2012年4月22日日曜日

【書評】高須次郎さんの 「グーグル日本上陸撃退記―出版社の権利と流対協」を読んだ

昨日、空き時間に書店によって、たまたま目についた本です。

書店で「はじめに」をさっと斜め読みしたところ以下の様な記述が目にとまりました。最初の1~6章はグーグルブック検索和解問題の顛末について取り上げています。

また、もうひとつは、グーグルブック検索和解問題で露呈したことで、出版社には紙での出版が許されているだけで、出版者(社)の権利がないことから電子出版の許諾や違法コピーなど、デジタルネットワーク時代に当事者として対応できない問題を取り上げた。そして当面は出版契約書で対処するとともに、出版者(社)の権利を著作隣接権として獲得することの重要性を述べた。

奥付をチェックしたら、著者の高須次郎さんは緑風出版代表、出版流通対策協議会(流対協)会長、日本出版著作権協会(JPCA)代表理事という、「出版社」の立場から様々な活動を行なっている方というのが判りました。恐らくボクとは全く異なる意見をお持ちなのだというのが容易に想像できるのですが、なるべく様々な角度から物事を捉えたいという欲求もあるので購入してみました。

グーグル日本上陸撃退記―出版社の権利と流対協
高須 次郎
論創社
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なぜ出版社が著作隣接権を欲しがっているのか?というのを、出版社の立場から判りやすく解説している本だと思います。



簡単にまとめれば、「デジタル化・ネットワーク化という時代の変化に日本の出版社は対応できていないから、このままいくと出版社の立場が危うくなり商売が続けていけなくなってしまう」という警鐘を鳴らすとともに、自らの権利確保のために何をしなければならないか、というのを指南した本、といえるでしょう。

並べられている言葉の端々からは、思うように動いてくれない日本書籍出版協会(書協)や国に対する憤りと、Googleに対する嫌悪感が伝わってきます。汚い言葉づかいはしていませんが、怒りの感情は伝わってきます。例えばこんな感じ。

ところが書協の選択肢は(中略)結論的には和解参加はやむを得ないというものであった。和解案を認めることは、グーグルによる無断のデジタル化という不法行為を、不問に付すことになるのに、である。
しかし日本上陸のときではもう遅いのだ。(鷹野注:文化庁著作権課には)大した情報もなければやる気もない。日本の活字文化の存亡にかかわる問題などとは毛ほども思っていないのか。

Google Book Searchでは当初、日本語書籍はほとんど「絶版」扱いになっていたそうです。そりゃ出版社の立場からすれば、腹立たしいことでしょう。和解案の翻訳がうまくなかったというのも、出版社を怒らせる原因だったようです。少し長いですが引用します。

 和解案では、「2009年1月5日現在で『市販されている』または『市販されていない』という書籍の分類を行います」。「書籍を米国内のひとつ以上のその時点(筆者注:1月5日現在)における伝統的販売経路で売りだしているとGoogleが決定した場合に、Googleはその書籍を『市販されている』と初期分類します」。「市販されていると分類された本は刊行中であると仮分類され、市販されていないと分類された本は『絶版である』と仮分類されます」となっている。
米国における伝統的販売経路といえば、一般的には書店であろう。米国の書店では日本語の本をそうは売っていない。しかも売っているかどうかはグーグルが決定するのである。そうなれば日本の本はほとんどが「市販されていない本」とされ、「絶版である」と判断されてしまう。
筆者の出版社も含め流対協会員社のほとんどの本が「絶版」扱いになっていたのは、こういうカラクリによるものであった。

実際のところ、このGoogleの和解案には、世界各国の出版社や書店組合、消費者団体などから反対の声が挙がり、米国司法省も介入して修正を求めるという事態にまで発展しました。

そういったさなか、Googleを訴え和解した原告団が来日し、会見・質疑応答を行いました。その中で、日本の書籍が日本で流通している状態であれば、それは「市販されている」と分類されるという見解が示されました。ただ、それを説明したのが和解した原告団で、Google自身ではないというところで、不信感は払拭できなかったようです。

ボクが一番違和感を覚えたのが以下の記述。原告団に対し、こんな質問が投げかけられているんですね。

質問 日本の出版会独特の習慣である「品切れ・重版未定本」の扱いは。

原告団からは、書協・日外・Amazonのデータを使用して刊行中か否かを判断するので、データ上「刊行中」になっていればそれは絶版扱いにならないという回答が示されました。しかし、そもそも「品切れ・重版未定本」という習慣がなぜあるのか、それは誰得なのか。出版契約そのものが口頭で取り交わされてたり、なし崩し的に自動更新されてる状況で、出版社に出版権を留保させるのに都合のいい風習というだけの話ではないのでしょうか?アメリカと違い日本の出版社には著作権が無いため、このような商習慣がまかり通ってきたということでもあるとは思いますが……。

結局和解案は修正され、対象となる書籍はアメリカ・カナダ・英国・オーストラリアで出版されたものに限定され、日本の出版物は大半が対象外となりました。こういった経緯があるから、電子書籍ストアの多くが海外から購入できないという馬鹿な仕様になっているのでしょう。

このGoogleショックがもたらした影響は、非常に大きいものでした。まず、「人類の英知を保存して公開していく」というデジタル・アーカイブ構想を、国が主導して行うことになったこと。出版社が紙の印刷という出版権しか持っておらず、著作権はおろか著作隣接権も持っていないこと、多くの場合著者とデジタル出版物に対応可能な出版契約を結んでいないことなどが明らかになったことです。筆者は電子図書館構想に対し、このような批判を向けています。

著作者と出版社が長い時間と費用をかけて編集発行した本のデジタルデータを、法律の強制力で召し上げようとしているとしか思えない。封建時代の悪代官も顔負けである。

これと類似したところで、「新刊が発行されると同時に、図書館に大量に置かれてしまうため、出版物が売れなくなっている!」というような主張もありますね。最近図書館がやたら繁盛しているらしいですが、経済が停滞して余裕の無い人が増えてきているということの裏返しなのでしょうか。可処分所得が無いと、お金をかけない方法に頼るしかありませんからね。

ボクは自由に使えるお金がほとんど無い子供の頃、図書館にはとてもお世話になりました。大量に本を借りて、片っ端から読んでました。それに飽きたらず、書店で朝から晩まで立ち読みするようなこともありました。そうやって本に慣れ親しんできたから、今でも本を読む習慣があるのだと思っています。

さて、出版社が著作隣接権を欲しがる理由の1つとして、「出版社が権利を持っていれば、著者に成り代わり差止請求を行えるようになり、効果的な違法複製を行えるようになる」というのが挙げられています。本書でもそういう論理展開がなされていますが、著作隣接権を持っているレコード会社の現状を見れば、出版社への権利付与が無意味であることは明白ではないでしょうか。全く説得力が無いんですね。

筆者も以下のように述べています。

(前略)出版社が著作権者のビジネス・パートナーとして、出版者の権利を著作隣接権として付与されることが、著作権者、利用者の利益になるという明確かつ説得的な説明ができないと、(中略)情勢は厳しいと言わざるを得ない。

仰る通りで、申し訳ないが本書を読んでも出版社への著作隣接権付与が著者や利用者の利益になるとは思えませんでした。もちろん、出版社の果たしている役割を過小評価するつもりはありません。なんだかんだ言ってテレビ放送の影響力がまだまだ絶大なのと同様に、出版流通の仕組みもまだ影響力大きいですからね。何万部というブツを全国津々浦々の書店に置くというのはとてつもないコストがかかる話で、ネットで著者が自らSNSやブログで宣伝するのはコストはかからないけど伝播力に欠けます。出版社や取次・書店が、そういう役割を果たしているというのを否定するつもりはありません。ただ、誰でも容易に複製ができるようになった時代に、複製に多大なコストを要した時代の論理や法を振りかざしても、納得してくれる人は少ないということです。

法による権利付与に時間と労力がかかるので、著者と取り交わす出版契約書の内容を出版社に有利なものにしようという動きも、理解はできます。が、納得はできません。実際、書協が用意している電子出版対応契約書ヒナ型は、既にこんな文言になっています。

第2条(電子出版の利用許諾および第三者への許諾)
(1)甲は、乙に対し、乙が本著作物を、日本を含むすべての国と地域において、以下の各号に掲げる方法のいずれかまたはすべてにより、本著作物の全部または一部を電子的に利用すること(以下「電子出版」という)を 独占的に許諾する。

この意味をちゃんと理解して契約を結んでいる著者がどれだけいるでしょうか?独占許諾ということは、他にいい方法があったとしても変えられないということです。会社組織であれば法務部門が契約書の文言に目を光らせ、自社に不利になるような文言は事前にチェックして場合によっては拒絶することも可能でしょうけど、多くの著作者は出版社を信用し、ろくに文言に目を通さず契約書にサインをしてしまうのではないでしょうか。

もちろん出版社がちゃんとその役割を果たしてくれれば問題ないのですが、現状はどうでしょう?新刊発行と同時に、電子書籍が購入できるようになっている出版物がどれだけあるでしょう?使いづらいストアでしか取り扱っていないケースがどれだけあるでしょう?権利を主張する前に、著作者や利用者への義務を果たせと言いたい。

そういう憤りを新たにできた一冊でした。

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