哉ゼミの現役学生・本多耕太朗さんが代表をつとめており、版元のクロスメディア・パブリッシングは完全に裏方に徹しています。


Makuake(マクアケ)のページにも、クロスメディア・パブリッシングの名前は出ていません。あくまで主体は学生なのです。というのが、実はそもそも『超訳 コスギの言葉』初版は、2015年春にゼミを卒業する学生へのサプライズプレゼントとして作られたものなのだとか。

タイトルは『超訳 ニーチェの言葉』インスパイアですね。


小杉さんが企業研修などでその本を見せたところ「欲しい!」という声が多かったため、吉田さんに「なんとかならない?」という相談が持ちかけられたそうです。


プリントオンデマンドと電子書籍


ここでまず登場するのが、インプレスR&Dの「NextPublishing」です。つまり、1部からでも注文可能な「プリントオンデマンド」と「電子書籍」による出版で、ニーズを満たすことにしたのです。


取次・書店流通で出版しようと思うと、どうしても最低数千部が必要となります。初期コストと、過去の類似本から予測される販売部数次第で、出版できるかどうかが決まります。「類似本がない」とか「あまり売れなさそう」と予測された企画は、通らないのが実情です。

ところが NextPublishing のようなプリントオンデマンド+電子書籍なら、類似本により少部数と予測されたり、販売部数が予測できないチャレンジングな企画であっても、損益分岐点が非常に低くリスクが少ないため出版できます。要は、まずは「試す」ことが可能なのです。

そして、クロスメディア・パブリッシングが実際に NextPublishing を使って出版してみたところ、プリントオンデマンド+電子書籍で数百部という予測をしていた企画が、クチコミによってどんどん売れて数千部まで伸びたような事例もあるそうです。

もちろんすべての本が売れるわけではないでしょう。しかし、取次・書店流通では「試す」のが難しい企画でも、プリントオンデマンド+電子書籍なら低リスクで「試す」ことができる、ということなのです。

これは、初めから取次・書店流通で出版する従来の手法と、ウェブでいきなり無料公開する「ウェブ小説」「ウェブコミック」「ブログ」などとの、中間にあるやり方だと言えるでしょう。



「同じゼミの出身者」というコミュニティがもともとある


ただ、NextPublishing 版の『超訳 コスギの言葉』は、実は思ったほど売れていないそうです。PR戦略を練り直そうという話の中で、クラウドファンディングを使ってみてはどうか? というアイデアが出てきます。

この本には既に、慶應義塾大学 小杉俊哉ゼミの出身者という人の繋がりがあります。もともとコミュニティがある状態からのスタートで、そこからどう拡大していくか? という企画なら、クラウドファンディングが適しているのでは、という話になったのです。

リターン(出資者への返礼・他社ではリワード/Reward=報酬と呼ぶ場合も多い)も、ミニマムは改訂版の本そのものから、講演会、ゼミへの特別参加など、いろいろ考えられます。そして、講演会やゼミなら、参加者がレポートしてくれて、結果的にまた本の宣伝に繋がるかもしれません。

つまり、本が出る前の仕掛け(クラウドファンディング)と、本が出た後の仕掛け(イベント)がスムーズに繋がること。そして、本の購買というより、人の繋がり=コミュニティの広がりが見込めることが、クラウドファンディングを利用する決定打になったそうです。


目標達成しなくてもリターンがもらえるタイプのCF


慶応大人気講師が教室では教えなかった5つのこと「超訳 コスギの言葉」』プロジェクトが利用しているサイバーエージェントのクラウドファンディング「Makuake(マクアケ)」には、目標金額を達成したらプロジェクトが実施される「All or Nothing」と、目標達成しなくてもリターンがもらえる「All in」の、2つのコースがあります。

Makuake(マクアケ)について

『慶応大人気講師が教室では教えなかった5つのこと「超訳 コスギの言葉」』プロジェクトは、実行すること自体は確定していたので「All in」を選択しています。

目標額も、赤字にならない程度の低い額(10万円)に設定したそうです。プロジェクト公開初日に目標額を突破したのは、そういう理由だったのですね。とはいえ本講執筆時点(4月17日)で支援者数は77人、30万円強が集まっており、目標額がもっと高くても達成したのは間違いないでしょう。

リターンの詳細と支援者数は以下のとおり。1人あたりの支援額平均は約4000円。金額的には1万円コースと2万5000円コースの13人で、全体の半分以上を占めている形になります。


他の事例では「10万円」「50万円」「100万円」みたいな超高額コースを用意して「一気に稼ぐ」パターンをよく見かけるので、このプロジェクトは比較的広く浅く堅実に募っているような印象です。「コミュニティを広げたい」という思いから、このような設定になったのでしょう。


他社の事例は


米の Kickstarter は、2012年にカテゴリー別の詳細な数字を公開しています。1人あたり出資額は、Publishing が5420円、comic が4854円。支援者数は、Publishing が158人、comic が327人。支援額平均は、Publishing が約85万円、comic が約160万円でした(※いずれも当時の為替レート1ドル93円計算)。

同じ時期に私は、日本の Campfire で、出版プロジェクトの実態を調査しています。こちらの1人あたり出資額は約7000円、支援者数は平均108人、支援額平均は59万円でした(※当時)。

詳細にチェックすると、5000円以下の比較的安価なリワードは、人数は8割だけど金額では3分の1程度。支援額の半分は、1割の人が払っている、という実態がわかりました。また、500円くらいの低額リワードで、「お礼のメッセージ」といった実質見返りのないものは、ほとんど出資されないこともわかりました。

調査を終えて私は、「群衆[crowd]からの資金調達[funding]」というネーミングから受ける印象と、実態はかなり違うのだなと思った記憶があります。この調査を行ってからもう4年も経っているので、いまはどうなっているかわかりません。

ただ、『慶応大人気講師が教室では教えなかった5つのこと「超訳 コスギの言葉」』プロジェクトの数字も、比較的高額なコースが全体の出資額を支える形になっているので、クラウドファンディングという仕組みの実態は、たぶんいまでもそれほど変わっていないのではないかな? と思いました。


プロジェクト終了まであとわずか


クロスメディア・パブリッシングの吉田さんに話を伺っていて印象的だったのは、「普通の著者には提案しづらい」という話。普通の著者の場合、書店に自分の本が並ぶことが最大のプライオリティなので、出版前に結果が見えてしまうクラウドファンディングのような仕組みは、怖がられてしまうのだとか。逆に、超有名な著者で、出す前から売れることがある程度読めているような場合は、わざわざクラウドファンディングを利用する必要もない、ということに。

そういう意味でこの『慶応大人気講師が教室では教えなかった5つのこと「超訳 コスギの言葉」』は、もとは学生といっしょに作った本だから、超有名というわけではないけどある程度の規模のコミュニティがあったからこそ、実現できたプロジェクトなのだ、ということを吉田さんは仰ってました。クラウドファンディングをまったくの無名な著者が成功させるのは難しい、ということなのでしょう。

大学出版など、専門性が高く、コミュニティ(人の繋がり)がある程度形成されているような場合は、クラウドファンディングが向いている、という気がします。中小規模の出版プロジェクトで、もっと活用されるといいですね。

なお、この『慶応大人気講師が教室では教えなかった5つのこと「超訳 コスギの言葉」』プロジェクトの支援者募集は4月27日までです。販売予定価格1296円(税込)の本が1200円(税込)で買えるというお得な感じになっているので、興味がある方はプロジェクトのページを確認してみてください。



(※なお、この記事の執筆による金銭や物品の授受は一切発生していません)

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