クリプトンと二次創作と、同人・頒布・ダウンロード販売について

デジタルデータのダウンロード販売に関しまして – ピアプロブログ

クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下、クリプトン)から、キャラクターを用いた二次創作物を、デジタルデータとしてダウンロード販売することは許諾しないという声明が出されました。これを受けて、今まで Gumroad での同人誌販売を推していたニュース系サイトも、慌ててこれを報じることになりました。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1202/22/news116.html

「初音ミク」2次創作物のDL販売は原則NG クリプトンが改めて説明 – ITmedia ニュース

ピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)」は「初音ミク」に限った話ではないので、このタイトルは不適切ですが、影響力のあるメディアが報じたというのは大きかったようで、2ちゃんねるまとめブログなどにも次々に記事が上がって、それが Twitter で拡散され……という形で、この件が広く認知されることになったようです。

これによって、「可愛い!」と評判になっていた『Tda式アペンドミクMMDモデル』が、ダウンロード販売を開始直後に中止しています。

これらの経緯が、情報が伝播していく過程で歪められてしまったのか、Twitter での反応を見ているとクリプトンの声明に反感を覚えている人が少なからずいるようです。中には、「著作権フリーじゃなかったの?」とか「独占禁止法に引っかかるでしょ」などといった、誤解をしている方もいました。そこで、少し話を整理してみようと思います。

ニコニコ動画のクリエイター奨励プログラムについての記事でも触れましたが、まず大前提として、権利者の許諾を得ていない二次創作物は著作権侵害です。ただし、日本の法律では著作権侵害は親告罪なので、権利者が問題としなければ許容されます。そして、二次創作の文化は権利者の “黙認” によって育まれてきた歴史があります。

あくまで “黙認” なので、どこまでなら許されるか?という点は、ケースバイケースです。つまり、どこに崖があるかわからないチキンレースが行われているのと同じ状態なのです。

クリプトンも当初は “黙認” だったのですが、そこから一歩踏み込んで、どこまでなら許されるか?という点を明確にしました。つまり、二次創作を “公認” したのです。これは、営利企業では過去にあまり例のない珍しいことでした(※東方プロジェクトは同人活動です)。

[追記:ゲームメーカーで、Keyリーフ/アクアプラス は公認しているそうです。情報ありがとうございます。]

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/event/2008/03/18/18840.html

「初音ミクの著作権ってどうなの?」販売元のクリプトン伊藤社長が講演(2008.3.18)

詳細は上記の記事やクリプトン自身が公表しているガイドラインを読んで頂きたいのですが、クリプトンは「製品」と「キャラクター」で別々のガイドラインを定めています。

  1. 音声合成ソフトを用いて楽曲を作る
  2. キャラクター(絵)を用いて二次創作を行う

今回ピアプロブログで出された声明は、2.に対してのものです。「初音ミク」などのクリプトン製音声合成ソフトを、楽器として用いて作成したオリジナル曲を販売することは当初より許諾されている行為です。楽曲が二次創作(アレンジ)の場合は、元曲の著作者への許諾が必要なのであって、クリプトンが関与する話ではありません。

オリジナル曲でも、カバージャケットにクリプトンのキャラクターを用いる場合は、配信代行サービス「ROUTER.FM」を使い、ピアプロリンクへ申請すること、というルールになっています。

http://router.fm/

独立ミュージシャン向け音楽配信サービス「ROUTER.FM」(ルーター)

キャラクターを用いて二次創作を行う場合は、こちらのガイドラインに従うことになります。

http://piapro.jp/license/character_guideline

PIAPRO(ピアプロ)|キャラクター利用のガイドライン

このガイドラインで注意すべきなのは、営利目的での使用は禁止されていること、A.非営利かつ無償の利用について と B.非営利かつ有償の利用について が別になっている点です。簡単に言えば、非営利無償の場合は許可を取る必要はありませんが、非営利有償(つまり同人誌などの頒布)の場合は、事前にピアプロリンクから申請して許可を取って下さい、という形になっているのです。

非営利有償(頒布)の定義も明記されています。利益を上げることを目的とせず、原材料費または会場費程度の支出を補うために必要最小限の対価を受け取って、キャラクターの二次創作物を自ら小規模に配布すること、です。つまり、頒布をショップへ委託するのもガイドライン違反です。

ダウンロード販売の何が問題か?というと、印刷物やCD-ROMなどとは違い、ネット上での複製コストはゼロなので、めちゃめちゃ利益が出ます。『Tda式アペンドミクMMDモデル』の販売をクリプトンが放置していたら、看過できないほどの利益が出ていたでしょう。そして次々に、ガイドラインを破る行為が横行していくことになったでしょう。

だから、クリプトンが感知した時点で即座に、具体的な名前は挙げずに釘を刺したということなのだと思います。恐らく、具体的な名前を挙げるとニュース系サイトなどでも名前が出てしまい、大事になってしまうので、避けたのでしょう。これはクリプトンの優しい配慮だと思います。

この事例がもし、同人イベントでCDによる頒布だったら、ピアプロリンクから申請さえしておけば問題なかったという話なのです。

http://piapro.jp/

PIAPRO(ピアプロ)|CGM型コンテンツ投稿サイト

※ピアプロリンクのボタンは、[MYページ]の[登録情報]の一番下にあります。

最後に、頒布について。クリプトンの定義では「利益を上げることを目的とせず」となっていますが、実態としては同人誌の頒布で結構利益を出している事例が一部にあるのも事実です。本来なら、キャラクターを利用した二次創作が許可されている範囲は非営利なのですから、全て頒布できてトントンになる程度の価格設定が望ましいのです。

ただ、全て頒布できるという事例の方が珍しいため、実際には頒布価格の設定を甘めにしている場合が多いと思います。その辺りの事情までは踏み込まず、クリプトンも目をつぶっているというのが実情だと思います。

それはクリプトンに限らず、他の黙認されている二次創作同人誌であっても同じ話です。同人イベントで行われるのは、購入者がお客様である “即売会” ではなく、全員がイベント参加者である “頒布” なのです。法的には頒布も販売も同じ行為ですが、「利益を上げることを目的とはしない」というのが建前になっているから黙認されているのです。二次創作を行う人は、そこを決して勘違いしてはいけないと思います。

「儲けたい」ならオリジナル作品を作りましょう。

二次創作で高いレベルの作品を生み出せるなら、きっとできるはずです。

[追記:法律的には “二次創作” という言葉は無くて、”二次的著作物” と言います。ただし “二次的著作物” には、オリジナル作品を素材として加工する “二次利用” と、モチーフにして創作を行う “二次創作” の両方が含まれます。今回の記事は後者を中心とした話なので、あえて “二次創作” という言葉を使っています。]

念のため、独占禁止法に引っかからない理由について説明しておきます。

独占禁止法第21条は、「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。」と規定している

……という理由です。

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