2012年1月15日日曜日

【書評】上田早夕里さんの「華竜の宮」を読んだ

第32回日本SF大賞受賞作。発表直後にAmazonで注文したら在庫切れで、届いたのは2週間後でした。恐らく書店の店頭にも、在庫が無い期間が長かったのではないでしょうか。話題になった瞬間に購入できないというのは、手痛い機会損失だと思いますよ? 早川書房さん。

華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
上田 早夕里
早川書房
売り上げランキング: 10056

ちなみに、届いてすぐカバーを外してあったので、カバーの裏表紙にあらすじが載っていたのに、今気がつきました。
上田早夕里さんの本を読むのも初めてだったので、世界観を共通する作品があるということはこのインタビューを読むまで知りませんでした。今後読んでみようと思います。

「上田早夕里『華竜の宮』インタビュー」聞き手・高槻真樹 - SF Prologue Wave
http://prologuewave.com/archives/853

魚舟・獣舟 (光文社文庫)
上田 早夕里
光文社
売り上げランキング: 6542
地球環境というものを考えたとき人類が占めているのはほんのわずかな領域で、圧倒的大部分は人間じゃないもので構成されているわけです。小説というのは人間を書かなあかんというのは一般小説の話で、でもそれは違う、と教えてくれたのが私にとってのSFだった。だから人間じゃないものも出さないと意味がない。人間の価値観や善悪とはまったく関係なく生きているものがこの世界にはいっぱいいっぱい居るよというのが私にとってのSFの価値(後略)

小松左京さんの追悼本を読んだり、SF作家や科学者などをフォローしていて感じるのが、彼らの多くはこの「人間というちっぽけな存在」といった一歩引いた観念で世の中を見つめている、ということです。「日本沈没」も「死都日本」も、この「華竜の宮」も、数百万という人々が大自然の猛威を前にあっけなく死んでいきます。

文明発達の歴史は自然との戦いの歴史でもあるわけですが、地球がちょっと身震いしただけで人間の営みなどあっけなく崩れ去っていってしまう。東日本大震災では、そういう自然の荒々しい姿を「現実」として見せつけられました。Youtubeなどに鮮明な映像の数々がアップロードされていますが、映画のSFXなんて本当に陳腐なものなんだなと感じてしまいます。技術の粋を尽くして建てられたはずの防波堤が、もろくも崩れ去ってしまう。今の土木技術では、本気を出した自然に勝つことなど到底できやしないのでしょう。

さてこの「華竜の宮」は、海底隆起により多くの陸地が海に沈んだ未来を描いた作品です。冒頭は 「日本沈没」や「死都日本」 のような、現代に近い話から始まります。科学者が出てきて、地震が起きて……という始まり方は、「日本沈没」を想起させられるのですが、そこから一気に「遺伝子工学や生物兵器などが歪な方向へ発達したら、もしかしてこういう未来もありえるかもね」という、ファンタジックな方向へ話が吹っ飛んでいきます。

陸上民と海上民、ネジェスと汎アジア連合(汎ア連)、人間と獣舟という対立軸。陸上民とアシスタント知性体、海上民と魚舟というパートナー関係。こういったファンタジックな世界設定が、プロローグの20ページほどで一気に説明されます。冒頭に出てきた科学者は、その後のストーリーに全く関わりません。この吹っ飛び方についていけなくなると、その後のストーリーを追うのが難しくなるのがこの作品の難点だと思います。

人称が章毎に変わるのも、この作品の特徴です。外交官周辺の話は、彼のアシスタント知性体の目線で「僕」という一人称の語りになります。それ以外の登場人物周辺の話は、三人称になります。場面転換で急に一人称になるのが印象的でした。あまりこの辺りを突っ込んで書くとラストシーンのネタバレになってしまうかもしれないのですが、最後まで読むと「なるほど、だから一人称にしたのかな?」という筆者の狙いがなんとなく判りました。主人公的な動きをするのは外交官なんですが、この物語の主人公は彼のアシスタント知性体だ、というのを強調するためなのでしょうね。

本文586ページで上下2段なので相当ボリュームがありますが、最初から最後まで一気に読破しました。ボクは面白くない本は途中で投げ出すし、話に飽きてくると休み休み読む習性があるので、このボリュームを一気に読ませるだけの面白さは確実にあります。それは、上記のインタビューで筆者が言っている「人間の価値観や善悪とはまったく関係なく生きているもの」と、人間との交流が、魅力的なドラマだったからなのかな? と思いました。

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