2013年12月16日月曜日

電子化に悪戦苦闘した歴史 ―― JEPAセミナー「小学館のデジタル戦略」レポート(後編)

小学館 デジタル事業局 ゼネラルマネージャー 田中敏隆氏

11月19日に行われたJEPAセミナー「小学館のデジタル戦略」のレポート後編です。前編はこちらです。プレゼンで使用された資料は epub cafe で公開されていますが、どうやら後半がない模様。



第二部「プリプレスの電子化から始まった出版革命は、通信・デバイスの電子化とも無関係にはいられなかった。デジタルへの挑戦の歴史と戦略」


第二部は、小学館 デジタル事業局 ゼネラルマネージャー 田中敏隆氏から、デジタル化の歴史と戦略についてのプレゼンと質疑応答が行われました。

電子書籍のブレイクスルー


電子書籍のブレイクスルー

日本には現在、書店が約15000店、出版社が3000社以上あります。その多様性の中に、電子書籍が加われるかどうか。スマートフォンやタブレットにサービスを提供していく中で、マンガ、雑誌、書籍を増やし続けることが使命であり、ユーザーがそれを「楽しい」と感じてくれるかどうかが肝要だと田中氏は語ります。


ブレイクスルーの条件


ブレイクスルーの条件

田中氏は、電子書籍のブレイクスルーに必要な条件は、デバイスの普及サービス・通信などの環境整備ソフト・コンテンツの充実が、3つとも必要だと結論づけます。


デジタルコミックの場合


デジタルコミックの場合

電車の中で周囲を観察していると、雑誌は暇つぶしで読まれることが多かったそうです。だから、キオスクでのライバルは、かつては夕刊紙や文庫本だったそうです。ところが時代とともに、ライバルが変遷していきます。それが、音楽やゲーム、携帯電話だと。


携帯電話の進化 ~ エンターテイメントな端末に


携帯電話の進化 ~ エンターテイメントな端末に

気が付くと、電車の中で携帯電話をカチャカチャやってる人が増えてきたそうです。それもそのはずで、通話だけではなく、メール、映像、ゲーム、音楽、マンガ、小説などを一台で楽しめたのですから。反面、電池切れや画面の大きさ、メモリ容量など、専用端末ではない弱みもありました。


専用端末・専用サービス


専用端末・専用サービス

一部の人だけが楽しむニッチな市場から、メジャーなものになるには、コンテンツの量が大切と田中氏はいいます。「電子書籍元年」に足らなかったのは、品揃えだと。例えば池袋のジュンク堂のように、1000坪くらいの書店と同じくらいの品揃え(30万〜40万点くらい)が必要だと。

売れているのは2割のタイトルで、その売上が8割を占めているという、いわゆる「パレートの法則(2:8の法則)」ということが言われますが、残りの8割のタイトルが揃うことこそが、本当のブレイクスルーに必要なことではないかと考えるようになったそうです。


プリプレスのデジタル化


プリプレスのデジタル化

田中氏は小学館で、印刷の前工程をやってるセクションに長くいたそうです。そして、3K職場の印刷会社がその対策のため専用機からMacに移行したり、出版社の工程が電子化されワープロ入稿からMacに移行したりという状況を目の当たりにしてきたそうです。


出版社のDTP


出版社のDTP

舵社から1994年に出版された「DTP驚異の出版革命」に、写植、版下、製版業務を出版社が行う(デジタル化)ことで、コストダウンが図れるという記述があったそうです。



デジタル化の必然


デジタル化の必然

1995年の阪神・淡路大震災で、アナログ原稿が消失してしまったらどうする?という議論が起こり、マンガ原稿のデジタル保存が進められたそうです。ところが、テクノロジーの進化が早すぎて、レナトス、ヴァルファ、写研のハヤテなどは既に絶滅しており、当時デジタル化したものはみんなゴミの山になってしまったそうです。


DTPの目的


DTPの目的

DTPの目的は、スピードアップ(校了日と発売日を近づけようとした)と、コストダウン(印刷の前工程の省力化と省コスト化)と、人材確保とクオリティーの平準化(職人技からの脱却)だと田中氏は語ります。ただ、「職人技は大切」だとフォローもしていました。


インターネット 通信の時代


田中氏は、アメリカワールドカップ(1994年)のときの「Number」を取り出しました。

アメリカワールドカップ(1994年)のときの「Number」

この表紙はブラジル対イタリアの写真ですが、インターネットの電子伝送とフォトCDを使って現地から運ばれたものだそうです。衛星回線ではなく、インターネットでロスアンゼルスと板橋がつながったというのが、当時の思い出だそうです。


リモートプルーフ


リモートプルーフ

工程の遠隔化はどんどん進んでいきます。データメディアとカンプをバイク便で運ぶ、みたいな工程を、1997年に「Domani」を創刊した際にリモートプリントで行う形に変えたそうです。


実証実験の時代


実証実験の時代

1999年から2000年にかけて、「電子書籍コンソーシアム」が行われます。これに田中氏は関わっておらず、「まんがの国」というプロジェクトをやっていたそうです。これは、一週間遅れで週刊誌のマンガを海外に向けて配信する事業で、16ページで50円くらい。「名探偵コナン」や「犬夜叉」「ARMS」など、キラーコンテンツが多いのでうまくいくんじゃないだろうか?と考えていたそうです。

ところが、ゼロックスのシステムでDRM認証が10分くらいかかったり、16ページのPDFをダウンロードするのに10分くらいかかったり、50円という少額課金をするのが非常に大変だったりと、結局二年ほどでサービス終了することになったそうです。

PCベースのサービスなので、自宅には暇つぶしのネタが豊富にあること。カードでの課金認証のハードル。近くのコンビニで変えるコミック雑誌をわざわざPCで読むか? とか、16ページ10クリックで50円という割高感などが失敗の要因だったと田中氏は語ります。


出版業界の状況


出版業界の状況

日本の出版業界は、1996年をピークに、以降ずっと右肩下がりです。ちなみに、1995年は携帯電話の新規加入数が年間1000万件を超え、「携帯元年」と言われた年だったそうです。


コミックサーフィン


コミックサーフィン

今後、携帯電話などにコンテンツを入れて行かないと!ということで、田中氏は「コミックサーフィン」というプロジェクトの提案を行います。コマ単位での配信で、ベクタービューなのでモアレの心配もない、コマ単位だとページ単位より読むのに10倍以上時間がかかるので、1クリックあたりの単価と暇つぶしの時間のバランスが良いと考えたそうです。ところがこのプロジェクトは、社内でかなり抵抗されたそうです。


3Gとパケット通信定額制


3Gとパケット通信定額制

3Gサービスの開始と定額制が始まった2005年から2006年は、大きなターニングポイントだったと田中氏は語ります。携帯元年と言われた1995年はデバイスの普及が、2005年と2006年はサービス・通信環境の整備という意味で大きな年だったと。

電子書籍の市場

実際に、電子書籍市場は2005年にPC配信と携帯配信が逆転、そして2012年に携帯配信と新プラットフォームが逆転しています。


電子書籍元年


電子書籍元年

そして現在の「電子書籍元年」は、広い世代に受け入れられる可能性のあるデバイスが普及し、EPUBでルビ付き、縦書き、右開きが実現され、スタンダードになりつつあります。


悩ましき文字コード



田中氏としては、電子書籍の制作には InDesign のデータが活用したかったそうです。ところがそこには、文字コードの問題が立ちはだかります。PCや携帯電話でテキストデータの配信に用いられるのは、シャープのXMDFでした。XMDFの文字コードはShift_JISですが、DTPで用いられるInDesign ATFはAdobe Japan1-6。対応範囲を図で示すと下図のようになるそうです。

SHIFT_JISの対応範囲

画質悪くてすいません。要するに、InDesignから出力すると、XMDFでは対応できない文字がたくさん出てきてしまうということです。


勝手に理想形を決めました!


勝手に理想形を決めました!

そこで田中氏は、理想型の決め込みを行ったそうです。電子書籍の制作には、DTPデータを使うこと。つまり、本で表現できた文字は、電子書籍でも再現すること。最終的には、校了データから印刷用のPDFとEPUBファイルを同時に出力すること。できれば、EPUBビューアの標準環境に合致すること。


電子書籍戦略


電子書籍戦略

小学館の電子書籍戦略は、「コンテンツの数を増やす」ことと、「コンテンツのジャンルを増やす」こと。そのためには、簡単に電子書籍が作れるようにする必要があります。


IDMLからXHTMLを書き出すのが大変!


IDMLからHTMLを書き出すのが大変!

ところが、IDML(InDesign Markup Language)からXHTMLを書き出すのは非常に難しいそうです。IDMLは仕様が複雑で、出力データにゴミが多いとのこと。しかし、なんとかしてIDMLを活用したいため、シャープ・昭和ブライトとともに「テキストデザイナー」というソフトを開発したそうです。

CID番号のみの文字に対応

CID番号のみの文字に対応したり

スタイルと属性をタグ出力

スタイルと属性をタグ出力させたり

合字と異体字など全ての外字も拾う

合字と異体字など、全ての外字も拾って画像外字にして出力するなど、DTPでできたものをそのまま自動でXHTMLに出力できるようにしたそうです。

余談ですが、「電書魂」さんに「InDesign→EPUB3用XHTML作成ワークフロー」などの記事がいろいろ載ってます。どんな苦労があるのか、一端を知ることができます。


電子書籍戦略


小学館の電子書籍戦略は、「書店にある本のすべてを網羅できること」だそうです。だから、電子雑誌の配信もはじめました。すべてのデバイス・スクリーンに配信し、余暇・情報入手・家庭・個人にも対応すること。デバイス・サービス・コンテンツ三位一体の環境に対応すること・構築すること。時間が解決することもあるが、我々の方から働きかけをしないと進まないこともあると田中氏は語ります。


次のステージは?!


次のステージは?!

知、エンターテイメント、教養、教育など、すべてのステージを目指すこと・図書館、学校、会社、教室、公共施設など、すべての場所を目指すことを次の目標とするそうです。


質疑応答


田中氏のプレゼンのあと、全体の質疑応答が行われました。


Q. 開高健は文春からも出ているが?


A. 開高健記念館では、文春と独占契約を結んでいないが、文春に行って仁義は通した。また、電子版で内容がバッティングしないように、付録をつけたりといった独自要素を加味した。


Q. 著作権切れ作品を電子化する場合も連絡はする?


A. してます。


Q. アドバンスはどうやって処理している?


A. 電子版のみの場合はレベニューシェアで、アドバンスは発生させていない。


Q. 電子書籍がなかなか売れない中で価格戦略は有効的だが、小学館はあまり安売りしていないようだが?


A. 安売りは基本的にはやらない
A. 内容の良さで売っていきたい
A. マーケットが広がっていけば売れるようになるだろう



こんな感じのセミナーでした。1ヶ月経って記憶が曖昧なところもあるので、もし間違っていたらゴメンナサイ。

週間人気投稿

月間人気投稿