仲俣暁生×加藤貞顕×今井雄紀「これからの編集」公開シンポジウム in 大正大学に行ってきた

大正大学出版・編集コース公開シンポジウム「これからの編集」

12月16日に大正大学表現文化学科 出版・編集コースが開催した「これからの編集」をテーマとした公開シンポジウムへ行ってきました。登壇者は「マガジン航」主宰・仲俣暁生さん、「cakes」「note」の加藤貞顕さん、星海社「ジセダイ」編集長・今井雄紀さんです。ざっくりレポートさせていただきます。

会場は大正大学3号館。JR板橋駅から徒歩10分くらい。誰でも入れる公開シンポジウムとはいえ、平日の昼間開催なので、やはり聴講者のメインは学生でした。100人以上いたんじゃないかな。

大正大学3号館

60年代・70年代・80年代

登壇者のキャスティングは大正大学の大島一夫教授です。

大島一夫教授

大島一夫教授

仲俣さんは1960年代生まれ、加藤さんは1970年代生まれ、今井さんは1980年代生まれと、見事に世代が違います。大島さんはたぶん1950年代。

仲俣暁生×加藤貞顕×今井雄紀

左から今井雄紀さん、加藤貞顕さん、仲俣暁生さん

仲俣さんは、今年から大正大学で客員教授として教鞭をふるっている関係で。加藤さんは最初の勤め先・アスキーでの最初の上司が大島さんだった、という縁。今井さんはどういう縁だったのか分からなかったのですが、“「セルゲームに、なんでヤムチャ出てんの!?」みたいなメンツ”と自嘲していました。大正大学から徒歩10分のところに住んでいるそうです。

仲俣暁生さん

仲俣暁生さん

仲俣暁生さん

「マガジン航」とボイジャー

まず仲俣さんから「マガジン航」と、その後ろ盾だったボイジャーについて、現在「Romancer」で公開されている「エキスパンドブック」のユーザーマニュアル冒頭に付された前書き(1995年当時に書かれたもの)などが紹介されました。出版の世界に足を踏み入れたことについて、「大学行かずに編プロで働いたのが運の尽きでした」と笑ってました。

加藤貞顕さん

加藤貞顕さん

加藤貞顕さん

アスキー・ダイヤモンド時代

続いて加藤さんから、これまでの経歴と「cakes」「note」について説明。アスキーには2000年入社。アスキーが潰れかけて、プロ経営者が乗り込んであっという間に再建して、KADOKAWAに売却というのを目の当たりにしたそうです。

アスキーで作った『英語耳』が売れて単行本をやりたいと思ったこと、アスキーが退職金前払い制度を始めるのをきっかけに金融に興味が湧きめちゃくちゃ勉強したこと、そのころたまたま募集していたダイヤモンドに転職したことなど、私(鷹野)があまり知らなかった加藤氏の過去が語られました。

ダイヤモンドへ転職したころはパソコン雑誌がものすごい勢いで売れなくなっていったころだったので、「アスキーに残った大島さんはその後苦労されたと思います」なんて笑ってました。パソコン雑誌は、いまの雑誌不況を一足先に経験しているのですね。

ダイヤモンド社には結局5年くらいいたのですが、本もだんだん売れなくなっていてこのままだときつい。『もしドラ』で電子書籍もやったけど、思ったほど売れない。出版市場はシュリンクして、椅子取りゲーム状態になっていく。楽しくない。広がってるところでやりたい。そういう思いが加藤さんをピースオブケイクの起業に向かわせたそうです。

テクノロジーと編集力でクリエイターが活躍できる市場を

加藤氏は、出版社がいろんな他のビジネスに押されて苦しくなるのは「ビジネス」だから仕方がないけど、それでクリエイターが食えなくなってしまうようでは面白くない、と思ったそうです。コンテンツビジネスのやり方は変わっていくだろう、と。ただ、そこには2つの問題があると感じているそうです。

  1. 電子書籍が伸びても、紙の代替にならない

    (音楽業界と同じで、代替できるほどは伸びない)

  2. ウェブの広告では、十分な収益を上げられない

    (アドテクではPV単価0.1円、純広で1円、ネイティブアドでも2円)

ではどうすればいいのか?

どう解決する? BとC両方からお金を受け取れる流れを作る!

BとC両方からお金を受け取れる流れを作ることだと加藤さんは言います。実は新聞や雑誌など既存のメディアはこれを既にやってるんですよね、と。Bからは広告で。Cからは個別課金、物販、イベント、アフィリエイトといった手段。

成功しているメディアの事例として「ほぼ日刊イトイ新聞」「北欧、暮らしの道具店」「日本経済新聞デジタル版」を挙げました。

コンテンツでコミュニティを作り、コミュニティにモノを売る。それはユーザーにとって、コミュニティへ参加する「体験」を買っているようなものだと。昔は雑誌がそれをやってたので、ウェブもいずれそうなっていくだろう、と加藤さんは言います。

「cakes」上位の書き手は雑誌の原稿料を超えている

「cakes」は雑誌的なメディアです。「cakes」で連載した記事を本にする、本の中身を「cakes」で連載する、といった形で、いまでは出版社50社くらいと一緒にやっているとのこと。

課金売上の60%はクリエイターやコンテンツホルダーに、ページビューに応じて自動配分しており、上位の書き手の収入は雑誌の原稿料水準を超えるほどになってきているとか。結構稼げるようになってきているそうです。

だから、フリーの編集者は「cakes」を利用し連載してから本を出す、みたいなことをやって欲しいとのことでした。スライドには「雑誌の再発明」と書いてありました。なるほど。

「note」は「本」

「cakes」が雑誌なら、「note」は「本」だと加藤さんは言います。雑誌は出会いの場でありコミュニティ的だけど、単行本は個人のメディアだ、と。インターネットにおける「本」を目指すというところで、簡単にコンテンツを販売できるようにしています。

アマチュアには登竜門に(山本さほ氏『岡崎に捧ぐ』など)。プロにはホームグランドに(くるり公式・平野啓一郎氏など)。他にも、コルク×cakesコラボでマンガコンテストをやっている事例などを紹介しました。

2015年1月27日のJEPAセミナーレポートを参考に貼っておきます。

今井雄紀さん

今井雄紀さん

今井雄紀さん

フリーになって給料半分に

最後に、3人の中で一番若手の今井雄紀さん。やってることが破天荒なので、学生ウケは一番良かったように思います。龍谷大学を卒業して、リクルート関係会社に就職。その後フリーになったら、給料が半分になったそうです。2012年5月からは星海社に「合流」しています。

なぜ「合流」かというと、星海社は正社員がおらず全員がフリーランスという変わった会社だからとのこと。知らなかった。講談社の100%子会社で、社長・副社長は講談社から出向の形になっているのですね。

いまは「ジセダイ」の編集長をやっており、ここ半年くらいニコ生で「会いにいける編集長」という企画をやっていたそうです。出版社の「持ち込み」文化は効率が悪いシステムなので、気軽に持ち込んでもらうのはオンラインだろ! というコンセプト。

ノンフィクションを書く方は本業が他にある場合が多いので、東京近郊にいないことも多いようですね。そこでスカイプの番号を公開して放送し、企画を電話で受け付けたそうです。だいたいやんわり断っていたそうですが。

「バカでもできる編集」

大正大学も龍谷大学も、出版業界の平均からすると偏差値がめちゃくちゃ低いので、新卒正社員で入社するのはとても苦労すると思う、と今井さん。東大・京大・早稲田・慶応・上智、最低でもMARCHクラスがゴロゴロしているよ、と。

ただし「やりようはある」と希望を与えます。インターン募集とか、アルバイト募集など、入り口はたくさんあるのだから、出版業界に片足突っ込むのは、その気になれば明日からでもできるのだと。今井さんは自分の体験から「バカでも編集」という指南をします。

バカでも編集

バカのためその1.すごい人に近づく

「超一流」に囲まれれば、二流くらいにはなれるのだから、とにかくすごい人に近付こう! というわけです。これは私(鷹野)もやってました。今井さん曰く、近づくにも3つの段階があるそうです。

  • 追う
  • よく見る
  • 近づく

Twitterなどですごい人の発言を追いかけ、自社メディア以外で褒めてる記事をチェックしたり、周囲から話を聞いてみたり、すごい人が誰を追いかけてるかを調べたり。要するに、近づく準備をする、ということです。私(鷹野)はあとは、とにかく臆さないことが大切だと思います。

バカのためその2.名刺になる企画をつくる

担当している『女の友情と筋肉』の新刊が校了したとき、シャレで担当がRTの数だけ腹筋しますハッシュタグを付けたら、916回リツイートされたそうです。そこで腹筋している動画を2日に1回公開しているとか。なお、筋肉を鍛えるには「超回復」のため2日に1回が良いのだ! とも言ってました。

あとは中川淳一郎さんとの全裸対談。なんでも、草彅剛が裸になってつかまった直後に、中川さんと『ウェブはバカと暇人のもの』の編集担当者で「赤裸々対談」というのをやったそうです。

今井さんが『夢、死ね!』の担当になったとき、中川さんが「師匠を超えたくない? ウェブでやったら一生残るぜ」とたきつけられ、いくらなんでも会社が止めるだろうと思ったら太田克史さんから「ぜひやれ!」と言われ実現した企画だそうです。

対談自体がめちゃくちゃおもしろいので拡散して、「写真がなかったらもっとよかったのに」と言われたとか、Facebookで通報されたとか、まーハチャメチャです。「ジセダイ」で一番読まれている記事とのこと。

バカのためその3.学歴<実績

要するに、出版業界は実績がすべての世界なので、実績つくっちゃえば学歴なんか関係ない、という話。新卒フリーランスは厳しい道かもしれないけど、よかったら星海社に応募してください、と話を締めました。

ディスカッションなど

ディスカッションで興味深かったのが、加藤さんが電子書籍に再び興味を示し始めたという話。Kindleの担当者からいろいろ話を聞いて、面白いと思ったそうです。新書のような「ワンテーマで短く安い」パッケージは、電子書籍だとやりやすいのではないか、と。紙の本は無理やりツカを足してる場合もあり、ほんとは50ページくらいでいい本がいっぱいある、とぶっちゃけてました。

他にも、加藤さんが企画する時には「何人買うかな?」って高校の同級生を具体的に思い浮かべるようにしているとか、今井さんは月に1回くらいいままでやったことないことをやってみるようにして見聞を広げている、といった話が面白かったです。

あとは学生向けに、ウェブ業界ならいまは即戦力だからすぐ成長できるとか、出版社でも雑誌は経験できる企画の量が書籍より圧倒的に多いからオススメ(たくさん失敗すればいい!)とか、いろんなアドバイスもしていました。たくさん刺激受けただろうなあ。うらやましい。

なお、会場の前には出版・編集コースの学生が制作した雑誌が展示されていました。Adobe InDesignを使って、かなりしっかりした雑誌を作り込んでますね。

出版・編集コースの学生が制作した雑誌

左側の「EUNIK」には、なぜか私(鷹野)のインタビューが載っていたりします。日本独立作家同盟のウェブサイト経由で、問い合わせをいただいたという縁です。その節はお世話になりました。

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