2012年12月13日木曜日

コミケ・同人誌が潰れてしまう?「TPPの知的財産権と協議の透明性を考えるフォーラム(thinkTPPIP)」公開シンポに行ってきた


12月12日に行われた「TPPの知的財産権と協議の透明性を考えるフォーラム(thinkTPPIP)」公開シンポに行ってきました。「非親告罪化でコミックマーケットや同人誌文化が潰れてしまうかも?」という危惧に対し、赤松健さんのウルトラ提言が出てきて非常に面白いシンポでした。以下でレポートさせて頂きます。



このシンポには「TPPの交渉透明化と、日本の知財・情報政策へのインパクトを問う!」という副題が付いています。要するに、秘密協議であることをいいことに、一部の利害関係者にとって都合のいい条約になってしまう(条約は国内法に優先する)ことを危惧しているわけです。交渉には利害関係者を呼ぶこともできるのですが、誰を呼ぶかで恣意的な判断をしてしまうことも可能だという。このフォーラムの趣旨にはボクも賛成したので、提言への賛同に署名・送信をしました。

ところが、このシンポの事前案内が流れると、知財専門の学者である玉井克哉教授が「影響は軽微だ」と噛み付いたわけです。詳しいやり取りは以下のTogetterにまとめられています。


「学者と弁護士」といった立場の違いもあるので、同じ知財の専門家とはいえ意見の相違があってもおかしくはありません。もしかしたら、結果的には玉井さんの言ってることが正しいのかもしれません。ただ、公式情報がオープンになっていない以上、現時点でそれが正しいのか判断することさえできないわけです。

そして、シンポでも危惧されていたのが、「TPPの農業分野」や「TPPの自動車分野」といったところは大きな話題になって、多くの人が関心を寄せている(選挙でも争点になっている)状態になってきているにも関わらず、「TPPの知財分野」に関しては一般層の関心が薄いという点です。上記3つのまとめは、非常に重要な観点からの論争だとボクなんかは思うのですが、どちらも現時点ではまだあまり閲覧されていないというのが現状です。

TPPでコミケ終了」みたいな話題が盛り上がっているのは極めて一部のクラスタだけで、多くの人が「自分にはあまり関係がない」と考えているということなのでしょう。それは「情報が公開されていない」ことと、「どんな影響があるのか(知財に関しては)イマイチ見えてこない」というところに要因があるのではないかと思います。

シンポの冒頭で、つい先日ニュージーランドで行われたTPPの12回目ラウンドに対し、どのような反対活動が行われていたかという映像が流れました。かなり熱の入った抗議行動だったようで、日本との温度差を感じます。


大手メディアでドーンと取り上げてくれれば、もっと多くの人が興味を持つようになるのかな? 朝日新聞の丹治吉順記者(通称:朝P)もシンポに来ていたみたいなので、期待しましょう。



さて、TPPの知財分野で、米国要求条項の何が問題になるのか、シンポで重点的に挙げられていた点を簡単にまとめてみます。大きく分けると、以下の2点です。

  1. 著作権保護期間の延長
  2. 著作権侵害の非親告罪化と法定賠償金制度

著作権保護期間の延長



現在、日本で著作権が保護される期間は[追記]没後50年(※映画のみ[追記]公表後70年)です。ところが、欧米では70年が主流です。日本の50年という期限は、先進国では少数派なのです。米国ではミッキーマウスの著作権が切れそうになる度にロビー活動によって延長されてきている経緯があるため、「ミッキーマウス保護法」なんて批判をされていたりもします。

さて、保護期間が延長されると何が問題なのでしょうか?

「青空文庫」のような著作権切れ作品の共有化が阻害される


これは、青空文庫呼び掛け人である富田倫生さんが連続ツイートしたまとめをご覧頂くのが分かりやすいと思います。シンポにも来場されていて、「大晦日と元旦で、青空文庫のラインナップが変わるのを見比べて欲しい」という呼びかけをしていました。2013年は、吉川英治さんや柳田國男さんといったビッグネームが、没後50年経過により著作権切れになるんですね。要するに、こういうことがあと20年先までできなくなってしまうわけです。


ちょっと余談ですが、楽天koboイーブックストアに対する批判で「ストアの書籍が少ないという批判を受けて、慌てて青空文庫で無料書籍を水増しした」というものがあります。これは、ストアのオープン前から「1万冊の無料書籍を含む」という告知はされていたので、まったくもって見当違いな批判なのですが、その見当違いが「青空文庫の功績が軽んじられている」というところから生まれていることの証左でもあるような気がしてなりません。無料で読める状態になっているのは、著作権が切れたから自動的に読めるわけではなく、多くのボランティアが膨大な労力をかけてテキスト化しているからこそ読めるのだ、という事実の認識とリスペクトがもっと必要なのではないかと思うのです。

権利者不明作品が消えていってしまう



いわゆる「孤児著作物」問題です。著作物の二次利用には権利者の許可が必要なのですが、そもそも誰が権利者なのかわからなくなってしまっている作品も多く、例えば古い映像フィルムが保管されていてどんどん劣化してしまっているのに、保護期間中は手が出せない状態になってしまっているといった問題があります。これには「文科省が認めたらOK」という制度もあるのですが、OKを出す要件が厳しいらしく、申請は年間24件といった状態とのことです。

そもそも保護期間を延長したところで、権利者の収入増はわずか



保護期間を延長することで「儲かる」のは長く生き残っている(例えばミッキーマウスのような)作品だけで、圧倒的大多数の作品は埋もれて消えてしまうだけで、ほとんど収益増にはつながらないという研究結果があるそうです。

著作権侵害の非親告罪化と法定賠償金制度


著作権侵害が親告罪だと、海賊版が生まれる度にいちいち告訴しなきゃいけないからキリがないので、非親告罪化して警察が主体的に取り締まるようにしろ、というのが米国の要求です。

また、現状では侵害に対する実損しか賠償金は認められていないのが、法定賠償金制度によってペナルティ的な賠償金を課す(※刑事罰の罰金は国庫に入るだけですが、これは民事なので権利者の懐に入る形になります)ことができるようになります。米国では1作品につき最大15万ドルの法定賠償金が認められているそうです。

日本の場合、フェアユース規定やパロディ規定といった二次利用できる範囲に関する取り決めがない代わりに、著作権者による暗黙の了解(親告罪だから訴えない限りグレーゾーンのまま)によって二次創作が育まれているという現状があります。

そしてこれは、二次創作同人誌やコミックマーケットのようなファン活動の場が、「親作品の宣伝になる」のと「漫画家のタマゴを育成している」という事実があるため、著作権者側も多少の著作権侵害ならば目をつぶっているというわけです。

ところが非親告罪化と法定賠償金制度がセットになるとどうなるか? 確実に萎縮します。

「軽微な侵害で通報されても、いちいち警察が動くわけがない」といった見解もあるわけですが、巨額な法定賠償金を課されるかもしれないという危惧から、筆を折る人も多いでしょう。そして残念ながら、世の中には「黒子のバスケ」脅迫事件のように、「悪意をもって潰そう」とする輩もいるのです。


また、米国で「コピーライト・トロル(著作権ゴロ)」という事例があることも紹介されていました。「あなたの著作権を侵害してる人を、我々がこらしめます」と営業して、賠償金から儲けを得る弁護士がいるそうです。なんだか架空請求にも似た行為に思えますが、非親告罪化+法定賠償金によって、これが合法的に行えるようになってしまうという……。



さて、こういった動きに対し「反対活動をする」という方向性もあるわけですが、「もし回避できなかった場合にどうすればいいのか?」というところまで踏み込んだ提言を赤松健さんが行なっていました。簡単に言えば、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの発展版で、二次創作活動を公認してしまおう」という話です。暗黙の了解ではなく、「どこまでの範囲だったらOKというのを、権利者側が明確にしましょう」ということです。


クリエイティブ・コモンズ・ライセンスには「二次利用」と「二次創作」の区別が無いため、二次創作同人誌は容認したいけど、デッドコピーは防ぎたいというニーズには使い勝手がよくない状態になっています。実は、過去にはそういったライセンスも用意されていたらしいのですが、あまり使用されることが無かったため現在では消えてしまっているそうです(どうも、クリエイティブ・コモンズのバックにある「フリーカルチャー」的な思想と相容れない部分があるという事情もあるっぽいのですが……)。

赤松健さんが凄いのは、既にこの案を講談社に提案して、もしクリエイティブ・コモンズで正式採用されるなら次回作は「二次創作で自由にアニメ化してもOK」というライセンスで発表することを、講談社から許諾されているという点です。なんという行動力。さすが過ぎる。



といったところで今回のシンポはお開きになりました。もっと多くの人が、この問題について関心を持つようになってくれればいいのにな、と思います。

なお、シンポで叩き台になっていたのは、司会の福井健策さんが書いたこの本です。

「ネットの自由」vs.著作権: TPPは、終わりの始まりなのか (光文社新書)
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