日本のTPP交渉参加に際し、知財分野(著作権)に関する意見を政府対策本部へ送りました

日経新聞記事「著作権保護、70年に延長 日米TPP事前協議 」

今朝、日経新聞にこんな記事が載り、周囲に衝撃が走りました。

4月の日米事前協議で、日本が著作権を含む知的財産分野の交渉方針を米国と統合する案を示したというものです。要するに、本格交渉を始める前から、知財分野では米国要求を飲むというわけです。「会員限定」部分には、著作権保護期間のみならず、非親告罪化・法廷賠償金なども対象になっていると書かれています。

おいおいちょっと待て!と頭に血が上りました。「著作権の保護期間は世界では死後70年が主流だ」とか「保護期間を死後50年にしているのはベトナム、マレーシアなど5カ国」などと、あからさまに米国要求寄りの記事になっているからです。

ちなみにTPP交渉参加国で死後50年制度なのは、他にカナダとニュージーランドとチリです。そこへ日本が加わります。カナダとニュージーランドは知財分野で米国と対立しているので、その名前が出てこない時点で「この記事はちょっとおかしいぞ」という雰囲気があります。

この記事を見た直後、先日のthinkTPPIPのシンポジウム記事をツイートしました。

ボクのツイートでは、めったにない数の拡散具合です。しかも内容は既報のものですから、このニュースがそれだけ衝撃的だったということでしょう。

ただ、ほどなくして同じ日経から、こんなニュースが流れました。

日本が著作権の保護期間を米国に合わせ延長する方針を決めたとの報道を「結論から言うと誤報だ」と述べた。「具体的な協議をしたわけでも結論を出したわけでもない」と現時点の政府の立場を説明した。

自分たちの出した記事に対し「誤報だ」と言われたことを、そのまままた記事にするというのはどういう面の皮をしているのでしょうか。正直呆れます。ただ、さすがに新聞社ですから、少なからず裏とりをした上で記事にしているはずです。つまり、政府内部でもまだ綱引きをしている段階ということなのでしょう。

というわけで、まったく安心はできない状況が続いています。そこで、INTERNET Watch の記事にも書いておいた、内閣官房 TPP政府対策本部 「TPP協定交渉に係る意見提出等のための業界団体等への説明会について」の「意見提出に関する追加情報」を参考に、ボクの意見をメールしました。

書き方は上記リンク先やPDFにもありますが、以下の点に注意する必要があります。

  • 添付ファイルではなく、メール本文へ記入すること
  • メールの件名は先頭に「TPP意見」と書き、1文字開けて組織名・団体名などを記入すること
  • メール本文に、組織・団体名 、代表者名又は意見提出者名及び連絡先電話番号 、提出意見と対象分野を明記すること

提出期限は2013年7月17日(水)17時です。募集対象は「各団体など」なので、個人で送っても問題ありません。ボクのメールは、以下の様な文面です。参考にしてみてください。ただ、意見は人によって異なると思いますので、そのままコピペすることはオススメしません。コピペした文章は、相手の心に届かないと思います。


[対象分野]知的財産

1. 私は、著作権保護期間延長に反対します。

日本の著作権は「著者の死後50年」が経過すると消滅し、以後は誰でも自由に作品を利用できます。それに対し米国の著作権は死後70年であり、TPP交渉でも日本に対し著作権保護期間の延長を求めてくることが予測されています。私はこれに反対します。反対理由は、以下のとおりです。

  • 保護期間を延長しても死蔵される作品が増えるだけで、創作者の収入はほとんど増えない
  • 日本の著作権使用料の国際収支は大赤字であり、保護期間を延長すれば古いコンテンツで稼いでいる米国が有利になるだけ
  • このまま保護期間が延長されれば、著作権者不明の孤児作品が増え「知の再利用」が困難になる
  • 交渉相手の米国でも、著作権局長が孤児作品を減らしてデジタル化を推進するため「著作権保護期間の部分短縮」を提案しているほど

逆に日本からは、「著作権保護期間の短縮」を提案すべきだと考えます。

(参考資料)

著作権「死後50年」は本当に短すぎるか? 10分でわかる正念場の保護期間問題

【ネット著作権】著作権「死後50年」は本当に短すぎるか? 10分でわかる正念場の保護期間問題 

2. 私は、米国並みのフェアユースを導入しないまま、著作権を非親告罪化することに反対します。

日本の著作権は原則として親告罪であり、著作権者が告訴しないかぎり著作権侵害にはなりません。対する米国の著作権は非親告罪であり、TPP交渉でも日本に対し著作権の非親告罪化を求めてくることが予測されています。私はこれに反対します。反対理由は、以下のとおりです。

  • 親告罪であるがゆえに、仮に著作権者に無断での二次利用であっても、著作権者には「黙認する」という選択肢がある
  • その黙認領域で育まれた「二次創作文化」が、日本文化の裾野を支えている現状がある
  • 米国の著作権は非親告罪だが、フェアユース条項によって著作権者に無断で使用可能な範囲がある程度広い
  • 日本の著作権法も第30条から第47条の8で著作権者に無断で使用可能な範囲が定められているが、その範囲は非常に限定的なものであり、米国のフェアユース条項の範囲には到底およばない
  • 文化審議会著作権分科会の法制問題小委員会で「パロディ規定」についての審議が始まったばかりであり、「黙認」というグレーな領域をどのように規定していくかはまだ定かでない

すなわち、米国並みのフェアユースを導入しないまま日本の著作権を非親告罪化すれば、例えば和歌の「本歌取り」ですら著作権侵害で告訴可能ということになってしまいます。これでは、日本文化が萎縮し、崩壊しかねません。

(参考資料)

文化庁 | 著作権 | 著作権制度に関する情報 | 著作権制度の解説資料 | 著作権制度の概要 | 著作物が自由に使える場合

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/gaiyou/chosakubutsu_jiyu.html

以上


福井健策さんの言葉を借りますが、「最大の敵は、無関心と諦め」です。著作権というのは創作者の権利であるとともに、広く国民に影響する問題です。国民の関心が高ければ高いほど、政府はその意見を無視できなくなります。諦めるにはまだ早い!

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