2014年1月13日月曜日

内沼晋太郎さん×仲俣暁生さん×小林浩さんのトークイベント「逆襲する本のために」へ行ってきた #本の逆襲

「本の逆襲」著者の内沼晋太郎さん

2013年12月11日に下北沢の『本屋 B&B』で行われた、『本の逆襲』アイデアインク(朝日出版社)刊行記念トークイベント「逆襲する本のために」へ行ってきました。出演は、『本の逆襲』の著者で『本屋 B&B』経営者の内沼晋太郎さん、『マガジン航』編集人の仲俣暁生さん、人文系出版社『月曜社』の小林浩さんです。

イベントのレポートは、内沼さんが編集長を務める「DOTPLACE」から全文書き起こしが出ていますので、詳しくはそちらをご参照下さい。ここでは、トークイベントを聞いた感想・意見などを書き連ねてみます。



そもそも『本屋 B&B』って何?


B&B は、Book & Beer の略で、ビールが飲める本屋さんです。2012年7月20日にオープンしたどこの系列でもない "新刊書店" で、毎日必ず何かのイベントをやっているというのも特徴の一つです。



下北沢の路地裏にあるビルの狭い階段を上がっていった2Fにあり、初めて行く人は「本当にここでいいんだろうか?」と迷うのではないかと思います。ボクは迷いました。炭火焼き八剣伝の上です。

店内に入ると小洒落た書棚に本が並んでいるのですが、なんとこの書棚も売り物というユニークさ。オープンから1年半経っていますが、きっちり黒字を出しているそうです。詳しくは、オープン当時のインタビュー記事をご覧いただくといいと思います。



『本の逆襲』ってどんな本?


本の逆襲: 10 (アイデアインク)
朝日出版社 (2013-12-12)
売り上げランキング: 1,337

出版業界の未来は暗いかもしれないが、本の未来は明るい。本はインターネットもスマホもSNSもイベントも、すべてのコンテンツとコミュニケーションを飲み込んで、その形を拡張していく。「本と人との出会い」を作る型破りなプロジェクトを次々と立ち上げ、話題の新刊書店、下北沢「B&B」でメディアとしての本屋を実験する若きブック・コーディネイターが、新しい本の可能性を指し示す。形が見えないからこそ、明日の本も本屋も面白い。
本の逆襲』内容紹介文より

トークイベントはこの『本の逆襲』の発売日に行われたのですが、仲俣さんと小林さんは事前に献本され既に読んでおり、内沼さんはこの二人から「この本を読んだ忌憚のない意見が聞きたい」ということでイベントにお呼びしたそうです。

ボクはイベント後に読んだのですが、最後の節に書いてある批判が痛快でした。

『本の逆襲』という本書のタイトルは、ベストセラーとなった『誰が「本」を殺すのか』や『電子書籍の衝撃』といった、ネガティブな言葉で煽りを効かせたタイトルへのアンチテーゼでもあります。大家を前にして恐れ多いですが、こうした本が人々から「本屋」であろうとすることを遠ざけた罪は、わりと重いのではないでしょうか。売上が下がるのを業界や読者のせいにして、できるはずの努力や工夫を何もせずに、飲み屋で「出版業界は斜陽産業だ」などとつぶやいてきた大人たちも同罪です。暗いのはあなたの未来だけです。どうか本の未来まで巻き込まないでください。

これが堂々と書ける(言える)のは、内沼さんが本を売るためにさまざまな工夫を実践し続け、結果を出しているからでしょう。


「言行一致」が当たり前



トークイベントで、仲俣さんから「内沼さんは『やる』ということと『書く』ということが常に一致していますよね」と言われ、内沼さんは「動いてから書いているので、『言行一致』になるのはある意味当たり前なんです」と答えます。

ボクがその昔、勤め人だったころ、お世話になった上司から「できない理屈ばかり並べて偉ぶってるんじゃねぇ!」と怒られたことを思い出しました。「とにかくまず動いてみる」というのは、なかなか簡単なことではありません。


「本屋」と「書店」は違う


月曜社 小林浩さん

小林さんからは、本書の最後に書かれている「あなたも本屋に!」というフレーズがすごく面白かったという感想が述べられます。内沼さんは「本屋」と「書店」という2つの言葉を、明確に使い分けているのです。

これはもともと、鳥取の定有堂書店という本屋さんの店主である、奈良敏行さんがおっしゃっていた言葉なのだとか。

『書店』というのは、本という商品を扱い、陳列してある空間のこと。広ければ広いほどいいし、それに合わせてサービスの質を向上させていくもの。対して『本屋』というのは人のことだ

本好きな人というのは、自分という存在への関心が高い人なので、出会った本について人と語り合いたくなるものです。『本屋』というのはその媒介者であり、『本屋』という生き方が楽しい

つまり、読み聞かせをする人も本屋だし、ブログで書評をする人も本屋だというのです。余談ですが、イケダハヤト氏は自身のブログに「イケハヤ書店」という名前をつけていますが、奈良さんや内沼さんの定義からすると「本屋イケハヤ堂」といった名前の方がふさわしいのかもしれません。


僕がやってきたことって「外商」だったんだと後から気づいた


小林さんから、書店には「店売」と「外売」があり、内沼さんのブックコーディネーターは外商的だという指摘がありました。でも、内沼さんは「外商の仕事をやろう」と思ったわけではないはずだ、と。もともと外商をやってた人は、内沼さんのやっていることを見て「あ! あっちの方がお金あるじゃん!!」みたいに感じていると。

内沼さんは、ブックコーディネーターとしてやってきたことが外商だったというのは、後から気づいたそうです。ただ、書店の外商との大きな違いは、外商は本を売って稼ぐけど、内沼さんは本を並べた時の雰囲気やメッセージ性といった「提案」でフィーを貰っている点です。

仲俣さんはそれを受けて、「本を売ったお金の2割くらいのマージンだけじゃやっていけないなら、それ以外の 『どうやって本を読者に媒介するか』というサービスの部分でもお金を取るべきだ」と言います。

これは大原ケイさんがブログ「Books and the City」に書いた、「ドイツの出版事情」にも通じるところがあるように思いました。

ドイツだと編集者はもちろんのこと、書店員も「プロ」なので、プロとして当然の給料をもらい、規定以上の労働をしない。小さな村の小さな本屋さんでも、多くは大学で「ブックセラー学」を極めた専門家(女性に人気の職業)なので、本に関する知識がハンパなく、お客様にピッタリの本をお薦めする時には1冊5ユーロぐらいの「コンサル料」をとる。そして大学を出ただけではダメで、実際に3年apprentice(インターンシップみたいなもの)を積んで、書籍販売の歴史や流通経済を学ばなければプロの書店員になれない。

日本で、消費者がこういう「サービス」に喜んでお金を払うようになる日がくるかどうか。家電量販店では、店員を長時間拘束して細かな説明させた上で、Amazonで通販するような人もいるみたいですし……。


紀伊國屋書店は「ほんのまくら」フェアをなぜ全店で展開しないのか


本の中の一節を書いたブックカバーを付けて販売するという試みは、内沼さんがヴィレッジヴァンガードに提案して実施されたものですが、紀伊國屋書店新宿本店でもそれを真似て「ほんのまくら」フェアというのを開催しています。内沼さんは、真似られたことに関しては全然気にしていないけど、なぜ盛況なのに全店舗で展開しないのか? というのは、紀伊國屋書店の担当者に尋ねたそうです。

地方の書店は人出が足らないので、毎日入荷する新刊をさばき在庫を返品する作業をするだけでも手一杯という事情はありそうです。だから、実験的なプロジェクトは、本店のようにある程度人員に余裕があるところでしか実施されない場合が多いようです。ただ、内沼さん的には「長期的に複数店でやっても売れるし、採算ラインが十分に見える企画だと思っていたので、一発の花火でやめちゃうのはもったいない」と感じているそうです。


Amazonを批判するのに、ついついAmazonで買ってしまう矛盾


仲俣さんから「内沼さんの重心ってどこ?」と問われ、内沼さんは「読者の都合」だと答えます。ここに小林さんが「出版社は本が売れなきゃ困るから、読者の都合はびっくりするほど最優先してますよ」と食いつきます。

内沼さんが本の中で出版社を批判しているのは、例えば「自炊代行業者」に対する姿勢です。読者にとって便利なサービスで、お金を払ってわざわざ電子化したい人はすごい本読みなのに、なぜそれを妨げようとするのか、と。もちろん、出版社にもいろいろあるから、一口でいうのは乱暴だけど、あれに反対しているのは主に出版社だと思う、という見解を述べます。

対する小林さんは、反対しているのはむしろ著者の側ではないか? と反論します。仲俣さんは、業界の人は自己矛盾に気づきにくいのだと指摘します。Amazonを批判しながら、ついついAmazonで買ってしまう矛盾。図書館でガンガンコピーしてしまう矛盾。仲俣さん自身も、歩いて5分の場所にB&Bがあるのに、ついついAmazonで買ってしまうそうです。

小林さんは、なおも「出版社がどうこうより、著作権を守りたいのは著者だ」と反論します。内沼さんの言った理想は、市場が変わっていくことによって成り立つし、恐らく著作権法や社会の形態も変わっていくはず。だけど、一朝一夕には変わらないのだと言います。

内沼さんは、本来著者は著作を書く人なのだから、ほんとは本を書くことに集中したいはずだと言います。例えば佐渡島氏の「コルク」のようにエージェント業をやる人が現れ、著作権を預かる契約を結んでいます。だから、版元が著作権にいちばん理解を示すべきで、エージェントや出版社がいちばん先見の明を持ってなきゃいけないのに、そういう人たちがいっしょになって「自炊代行業者」に反対しているのはおかしいと。

ここで仲俣さんが小林さんに「月曜社の著者で、ブックスキャンのこと気にしてる人いる? いないでしょ?」と尋ねます。「確かに」と答える小林さん。仲俣さんは、著者が欲しいのは著作権ではなく、読者とお金と、できれば尊敬だと指摘します。著作権がそのために役立つのであれば、推進したいといいます。

仲俣さんは、出版社は「自社の利益の最大化」と「著者の利益の最大化」という、相反する立場を内包していると指摘します。だから「利益を優先」するのではなく「都合を優先」することが大切なのではないか、と。この辺りの話は、いろいろ考えさせられます。


本にはいろんなバリエーションがあっていい


内沼さんが「よくないな」と思うのは、「本」とひとくくりにしてしまうことだそうです。本の売り方はその内容によってぜんぜん違うのだから、「この本」を売るためにはどうしたらいいか? を考えなければいけないと。広告代理店がやることというのは手法が決まってたけど、本は中身がいろいろだから1つ1つ売り方が違うはずなのに、それを考える人があまりいないといいます。

小林さんは、それは基本的には営業や販売促進の人がやることだ、といいます。『本の逆襲』の中で内沼さんが「本はいろんな形態があっていい」と書いていたけど、月曜社にはそれが難しいのだと嘆きます。

ジョン・サリス (著) 『翻訳について (叢書エクリチュールの冒険)』を持つ小林さん

翻訳について (叢書エクリチュールの冒険)
ジョン・サリス John Sallis
月曜社
売り上げランキング: 150,743

(Amazonに書影が入っていない……)

月曜社がつい先日発行した、ジョン・サリス(著)『翻訳について (叢書エクリチュールの冒険)』という単行本は、700部しか作ってないそうです。1部3400円。これは、日販が総量規制を始めて部数を絞らなきゃいけないこと、初版部数が少なくなると定価に跳ね返ってしまうこと、哲学書みたいなのは読む人が少ないから電子版を安価になんてできないことなど、さまざまな都合を縫ってこういう状態になっているとのこと。

内沼さんは、3400円の電子版というのもあり得るし、印刷版10部で2万円ってのもあるのでは? といいます。内沼さんが『本の逆襲』で言いたかったのは「バリエーションが必要」という話。本は、2冊同じ本を買うケースが少ないです。気に入った本だから5冊買う、ということはまずありません。だから、初めからバリエーションを用意することだといいます。

2000円の本を売るのは難しいのに、B&Bで開催される2000円のイベントには来てくれる。2000円のイベントに来た上で、980円の本まで買ってくれてる。内沼さんは本のグッズ(トートバッグとか、ステッカーとか)も作ってるそうですが、それは気に入ってくれた人に、お金を使う手段を与えるためだからだそうです。

仲俣さんも、電子書籍を買った後に紙の本を買うとか、文庫買った後にハードカバーを買ったりというのはあるといいます。本が持っている多様性や多面性がマネタイズできていないから、出版業界は儲けそこなっているのではないか? と。

小林さんは、ビジネスになるかどうかわからない場合は、「やらない」と判断しちゃうと自省します。保守的に考えてしまうというのは、それだけギリギリなのかもしれませんね。

ただ、「哲学書を読む人が少ない」のではなく、哲学書に関心を持つ人を広げる努力をするのがマーケティングなのでは? というのは感じました。700部しか印刷していないのであれば、リアル書店で偶然遭遇する率は限りなく少ないわけですから、ほとんどの人は関心を持つ間もなく視界から消えてしまうと思うのです。


普通の人は、本がいつでも買えると思ってる


仲俣さんは、「普通の人は、本がいつでも買えると思ってる」と言います。見た時に買わないとなくなっちゃうと知ってるのは、業界人だけではないか、と。ボクも、紙の本が持つ物理的な希少性は、古本市場において著者や出版社に還元されない形で発揮されているというのが現状だと思います。

だから仲俣さんは「例えば、ビートルズのホワイトアルバムみたいに、連番入れてみたらどうだろう?」と提案します。小林さんは、限定版を見つける人は古書業界やプロで、一般への訴求力が弱いと嘆きます。この辺りは、やりようではないかと思うのですが、当事者じゃないと分からない部分というのもあるでしょうね。

漫画やラノベだと、書店によって初回限定特典が違うなんてこともよくあります。コレクターは、文句を言いながらも買ってしまいます。ボクも、著者にサインを貰った本は、折り目をつけちゃうのがもったいないので、読む用のを別途買い直したりします。

『本の逆襲』電子版と、サイン入り印刷版

『本の逆襲』は、B&Bで買って内沼さんにサインを貰った上で、Kindle版を買って読みました。「観賞用、保管用、布教用」みたいな人はさすがに少ないでしょうけど、「応援したいな」と思ったらちゃんとお金を使おう、とボクは考えています。裕福なわけではないのですけどね。

と、いろいろ考えさせられるトークイベントでした。

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