2012年11月28日水曜日

出版広報センター主催「出版物に関する権利」公開シンポジウムに行ってきて思ったこと


出版広報センター主催「出版物に関する権利」公開シンポジウムに行ってきました。

電子書籍の普及が進む昨今、出版者(社)の役割はこれまで以上に重要になってきていますが、現行の著作権法では電子出版物を対象とする規定がありません。流通と利用の円滑化、権利侵害への対応、そして日本の出版文化をより豊かに実らせるためにも、いまこそ出版者(社)になんらかの権利が必要ではないかという論議が高まっています。

「高まってる」のはなく、「出版社が高めている」のでしょ、というツッコミを入れておきます。

出版4団体(日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本電子書籍出版社協会、日本出版インフラセンター)で構成する出版広報センターでは、これまで東京国際ブックフェアや衆議院議員会館でのシンポジウム等々を通じて「出版者(社)への権利付与」に関する社会的理解の浸透に努めてまいりました。さらにこうした流れの現時点での集大成として、一般の方々に広くご理解いただくためのシンポジウムを、来る11月26日に開催する運びとなりました。

東京国際ブックフェアの「電子書籍時代に出版社は必要か?」は、非常によかったですね。それに比べると今回の登壇者は……

[出席予定者]
司会 植村八潮(専修大学教授、出版デジタル機構会長)
パネリスト 石橋通宏(参議院議員) 、大沢在昌(作家)、大渕哲也(東京大学大学院教授、元東京高裁判事)、野間省伸(講談社社長、出版広報センター長) 、林真理子(作家)、弘兼憲史(漫画家)(50音順 敬称略)

ここまで見事に出版社の主張に寄り添う人ばかり集めたシンポでどうするんだろう?何か新しい方向性は見いだせるのだろうか?という疑念を抱かずにはいられませんでした。結論から言えば、従来から彼らが主張してきた「なぜ出版社に権利付与が必要か?」という理屈の繰り返しで、正直ボクにはあまり目新しいものは無かったです。

ただ、その主張の端々から、なぜいま電子書籍化が遅々として進まないのか、権利獲得後に何を狙っているのかがなんとなく見えてきた気がするので、まとめておきたいと思います。

ちなみに大沢在昌さんは欠席でした。



どういう内容だったかは出版広報センターのサイトに書いてあることや、江口秀治さんによる実況まとめをご覧頂ければだいたい理解できると思いますが、ここでも簡単にまとめておきます。

「出版社に著作隣接権的な権利付与を!」というのはずっと以前(植村八潮さんは「20年来」という表現をしていました)から出版社が主張してきたことで、以前そういう議論になった際には経団連の猛反対で潰されたという経緯があります。

それを今になってなぜまた主張し始めたのか?というのは、Googleブック検索訴訟の和解案クラスアクションで世界中が巻き込まれたことがきっかけだそうです。この辺りの話は高須次郎さんの 「グーグル日本上陸撃退記―出版社の権利と流対協」に詳しいので、興味がある人はまず書評を読んでみてください。

グーグル日本上陸撃退記―出版社の権利と流対協
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結局のところ、出版社には紙の書籍を発行する「出版権」しか無いから、デジタル複製とネットワーク化の時代に対応しきれない(権利が無いから当事者になれないので、違法配信されても訴える権利がない)。だから新たな制度設計が必要ではないだろうか?というのが出版社側の言い分です。

権利の目的は以下の2つ、とのことです。
  1. 違法複製・違法配信に対応するため(法律構成上の主たる目的)
  2. 電子書籍の利用・流通の促進のため(本当の目的)


これがスクリーンへ映しだされた時に、なんとなくピーンとくるものがありました。2つ目に「本当の目的」とありますね。要するに、いま電子書籍に積極的になれない出版社というのは、「我々には権利が付与されていないから、本気になって電子書籍事業に取り組めないのだ」ということを思っているのではないか?という疑念が浮かんできたのです。

というのは、直前に「音楽業界がやっと本気になった」と思えるような動きがあったからです。つまり、違法ダウンロード刑罰化が施行された直後に、ようやくmoraやレコチョクがDRMフリー化したり、ソニーがiTunes Music Storeへ配信を始めたり……要するに彼らは「この法律が施行されるまでは積極的に動かない」と決めていたのではないだろうか?と思わざるを得ないような動きをしています。

それを出版社に置き換えて考えてみると、「我々に権利付与されるまでは、電子書籍事業は積極的に取り組まない」と決めている出版社が多いのではないかという想像ができます。だから日本政府が「緊デジ」とかいって予算組んで旗振ったところで、なかなかコンテンツが集まらないのではないか?と。あくまで想像ですが。



音楽CDの場合、古くはカセットテープやMDへのダビングであったり、リッピングしてiPodに入れるといった行為が当たり前に行われていました。「デジタル複製を容易に行える機器」が安価に販売され家庭へ普及するのも早かったためです。

しかし、音楽に比べたら紙書籍のコピーは容易ではありません。例えば友だちのノートを借りてコンビニでコピーをするのに、1枚10円はたいした額ではないですが、とにかく手間がかかります。

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こういう機器を使うとしたら、裁断しなければならないわけです。シンポの冒頭で新潮社社長の佐藤隆信さんが「紙媒体という障壁に今まで守られてきた」と仰っていましたが、まさにそのとおりなんだろうな、と。

ところが技術は進歩し続けているわけです。



以前、非破壊自炊が音楽CDのリッピング並みに手軽になったら?というエントリーで「たぶん次は、自動でページをめくる機械が超安価になるでしょう。」と書きましたが、この動画を見るともうその日は近いだろうなという予感がします。

そうなると、自炊代行業者というのは必要なくなります。書籍を自分で持ち込みして、裁断機やスキャン機械だけを借りるという商売もありますが、それも過渡期の仇花でしょうね。出版社がお膳立て(シンポで弘兼憲史さんが明言してました。我々著者が連絡とりあって「あいつら訴えてやろうぜ」なんてできないですよ、と)して著者に自炊代行業者を訴えさせるなんて、読者の反感を買うばかりではないだろうか、とボクなんかは思うわけです。

少し余談ですが、この訴訟を起こしたメンバーに、シンポで登壇した弘兼憲史さんと林真理子さんがいます。作家の中でも二人は「出版社への権利付与」に大賛成派です。が、どうも二人のご意見を拝聴していると、自炊代行業に対する憎悪は何か妙な誤解に基づいてないだろうか?と思わずにはいられません。

「自炊代行業者のせいで、安く手に入れられてしまう」

とか

「自炊代行業者のせいで、タダで読まれてしまう」

ということを繰り返し述べるんですね。自炊代行業者の現状を理解していたら、こういう言葉にはならないのではないか、と。恐らく、自炊代行業者は「自炊の代行」ではなく、スキャンデータの使い回しによって複製データを販売しているに違いない、という思い込みをしているのではないか、という気がするのです。ところが、いま訴訟されてる自炊代行業者は、むしろ至極どちらかと言えばまっとうな商売をしているところが中心なのではないかと。

その辺り、佐藤秀峰さんは偉いなーと思うのです。実際に取材に行って自分の目で確かめてますから。こういうまともなことをやってる業者を叩くと、本当に悪いことやってる奴らがどんどんアンダーグラウンドへ潜っていってしまうだけではないか、と思うのですが……。

植村八潮さんがこんなことを言ってました。「書店・取次流通・印刷・出版社・著者など、関連するさまざまなプレイヤーの全てが、読者が本を買ってくれたお金によって成り立っているのだから、読者に支持されなきゃダメだ」と。さてこの2回目の訴訟は、読者に支持される行為なのでしょうか?さらに反感を買うばかりではないでしょうか?



はっきり言って開催前から予想できたことですが、賛成派ばかり集めて主張しても建設的ではありません。それは反対派ばかりの会も同様です。これは「オープンな議論」ではありません。「オープン」なのは間違いないですが、お互い違う時間・違う場所でそれぞれの主張をするだけで、「議論」になっていません。異なる立場の方々で集まって、主張をぶつけ合うのが議論なのではないでしょうか。

弘兼憲史さんと林真理子さんが「我々は出版社にほんとお世話になってるんだから、欲しいと言ってる権利はあげようよ。著者の権利を阻害するわけじゃないし、むしろ海賊版対策で動いてくれるわけだからありがたい限りじゃない。なんで反対するのさ。意味わかんない。著者のほとんどは我々と同意見で、反対するのは一部の偏屈だけですよ。」みたいなことを声高らかに主張しているのを聞いてて、頭を抱えたくなったシンポでした。

ちなみに「慎重派」の赤松健さんもシンポを聴講されてました。



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