2012年2月7日火曜日

【書評】アシモフさんの「生命と非生命のあいだ」を読んだ。

東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きてから、なにやら科学的なものに対する風当たりが強くなっているような気がします。

「科学者たちは、『絶対大丈夫、事故なんか起きない』と言ってたじゃないか!」

……もちろん本当の科学者なら、「絶対大丈夫」なんてことは言いません。科学は絶対ではないことをよく知っているからです。科学の歴史上、それまで常識だったことが、ひっくり返った事例なんてたくさんあります。

科学を絶対的なものだと捉えるのはむしろ、科学をよく知らない人々や、科学をよく知らない人々を騙そうとする人々、科学をうまいこと利用しようとする政治なのではないでしょうか?




科学はどんどん進歩しているから、理解するのも説明するのも難しいんですよね。難しいことはハナから理解しようと思わない人も多いですし、説明する側は常識だと思っているから専門用語をバンバン使ってしまいますし。

だから、ニセ科学とか疑似科学みたいなものに、すぐ騙されちゃう&騙せちゃう。

例えば相関関係と因果関係というのがあります。仮に、携帯電話の普及率と、離婚率の上昇が、似たような傾向を示していたとします。この相関関係だけの段階で「携帯電話が普及すると、離婚率が上昇する!」というようなことを言い出すのがニセ科学です。どこに因果関係があるか、立証しようとするのが科学。

ところが、ニセ科学に騙され続けた人々が、今や科学者や科学そのものを信用しなくなっているような気がするんですね。何がホンモノで、何がニセモノなのか、見極めが困難になってしまった。よく判らない。でも騙されたくない。だから信じない。そして変なものに騙される。悪循環ですね。

最近読んだ「3・11の未来」や「追悼小松左京」からは、科学者やSF作家の煩悶が伝わってきます。どうしたらいいのだろう?と。我々には何ができるのだろう?と。

で、先日たまたま調べ物をしていたら、SF小説の巨匠であるアイザック・アシモフが、小説だけではなくノンフィクション(科学エッセイと言った方が正確かもしれません)も書いているのを知りました。俄然興味が湧いて、何冊か買ったうちの1冊がこの「生命と非生命のあいだ」です。初版は1967年。人類が月に降り立つ寸前の頃です。

巻頭に、アシモフがボストン大学医学部の学者をしながらSF作家デビューする際に周囲の目を危惧したこと、後にノンフィクションを書く時にSF作家の経歴が邪魔するかと思ったらそんなことはなかった、というようなことが書いてあります。科学知識を素地とした虚構を描き、後に科学を判りやすく伝えるための本を書く。たぶんアシモフも、煩悶していたんでしょうね。どうしたらいいのだろう?私には何ができるのだろう?と。

ボクはこの本を、そんなことを想像しながら読みました。書いてある内容は当時(45年前)の先進科学なので、現在のボクたちには古いものです。それでも、比較的科学が好きなボクでも、知らなかったことが出てきます。アシモフがどれだけ幅広くて深い知識を元にSFを書いていたのか、科学技術を元にどんなことを夢想していたのかが、この本からは伝わってきます。

第4部 未来の生活 からは、アシモフの本領発揮です。このまま科学が進歩したら、未来はどうなるか。1990年、2014年と、当時から考えてもわりと近未来の予測をしています。人口の増加率というのは比較的予測しやすいらしいのですが、アシモフは当時の世界人口30億人から、2014年には65億人というほぼ近似(昨年10月末に70億人突破)の予測をしています。

当然、予測には当たっているものもあれば外れているものもありますが、かなり楽観的な未来を思い描いていたのだな、という印象を受けます。ただこれは、アシモフ自身が信じていたというよりは、この本を読んだ人々に「科学技術の発達は人類に明るい未来をもたらす」ことを信じて欲しかったのではないでしょうか。

それは、アシモフによるSFの定義からも読み取ることができます。現実世界を舞台としたフィクションに対し、"虚構の背景による文学" という位置づけを行い、その中でも "科学技術の進歩に対する人間の反応を論ずる文学のジャンル" を SF と定義しています。まさに「このまま科学が進歩したら、未来はどうなるか」です。

いまではSFというジャンルの隆盛と衰退、あれはSFだこれはSFじゃないといった論争の果てに "虚構の背景による文学" すべてが SF (すこし・ふしぎ)というところに落ち着いているようですが、アシモフがなぜSFをそのように定義したか、その背景に今一度思いを馳せてみるのもいいのではないだろうかと思いました。


生命と非生命のあいだ (ハヤカワ文庫 NF 24 アシモフの科学エッセイ 4)
アイザック・アシモフ
早川書房
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