2013年12月23日月曜日

アメリカ在住の文芸エージェント・大原ケイ氏による、アメリカ電子書籍の最新事情 ―― JAGATセミナーレポート(後編)

アメリカ在住文芸エージェントの大原ケイ氏 in JAGATセミナー

12月6日に行われた、日本印刷技術協会(JAGAT)主催のセミナーレポートです。

後編は、アメリカ在住で文芸エージェントの大原ケイ氏による、アメリカ電子書籍の最新事情報告です。前編は「E-Book 2.0 Forum主宰 鎌田博樹氏による、国内『電⼦書籍』に関する状況整理」をご参照下さい。



大原氏は、講談社アメリカやランダムハウス講談社に勤務後、リテラリー・エージェントとして独立し、日本の著者・著作を海外に広める仕事をしています。近著はアスキー新書「ルポ電子書籍大国アメリカ」で、最新情報はブログ「Books and the City」で発信しています。実際に会うと恐くないです。

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なお、この本のアップデート版である「アメリカの電子書籍事情でおさえておきたい9つのポイント」という記事が、週アスPLUSで2013年1月16日に公開されています。


2013年のアメリカは、eBook成長率停滞の年


2013年はeBook成長率停滞の年

2013年のアメリカは、eBook成長率停滞の年でした。対2012年比105%と、成長していないわけではありませんが、成長速度は鈍化しています。なお、上図は第1四半期の数字を比較したものだそうです。ちなみに、対前年比252%だった2010年には、「すぐに8割、9割は電子で読まれるようになる」なんて言われていたそうです。


成長率が停滞している理由


成長率が停滞している理由

成長率が停滞している理由は、以下のように考えられているそうです。

  • 読書専用端末からタブレット(汎用端末)への移行で、本を買うペースが落ちていること
  • ヒットを牽引するタイトルが出ていないこと(去年は大ヒット作「フィフティ・シェイズ」「ハンガー・ゲーム」があった)
  • アーリー・アダプターと拒否派(紙でいいと思っている)に二分されたため、デバイスをもっと安くするか、デジタルじゃないと読めないタイトルが出てこないとこれ以上増えないだろう
  • 紙を補うもので、代替ではないと認知されてきた
  • 代わりにセリフパブリッシングが躍進している
  • eBookの値段の下げ止まり(Kindle出始めの時みたいなことがない)

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eBookはいつ紙の本を抜くのか?


eBookはいつ紙の本を抜くのか?

「2017年くらいにはeBookが紙の本を抜く」などという予測がなされていますが、2013年の成長率では厳しいだろうと大原氏は言います。


アメリカ出版業界もいよいよ不況?


アメリカ出版業界もいよいよ不況?

出版全体の状況はどうかというと、リーマンショックの年を除きずっと前年比103%くらいで成長し続けていたのが、2013年は前年比で▲6%、ヤングアダルトジャンルでは▲22%というマイナス成長だったそうです。

これは、「フィフティ・シェイズ」「ハンガー・ゲーム」のような大ヒット作がなかったのも要因ですが、マスマーケット向けペーパーバックがどんどん減っていること、政府機能停止で公立学校の予算に影響していることなども要因として挙げられるそうです。



良くも悪くもAmazonが The Great Disruptor


良くも悪くもAmazonが The Great Disruptor

良くも悪くも、Amazonの「タコ入道(ジェフ・ベゾス)」は、 The Great Disruptor(かき混ぜる、体制をめちゃくちゃにしていく)だそうです。ベゾス本人が発行を許諾している(そしてなぜか奥さんが「この本には不正確な記述が多過ぎます」と☆1つのレビューをつけた)オフィシャル本「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」は、「Fiona(フィオナ)」という章が非常に良かったそうです。


9.99ドルでの販売という戦略を出版社には知らせていなかったとか、Appleの司法省裁判はAmazonのタレコミがきっかけだったとか。いろんな裏側がわかって面白いみたいですよ。邦訳版は、年明け1月9日の発売です。

出版社にとってAmazonが恐ろしいのは、毎年交渉によって卸値をギューギュー締めてくることだそうです。そこでアメリカの出版社も対抗して、ペンギンランダムハウスのように合併して巨大化を図っているそうです。数は力ですね。

なお、大原氏がAmazonで一番怖いなーと思っているのは、本なんか取り扱い商品のごく一部で、全ての旧型リテールとの戦いであると考えている点だそうです。

例えばつい先日、「ドローン(小型無人飛行機)」による無人配達構想が発表されました。テクノロジー的にはすでに可能なのですが、法体制的に難しいことを、ロビー活動によって動かそうとしています。流通倉庫で人を安く働かせていることがブラックだなんだと言われていますが、もうAmazonは一歩先の「流通の無人化」を図ろうとしているわけですね。

アメリカみたいな広い国土だと物流の壁があるわけですが、eBookなんかただの実験かもしれないと大原氏は言います。日本では佐川急便がAmazonの物流から降りましたが、アメリカでは郵便局がAmazonに「日曜配送しますから!」と泣きついたという話も。いずれにしても恐ろしい。


……と思いきや、ホッとしている向きも


……と思いきや、ホッとしている向きも

ところが、出版社にとっては需要の見通しが立ったので、ホッとしている向きもあるそうです。また、Amazonの標的はバーンズ&ノーブルなどの大手チェーン店だったのですが、そういう大型店舗が潰れちゃったから「俺達の街に『本屋』を作らないと!」という動きがあるそうです。


全米書店協会に登録している書店数は増えている


全米書店協会に登録している書店数は増えている

上図は全米書店協会に登録している書店数ですが、ここ数年増加傾向にあるそうです。70年代のモール店、80〜90年代のメガストア、そして今世紀のネット書店と戦い、生き残ってきて足腰が強い小さい書店は、かえって元気だったりするとか。


元気な出版社とは?


元気な出版社とは?

また、元気な出版社は、ニッチ狙いであったり、ゴージャスな装丁の紙で勝負する写真集・児童書とか、クラウドで編集やファンディングをするネット時代ならではのアイデア勝負をしているそうです。グラフィックノベルが多いらしいですよ。


セルフパブリッシングのタイトル数


セルフパブリッシングのタイトル数

セルフパブリッシングのタイトル数は、右肩上がりです。2013年で60万タイトル。ただし、このグラフの数字はISBNのあるものだけなので、ISBNなしで発行できるKindleダイレクト・パブリッシングの数字は含まれていないそうです。つまり、もっと多いと。


セルフパブリッシングの功罪


セルフパブリッシングの功罪

セルフパブリッシングの功を挙げると、裾野が広がったこと、宝くじ的に当たれば出版社からも声がかかること。逆に罪は、アマチュアスポーツみたいなもので、玉石混交だというところ。だから、改めて「プロの仕事」が見直されている側面もあるそうです。

なお、セルフパブリッシングの本の価格は1ドルから3ドルくらいが限度で、それより高いとよほどプロモーションがうまくないと売れないそうです。ところが、出版社の本は9ドルより高い価格でも売れるので、「品質の違い」というのが販売価格にもちゃんと反映され、ユーザーにも受け入れられているということになります。


これからの動向


これからの動向

大原氏は、これからの動向として、以下の3つを挙げました。

  • DRMは海賊版抑制力にならない
  • キーワードはメタデータ
  • Enhanced Bookも模索中

DRMは海賊版抑制力にならない


クランチロールが英語と日本語で同時発売を開始しましたが、正直遅すぎと大原氏は言います。そもそも、ずるいことして読もうとするのは20代・30代男性が中心で、もともと本読まない世代だよね?と見放されてきたゾーンだそうです。

Appleが iTunes 5年目くらいでDRMを解除しましたが、AmazonにはDRMを解除する気が全くないらしいです。つまり、対Amazon戦略として、DRMを解除していってはどうかという意見もあるそうです。

ちなみに、アメリカでも海賊版は簡単に訴訟できないそうです。まず、「デジマーク社」のような「アトリビューター(コンテンツ不正利用調査企業)」に依頼して、どのくらい違法ダウンロードされてるかを調べる必要があるそうです。そして、検索しても出ないよう Googleに頼む(DMC申請)というのが一般的な対策だそうです。それでも効かなければ、訴訟という流れになるとのこと。日本と大違いなのは、末端のユーザーを罰するような法律はNGで、運営している業者が訴えられる形になっている点だそうです。


キーワードはメタデータ


これは、本を検索で見てもらうための周辺データのことです。日本でも、今年のブックフェアで「ディスカバラビリティ」という単語とともに、メタデータが重要だという話をあちこちで耳にしました。


Enhanced Bookも模索中


これは、”マルチメディア” などと言われていた、リッチコンテンツのことです。少しでも本を高く売る手段として模索をされているものの、実際にはまだそれほど積極的ではないのが現状だとのこと。要は、手間暇かけるだけの価値があるかどうかを、まだ検証している段階らしいです。


Apple対司法省の訴訟とGoogleブックスキャン訴訟


Apple対司法省の訴訟とGoogleブックスキャン訴訟

最後は、相次いで判決が出た、この2つの訴訟について。

Apple対司法省の訴訟


よく勘違いされているのですが、この訴訟は「値段に関する談合が違法」だと言われているのであって、「エージェンシーモデル」そのものは違法ではないのです。出版社は、訴訟費用を安上がりに済ませるためさっさと和解しましたが、Appleは上訴しました。だからまだ決着も付いていません。


Googleブックスキャン訴訟


日本でも2009年に大騒ぎになりました。和解案が差し戻され、そもそも著者の許可無く勝手にスキャンすることがフェアユースにあたるのか?というところが問われていたわけですが、「公共性が高いのでフェアユースだ!」と認定されました。作家協会は反発していますが、まだ上訴していないようです。


質疑応答


Q. アメリカでセルフパブリッシングが60万点とのことですが、個人が制作を依頼できるような企業はあるんでしょうか?


A. (大原氏)いろんなサービスがたくさんあります。


Q. 「Kindle Matchbook」に対する出版社の反応は?


A. (大原氏)ハーパーコリンズは飛びつきましたね。


Q. 面白そうなビジネスは?


A. (大原氏)デジマーク社のような「アトリビューター」です。


Q. 価格は下がっているのが止まっているのか、一時期に比べると上がっているのか、出版社はどう考えどう捉えているのか


A. (大原氏)出版社が嫌なのは、紙の本の値崩れです。だいたい半値くらいで卸すそうですが、販売価格が9.99ドルだと「紙の本、高いな」と思われてしまう危惧がありました。

ただ、デジタルブックワールドが毎週のように平均価格を出していますが、セルフパブリッシングが入ってきて1ドル本が大量になっているので価格が下がっているように見えるけど、出版社系のは平均12ドル前後です。


Q. 3月に「Goodreads」が買収されたがその影響は?


A. (大原氏)Amazonよりレビューが的確だ!と盛り上がっていたサイトだったので、離脱しちゃったユーザーも結構いるようです。ただ、Goodreadsが一番便利だったし、Amazonが入ったことでもっと便利になったと評価されているとのこと。表示上、以前はAmazonが一番下だったのが、いまは一番いい位置に表示されているという違いがあります。


アメリカのGoogleブックスキャン訴訟判決は日本に影響しますか?


A.(鎌田氏) 直接は影響しないような判決になっています。著作権の実際の作用(保護期間)が75年間ありますが、ほとんどの本を世の中から消してしまっているのが現状です。スキャンされることで、商品としてリバイバルするものが出てくるのは、ビジネス的にプラスだと捉えていいでしょう。スキャンだけじゃ商売にならない(スキャン品質も低いので)ということが、理解されてきたということだと思います。

A.(大原氏)Googleがやろうとしているのは、埋もれている作品を掘り出すことです。日本でも絶版の本は手に入らないのだから、そういう本をどうするの?という話。Googleがやってくれるんだったら、そっちのが楽なのに。


セミナーを終えて……


セミナー後、食事をご一緒させて頂きました。Twitter上でのイメージとは異なり、物腰が柔らかく優しい方でした。お世辞抜きで。優しいからこそ、はっきりとモノを言うようにしているのかな、という気がします。

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