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2012年6月19日火曜日

違法ダウンロード厳罰化によって何が起こるか予想してみた


(※写真:写真素材 足成より)

先程、参議院の文教科学委員会が終わりました。国会中継を見るのはやめておこうと思ったのですが、午後から参考人質疑に岸博幸さん(エイベックス顧問)と津田大介さんが呼ばれているのを知って、午後から見ることにしました。


※プレミアム会員であればタイムシフト試聴できます。

参考人には「違法ダウンロード刑事罰化」に賛成する立場の人と、反対する立場の人、両方から2人づつ呼ばれているのが面白いなーと思いました。「見た目のバランス」というのを考えた上でのことなんでしょうね。

衆議院に比べたらかなり真っ当に議論がなされているように「見える」のですが、この質疑応答が明日以降の採決に影響を及ぼすことは殆ど無いのかな、と思うと少し虚しくなります。



「何を言ったところで覆る可能性は殆ど無い」状態でも戦わなければならないというのは辛いことだろうな、と思います。ただ、津田大介さんは「ネットランナー」という雑誌で「ぶっこ抜き!」などと違法ファイルのダウンロードを助長する記事を書いてきた過去があるので、「法案には反対でも津田大介は許さん」といった具合に不倶戴天の敵として認識している方も多いようです。いくら真っ当なことを言ったところで、聞く耳を持たない人には届きません。残念なことです。

さて、恐らくこの「違法ダウンロード刑事罰化」の法改正は、DVDリッピング規制以上に消費者・コンテンツ業界双方に大きな影響を及ぼすことでしょう。今後どういったことが起こるか、予測してみようと思います。



改めて、著作権法第30条(私的使用のための複製)1項3号の条文を引用します。

3.著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行う デジタル方式の録音又は録画 を、その事実を知りながら行う場合

ちなみに現時点でもまだ、衆議院を通過した自民党と公明党による修正案が衆議院の会議録に載っていないので、この条文は現状のまま罰則規定が追加されただけということを前提として以下話を進めていきます。

昨日のエントリーは、何がOKで何がダメなのかを明確にしておこうという意図で書いたのですが、はっきり言って著作権関連にかなり興味を持ってあれこれ勉強している人間でも、何が合法で何が違法かを明確に判断できない状態です。

例えば、この条文では対象は「デジタル方式の録音又は録画」となっています。では「コンピューターゲーム」はどういう扱いになるでしょうか?コンピュータゲームは「プログラム」の著作物ですが、ゲーム業界はこの条文に「ゲーム」が含まれるという認識をしています。それは、このような判例があるからです。


つまりコンピュータゲームは「プログラム」であると同時に、「映画」「音楽」「言語(テキスト)」「美術(イラスト)」などの著作物でもあるのです。

では例えば、アドベンチャーゲームの画面キャプチャ画像や、ゲーム内で語られているセリフなどの文章が違法にアップロードされている場合はどうでしょう?これをダウンロードすることは今後処罰対象になるのでしょうか?「デジタル方式の録音又は録画」ですから、問題ないような気がしますよね。

ところが一部では「画像」も対象に含まれるという報道がなされています。


恐らくこれは毎日新聞の誤報でしょう。と言いながら実はボクも最初この記事を見たときに、音楽・映画業界が違法化をねじ込んだという経緯は知っていたはずなのに、すっかり忘れて「そうか画像も含まれるんだ」と納得してしまいました。Google+で他の人から指摘をされて初めて気づくという失態をしでかしています。

では例えば、ゲーム画面のキャプチャを繋げてGIFアニメ化したものは「画像」でしょか?「映像」でしょうか?ダウンロードしてはいけないのでしょうか?

他にも例を挙げていくとキリが無いのですが、要するに、著作権法は複雑過ぎるので、一般ユーザーが合法・違法の判断をすることが非常に困難です。だから、本来全く問題無いはずの行為まで敬遠されるようになる可能性があります。CDのリッピングは合法なのに、DVDリッピング規制と同列に考えている人も多いようです。

Twitterを「著作権 -rt」で検索すると、さまざまな声が流れてきます。何が大丈夫で何が大丈夫じゃないのか判らないという、悲鳴にも似た声が多く見受けられます。ぶっちゃけ、ボクもわけがわかりません。



少しシンプルに考えてみましょう。著作権法は親告罪です。つまり、著作権者が「いいよ」と言えば大丈夫だし、著作権者が「ダメ」と言えばダメです。つまり、「違法ダウンロード厳罰化」という法の後ろ盾を得た権利者が、今後どう動くか次第で未来が決まるということになると思います。

山田奨治さんの「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」によれば、2006年に設けられた「私的録音録画小委員会」でダウンロード違法化を強硬に主張したのは日本レコード協会(RIAJ)専務理事です。また、今国会で杉良太郎さんを担ぎだして議員に直接大々的なロビーイング活動を行ったのも、RIAJだと言われています。

日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか
山田 奨治
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だから、「違法ダウンロード厳罰化」を最初に行使するのは、恐らく日本レコード協会でしょう。勘違いしてはいけないのは、音楽には原盤権という強力な著作隣接権があるので、アーティストの意向とは無関係に行使されます。つまり作詞者・作曲者・演奏者が「いいよ!」と言っても、彼らに原盤権が無ければ(レコード会社が原盤権を持っていれば)、「いいよ!」にはならないのです。あまりにも著作隣接権が強いので、嫌気が差したアーティストが原盤権を買い取るようなケースも増えてきているようですが。

ちなみに、前述の私的録音録画小委員会では、WinnyやShareなどのファイル共有ソフトが目の敵にされていたようです。昨日のエントリーでも書きましたが、常時起動してファイルを漁っているような人は恐らく警察に既にマークされています。捕まえやすくて一般ユーザーにも理解しやすいターゲットとして、まず間違いなく最初に血祭りに上げられるでしょう。それが国会議員やその周辺にいる人だと、話題性もあるので狙われやすいでしょうね。

さすがにこの期に及んで、ファイル共有ソフトを使って違法ファイルをダウンロードし続けるような人は、いなくなるでしょう。利用ユーザーが少なくなるほど加速度的に魅力のない場所になるので、WinnyやShareなどのファイル共有ネットワークは壊滅します。

他にも掲示板やアップローダーなど、広く一般にばら撒いてしまう「自動公衆送信」での違法行為は、今後かなり抑止されることになると思います。が、恐らく違法ファイルの交換行為は、より私的な領域でのファイル交換に移行していくでしょう。

例えばDropboxなどのオンラインストレージサービスには、URLを知っている人だけがダウンロードできる機能があります。2ちゃんねるやTwitterのようにオープンスペースでそのURLを配信したら「自動公衆送信」になってしまいますし、誰もが見られる場所での犯罪行為ですから、すぐに捕まってしまうでしょう。でも、メールやFacebookやGoogle+などの「限定公開(限られた人だけが見られる投稿)」であれば、そもそも権利者に認知される可能性が極めて低くなります。

ただ、多くの一般ユーザーは、恐らくそういう面倒なことを嫌うはずです。コンテンツ産業は生活必需品ではないので、「もういいよ面倒くさい。だったらもう音楽なんか聞かない」と、別のエンターテイメントに流れるユーザーも多いのではないでしょうか。接触機会が少なくなればなるほど、興味関心も薄れていきます。音楽に興味を持ちお金を使う人がどんどん少なくなってしまう未来が予想できます。

少なくとも、円盤をプレスして販売するという形での「レコード会社」という業態に、もう未来は無いと思います。



何か明るい展開は無いでしょうか?「飴と鞭」という言葉がありますが、厳罰化の前に、一般ユーザーが安心して利用できる公式サービスを音楽業界が用意することができれば、あるいは……という気もするのですが、今まで提供できなかったモノが、なんで明日から急にできるようになる?とも思います。あまり期待しないほうがいいでしょうね。

そういう意味では、投稿者がダウンロード許可していることを明確にした「NicoSound(音楽ダウンロード)」という仕組みをニコニコ動画が既に用意しているというのは、慧眼だと思います。この仕組みを使ってダウンロードしている限り、「違法であることを知りながら」という要件は満たさないので、安心して利用できます。プレミアム会員しか利用できないのと、まだダウンロードできる動画が少ないのが痛いところですが。

合法であることが明白で、かつ便利で安い(できれば無料)の場に、今後ますます人気が集まることでしょう。つまり、ニコ生やYoutubeチャンネルなどを使い、公式配信される音楽・映像がどんどん出てくることになると思います。ただそこに、レコード会社が原盤権を持っている過去の音源はラインナップされない、そんな未来が訪れるのではないでしょうか。寂しいことです。


[6/20追記]
指摘があったので「NicoSound」について若干補足しておきます。誰がどう見ても違法なファイルがダウンロード可能な状態になっていた場合、やはりそれは「違法であることを知りながら」ということになってしまうのではないか、という話です。


――YouTubeやニコニコ動画で作者が「ダウンロードOK」としたものなら、ダウンロードしても問題ないのですか。

壇弁護士 いいえ。作者が著作権処理をちゃんと行っているとは限らないので、「ダウンロードOK」と書いていた場合であっても、例えばこの作者の動画が他人の著作物を違法に使用しており、ダウンロードする人がそれが違法であることを認識していれば、処罰の対象となります。

もちろんこれは、壇弁護士のおっしゃるとおりだと思います。ただ、「違法であることを知りながら」というのを証明する義務があるのは検察側なので、ニコニコ動画が公式に用意している仕組みでダウンロードしているユーザーを、アップロード側への対処前に捕まえるというのは相当無理筋なのではないかと思うのです。