2012年8月26日日曜日

ボーカロイドは音楽の未来を変えるか?尚美ミュージックカレッジ専門学校の夏季特別公開講座「ボーカロイドとは何か?」



Google+で知り合ったKazuo Moriさんからの紹介で、こちらの講座を聴講してきました。詳しい内容はUstreamにアーカイブが上がっていますので、興味がある方はそちらをご覧頂いたほうがいいかも。ただし、公開期間は1ヶ月間とのことです。


このエントリーでは概略をレポートします。



全体は3部構成でした。

ボーカロイド概論、制作デモ


尚美ミュージックカレッジ専門学校の講師で、ギターリスト・作編曲家の小川悦司さんから、まずは「そもそもボーカロイドって何?」という説明から。夏休みの学生向けで、ボーカロイドをテーマにした講座なのに、そこから?と思うかもしれませんが、聴講に来ている人やUstreamを観る人には、学校(高校?)の先生もいたそうなんです。

ボーカロイドは中高生の間で流行っているのですが、進路相談でボカロPやりたい!みたいな話があるらしいんですね。それで専門学校にも「ボーカロイドって何?」という問い合わせがあるらしく。だから冒頭は基本的なところから説明をしなければならなかったということなのでしょう。ボーカロイドのソフト単体ではアカペラ状態になってしまうので、別途バックトラックを制作するDAWソフトが必要だといった説明がありました。

虹原ぺぺろんさんが登場してからは、いわゆる「調教」のやり方について、具体的にどんなテクニックを使っているかというマニアックな解説になりました。


興味深かったのは、虹原ぺぺろんさんが曲を作るプロセスについて。まずテーマを決める → 歌詞を書いてみる → サビのメロディーを作る → 打ち込み といった順に制作するそうです。小川悦司さんさんが「コンセプトが大事よね!」と繰り返し言っていたのが印象的でした。

「調教」のコツについては、音程を揺らすことで人間らしく聞こえるようになる、といった話がありました。ビブラートはデフォルトよりFASTの方が好きとか、ベロシティを下げることによって子音を長くするとか、ナ行・マ行の前には「ん」を入れると強調できるとか、かなり細かな話が盛り沢山でした。

こういった細かな解説をしている「VOCALOID徹底研究」というボーカロイド調整解説本を、GumloadでDL販売しているそうです。興味がある方は、虹原ぺぺろんさんのウェブサイトからどうぞ。サンプルもあります。



ボーカロイドの現在、未来


第2部は、ヤマハ株式会社で「VOCALOIDの叔父」の異名を持つ大島治さんから。ボーカロイドがどういったところで用いられているか、また、今後どのように使われていくのか?といった話を、メーカーの立場からお話頂きました。

例えば、ロボットテクノロジーとボーカロイドの融合である、産総研のHRP-4C未夢ダンスデモンストレーションとか。


新宿東口の屋外広告メディア「ユニカビジョン」で行われたARゲリラライブ「VOCALOID3 ユニカビジョンでAR やってみた!」とか。


Google I/O に参考出品された、ボーカロイド+AndroidOS+タッチパネル+キーボード+音声入力という新しい「楽器」であるMV-01とか。


ボクが追いきれていなかった動きもあって、結構興味深かったです。

また、“神調教”と話題になった、産総研による「ぼかりす」の紹介もありました。半自動的にピッチ調性できるという技術で、まもなく商品化されるとのこと。今までのボーカロイドがMIDIのような「プログラム」だったのに対し、ぼかりすはオーディオエディタなので、例えばニコ動で「歌い手」をやってる人がボカロPになれる、といった新しい動きが出てくるのではないか?という話がありました。これまた興味深い。



ボーカロイドが変えるこれからの未来型音楽


第3部では、小川悦司さん、虹原ぺぺろんさん、大島治さんに加え、ボカロPの小林オニキスさん、音楽プロデューサーの牧村憲一さんを交え、「ボーカロイドが変えるこれからの未来型音楽」と題した座談会が行われました。

牧村憲一さんからは、1960年代にギターが若者の手に渡った時と同じような現象が、いまボーカロイドによって起きているのではないか、という話が。小林オニキスさんからは、バンドがうまくいかなくて解散してしまい、曲だけは作っていたけど歌わせられないという状況下で現れたのが初音ミクだったという話がありました。「サイハテ」がニコ動でヒットしたら、突然ソニーからメールが届いたのでスパムかと思ったとか。


最近、レコード会社のプロデューサーが、新人発掘のために毎日ニコ動をチェックしているという話を聞いたことがあります。レコード会社自身による新人発掘・育成という機能がすっかり衰えてしまっているらしいのですね。小林オニキスさんの話は2008年頃のことなので、既にその頃にはレコード会社の機能不全が進んでいたということなのでしょう。

電子書籍時代に出版社は必要か?」のシンポジウムでも話題に挙がっていた「新人育成」という機能が、今ではニコ動のようなCGMがその役割を果たしているというのは、出版社の未来を占う上でも見過ごせない事実だと思います。例えば、漫画専門誌が売れなくなり、書店・コンビニなどで販売されなくなった時にどうなるか?新人育成ができなくなるのでは?という話があります。しかし、そうなったらそうなったで、恐らく別のところが同じような役割を果たすようになるだけなのではないでしょうか?そんな気がします。

小川悦司さんから挙がった、「売る」ことが目的の音楽業界という指摘も興味深かったです。既に売れた曲のコピー、そのまたコピーというやり方でどんどん衰退していってしまった「メジャー」に対し、「作りたい」という気持ちが主体であるニコ動・ボカロというムーブメントは、メジャーではない音楽性がポンポン出てきて界隈が活性化するという状況にあるとのこと。

出版社の場合も、売れた本の二番煎じ・三番煎じの方が、企画としては喜ばれるそうです。大ヒットは絶対しないけど、売れた本の何割かは売れるという見込みが立てられるから、とか。つまりこちらも、コピーのまたコピーで粗製濫造して、活力を失いつつあるということなのでしょう。あっちもこっちも全く同じような動きになっているようですね。大きく業界の構造が変わっていく、過渡期にあるのは間違いありません。

ただ、ボカロ界隈も盛り上がってきたとはいえ、「初音ミク」というキャラクターを知っていても、じゃあボーカロイドって何?と言われるとまだまだ知らない人が多いのが現状、というのは登壇者の共通認識でした。

また、「ぼかりす」に代表されるように、今後ますます人間らしく聞こえる方向へ技術が進歩していった時にどうなるか?という見解もおもしろかったです。例えば、シンセサイザーが登場してすぐの頃に「ピアノ」の音声を出力しても、とてもじゃないけど実際のピアノの音とはかけ離れたものだったけど、今は技術の進歩で生のピアノ音と区別ができないくらいになっているそうです。でも、昔のシンセサイザーのピアノ音で鳴らしたいというニーズも確実に残っている、と。

つまり、今後ボーカロイドがどれだけ進歩していったとしても、1つの音色としてかつてのボーカロイドが選択される可能性はあるだろう、という話です。つまり初音ミクさんは永遠に不滅ということです!!

(そこかよ)

(おちつけ)

もう少し一般的なものになっていって欲しいという願いの一方で、「大きな人たちが何か画策してるのが怖い」という発言が出てくるのも印象的でした。ユーザー主体でボトムから盛り上がってきた文化を、勘違いした権力者や巨大資本が引っ掻き回してしまうかもしれない、というのはちょっと嫌ですよね。新聞・テレビなどのマス(大衆)向けメディアに取り上げてもらうのは構わないのですが、マスメディアで大衆をコントロールできると勘違いしちゃってる人が暴れだすのは困りものです。何か既にそういう動きが感じられるということですよね。怖い怖い。

ちなみに講座が終わってからKazuo Moriさんからチラッと教えていただいたのですが、ボカロP専業で食っていけてる人が、いまだいたい50人くらいはいるそうです。まだまだ規模は小さいですが、「職業:ボカロP」は既に現実化してるんですね。なんか、凄い時代だ。



おまけ。ボカロコスプレの学生さん。


会場の外では、ボカロのソフトウェアやCD・関連書籍などを販売していました。



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虹原ぺぺろんさん初の個人メジャーアルバム。

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