2012年1月28日土曜日

ニコニコ動画クリエイター奨励プログラムの可能性と問題点(1/29訂正版)

※こちらの記事を更に修正したものがあります


昨年末に、『ニコニコ動画』・『ニコニコ静画』・『ニコニ・コモンズ』への新サービスの1つとして"クリエイター奨励プログラム"が加わりました。これは、人気の出た投稿作品の制作者に対して、ニコニコポイントまたは現金で奨励金が払われるというものです。

端的に言えば、動画やイラストなどの創作活動に、人気が出ればニワンゴがお金を払いますよ、という話です。これはなかなか画期的なサービスだと思います。YouTube に動画を投稿してある程度再生されると、Google から「広告を載せて収益を上げませんか?」というお誘いがきますが、ニワンゴのこのサービスはそれを更に一歩進めたものと言えるでしょう。

「クリエイターにお金が入る道を新しく創ろう」という理念は素晴らしいと思います。ただ、現状の制度やシステムには様々な問題点が見つかっており、"創作者の支援"と"二次創作文化の推進"を目的とするサービスが、逆に創作者を萎縮させ二次創作文化を崩壊させかねないという危惧を抱かせてしまうような状況になっています。


まず大前提として一般的に、権利者の許諾を得ていない二次創作物は、著作権侵害となる可能性があります。また、転載や引用は、条件付きで認められている行為です。ただし、日本の法律では著作権侵害は親告罪なので、権利者が問題としなければ許容されます。そして、二次創作の文化は権利者の"黙認"によって育まれてきた歴史があります。

わかりやすい事例は、二次創作同人誌の頒布です。過去には、ドラえもん最終回同人誌に対し、権利者である小学館・藤子プロは当初黙認していたものの、あまりに広まってしまったために著作権侵害を通告し、二次創作の著者は頒布停止・利益返還して和解したという話があります。東方プロジェクトや初音ミクが同人活動なら基本的に無許可でOKにしていたり、ニコニコ動画で人気のアニメMAD動画が削除されないのも"黙認"です。

そして、どこまでなら許容するかというのは、権利者によって異なります。二次創作は一切認めないという権利者もいれば、MAD程度なら宣伝になるから問題としないという権利者もいます。多くの場合、お金が絡むことによって、許容範囲は異なってくると思われます。[1/29削除]

さてこれらを前提とした上で、『ニコニ・コモンズ』や"クリエイター奨励プログラム"にどのような問題点が指摘されているかを挙げ、その解決策を提示させていただきます。


1.クリエイター奨励プログラムに、著作権侵害作品が登録されてしまう可能性がある

無断転載や権利者の許諾を得ていない二次創作物がクリエイター奨励プログラムに登録され、クリエイター奨励スコアが配分されてしまう可能性があります。この場合、本来の権利者が知らないうちに登録されているケースと、登録後に権利者が知ったけど"黙認"しているケースが考えられますが、権利者が"黙認"した場合は問題になりません[1/29追記及び削除] 黙認には権利者が泣き寝入りしているケースもあります。

規約上、クリエイター奨励プログラムに登録できるのは第三者の権利を侵害していないものに限定されています。また、一定額以上を受け取る見込みのユーザーについては、規約違反についてのチェックを厳重にするそうです。[1/29追記] ただ、そのチェックを運営側の少人数で行うとすれば、「スクエニマンガ大賞」盗作事件のように、チェックの目をくぐり抜けるモノが必ず出てくるでしょう。

この問題のポイントになるのは、現状のシステムだと『ニコニコ動画』・『ニコニコ静画』・『ニコニ・コモンズ』に登録されている作品が、クリエイター奨励プログラムに登録しているかどうかが判別できない点にあると思います。

つまり例えば、勝手に登録した人にお金が入るなら"黙認しない"という権利者というのは可能性として充分考えられますし、お金が入るかどうか判らないなら全て黙認しないという判断をする可能性もあるわけです。今まで黙認されてた二次創作動画が、最悪の場合全滅するかもしれません。

ボクがこの問題の解決策として考えたのは、以下の三点です。
  • クリエイター奨励プログラム登録作品か否かを第三者が判別できるようにする
  • 誰がどの作品で奨励金をいくら稼いでいるかを"見える化"する
  • 権利者巡回済み(黙認)というのを第三者が判るようにする
その作品を権利侵害として削除するかどうかの判断は権利者が下すものであり、ニコニコ動画の運営や第三者が決めることではありません。ただ、権利者が全ての登録作品をチェックするのは事実上不可能であり、善意の第三者による権利者への通報は有効的です。

[1/29追記] ただし本来はサービス提供者であるニワンゴが、責任を持ってチェックを行うのが道理であり大前提です(この前提が抜けていたのは記事として致命的なミスです。申し訳ありません)。

ただ、そもそもお金が絡んでなければ問題としない権利者もいるでしょうし、稼いだ額次第では許さないという権利者もいるでしょう。そういう判断材料が現状では見えないため、周囲が不信感を抱いているということだと思います。

逆に、権利者が黙認した(削除されない)[1/29削除] 作品に対し、いつまでも善意の第三者による通報が届くというのも煩わしいことだと思います。[1/29追記] そこで、特に通報が多くて煩わしいような場合には、権利者が任意で"権利者巡回済み"マークを付けられるようにしてはどうでしょうか。

そういった様々な判断材料を"見える化"することで、この問題の多くが解決されるのではないかと思います。

ちなみに余談ですが、クリエイター奨励プログラムの原資は一定額なので、将来的に登録作品が膨大な数になれば、1人あたりの還元額はどんどん小さくなり、問題が希薄化していく可能性があります。登録者が少ない今だから、どかんと儲けてしまう=許容できないという判断をされる可能性が高くなってしまうわけです。[1/29追記及び削除] ただ繰り返しになりますが、どこまでなら許容できるかというのは権利者によって異なりますので、「金額の大小・有無が問題ではない」という怒りの声も挙がっていることを付け加えさせて頂きます。


2.『素材ライブラリ』登録時に、安易に"営利利用可"が設定できてしまう

『ニコニ・コモンズ』の『素材ライブラリ』に登録する際に、以下のような利用条件の設定を行います。
・営利目的で利用しても良いですか
├ 無償で自由に利用して構いません。
├ 非営利目的でのみ利用して下さい。
└ 営利目的で利用する場合には別途許可を取って下さい。
・この作品の利用許可範囲を選んでください
├ ニコニ・コモンズ対応サイトに許可
└ インターネット全体に許可
http://help.nicovideo.jp/niconicommons/2008/08/post_7.html
この中で曲者なのが「無償で自由に利用して構いません(営利利用可)」です。黙認されているだけの二次創作物著作者が、権利関係の意識が低いために"営利利用可"として登録してしまっているケースが見受けられます。[1/29追記] また、無断転載での"営利利用可"登録というケースもあります。そのまま著作者が気づかなければ、その素材を利用する人が、知らないうちに著作権侵害をしてしまう可能性があるのです。悪質なケースとしては、知っていても知らないフリをする"仁義なき二次利用者"の可能性も考えられます。

また、オリジナル作品であっても、安易に"営利利用可"にすると、そのデータを利用した二次創作物でめっちゃくちゃ利益が出ても、自分には還元されず悔しい思いをするという可能性もあります。

この問題の解決策としては、利用者の権利意識を高めることと、安易に"営利利用可"を設定できないようにすることです。後者に関しては特に、利用条件設定時のデフォルトが"営利利用可"になっているのがまずいと思います。
他にも、親素材が"営利利用不可"なのに、子素材が"営利利用可"に設定できてしまうという、親子逆転が可能な仕組みになっているようです。これはシステムで防げることなので、早急な対処をお願いしたいところです。


3.その他

『素材ライブラリ』の"営利目的"の定義は、規約上以下のようになっています。
・登録作品またはその派生作品を利用することによって、利用者またはその他の第三者が直接的に金銭その他の経済的利益を得る場合(例えば派生作品を有料でダウンロードさせることによって提供する場合など)、または得る可能性のある場合
なお、株式会社ニワンゴが提供するサービスによって利用者が直接的に金銭その他の経済的利益を得る場合については、作品登録者が相当な期間内に異議の申立てを行わない限り、営利目的での利用とはみなさないものとします。
・特定の商品・サービス・商店・団体の宣伝広告のために、登録作品またはその派生作品を利用する場合
・専らウェブサイトのアクセス数を増やすことのみの目的や、ウェブサイトのアクセスを増やすことでサイト運営者がアフェリエイト等の収入を得るための目的で、登録作品を集合的に一つのウェブサイトに掲載する行為
・上記行為に準じる行為
http://help.nicovideo.jp/niconicommons/2008/08/post_70.html
ここで問題になるのは、"同人誌の頒布"の扱いです。同人誌は販売ではなく頒布だというのが建前になっており、だからこそ「同人活動の範疇なら許容します」というのが文化になっていました。しかしこの規約文言を字義通りに受け止めると、"同人誌の頒布"も"営利目的"になってしまいます。これは東方プロジェクトや初音ミク同様に、運営が「同人活動は"営利目的"ではありません」という宣言をすれば、とくに問題はありません。そうでない場合は、大問題になる可能性があります。

また、『素材ライブラリ』の利用規約違反報告画面には、著作権侵害以外の法令違反(中傷など)を報告する手段がありません。『ニコニコ動画』や『ニコニコ静画』にはあるのに、『素材ライブラリ』には無い理由が判りません。

無断転載を著作者がチェックしきれないという問題もあります。これに関しては前述の通り、善意の第三者が運営に通報するのではなく、著作者に教えてあげるという流れになると良いと思います。繰り返しになりますが、その通報に対しどう対処するかは著作者次第です。

あとは、"のまネコ"のような匿名掲示板から生まれた"誰のものでもない"キャラクターが勝手に登録された場合にどうするか、という問題があります。ただこれは、匿名掲示板の"匿名性"との天秤なので、対処の難しい問題です。現実的には、キャラクターを生み出した人が名乗りでた上で、商用利用は認めないという宣言をするしかないと思います。


『ニコニ・コモンズ』の"クリエイター奨励プログラム"や『素材ライブラリ』は、"創作者の支援"と"二次創作文化の推進"という素晴らしい目的のために作られた仕組みです。ただ残念ながら、現状のままでは今まで挙げてきたような様々な問題点があります。それは少しの改善で修正可能だと思います。ぜひ対処頂きたい。

※関連まとめ
http://togetter.com/li/248473
http://togetter.com/li/248485


[1/29追記]
アニメーション監督の北久保弘之さんから、映画やアニメの"製作委員会"方式のような複数の権利者がいる場合は権利の強さ・許容度がバラバラなため統一見解を出すのが難しく、結果的に違反動画が放置されているケースがある、ということなどを教えて頂きました。こちらのまとめ後半部分です。
http://togetter.com/li/248745


[更に追記]
この記事がガジェット通信に転載されたことで、たくさんの方の目にふれて、たくさんの賛同と批判を頂きました。ありがとうございます。ボクはなるべく物事を客観的に見ようと心がけていますし、ニワンゴやその関係者・取引関係などから一切対価は貰っていません(証明する術がありませんが)が、完全な中立というのもあり得ないと思っています。

二次創作文化が潰れてしまうのは嫌です。一次創作者へ還元される対価が少なくなっていく現状にも危機感を覚えています。だから、この"クリエイター奨励プログラム"には可能性を感じています。ただ、現状の形には問題点がいっぱいあるため、冒頭にも書いた通り逆に創作者を萎縮させ二次創作文化を崩壊させかねないと考えています。

ユーザーを敵に回したら、ニワンゴという会社は成り立たなくなります。多くのユーザーがこの問題を認知すれば、ニワンゴとしても問題点を修正しないわけにはいかないはずです。だからボクはまず、スタートから3ヶ月経つ最初のタイムリミットまでに、まずは問題を認知させることが重要だと考えこの記事を書きました。

いろいろなご指摘を頂きました。問題点の把握の仕方や解決方法について、まだまだ考えが浅かったですね。反省します。ご意見を参考にして、文中に若干追記をさせて頂きました。

この記事をきっかけとして、どうすればみんながハッピーになれるかという議論が深まっていくことを期待します。

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