2011年12月22日木曜日

非破壊自炊が音楽CDのリッピング並みに手軽になったら?

さて、1つ前のエントリーは、著者側の「裁断された本が可哀想」という主張は、読者の反感を買う愚かな戦術だった、という趣旨だったわけですが、もう少し視界を広げて考えてみると、技術の進歩がそういった努力を何もかも無に帰す将来が見えてきます。

非破壊自炊を手軽かつ最速で行えるカメラアプリ「JUCIE」リリース
http://gigazine.net/news/20111219-non-destructive-scan-iphone-app-jucie/

これは東京大学の研究室が開発した技術(※追記:ご指摘を頂きました。JUICEは東京大学の研究技術と無関係とのことです)書籍をパラパラめくる様子を撮影するだけで、ソフトがページの歪みを自動的に補正してデジタル化してくれるというものです。
(※こちらの動画は、東京大学の研究室が開発した技術です)
こういう方法なら本は裁断されませんから、「本が可哀想」という主張は的外れになるわけですね。「自炊代行」という業態が商売として成り立つのも、「自炊」という行為が現状では非常に手間がかかるから。音楽CDのリッピング並みに誰でも手軽に行えるなら、誰もわざわざお金を払って代行してもらおうとは思わないわけです。



技術の進歩は恐ろしい。たぶん次は、自動でページをめくる機械が超安価になるでしょう。そうなれば、恐らく今回の提訴に裁判所が判断を下す前に、「自炊代行」という業態の企業は姿を消すことになると思います。

さて問題は、そういう時代になった時、読者も著者も関係者も、みんなが幸せになれるかどうか?という点でしょう。端的に言えば、コンテンツから収益が得られなければプロ作家や出版社という商売が成り立たなくなり、結果的に読者が良質なコンテンツを手に入れられなくなってしまう、ということです。

そんな、誰も幸せになれない未来を、ボクは望みません。音楽業界が Apple = iTunes の登場によってデータ販売の市場が成立したように、出版業界にも健全な形の電子書籍市場が成立してくれないと困るんです。

恐らく、関係者みんなが幸せになる未来は無いでしょう。例えば、活版印刷という業態があります。かつての出版物は全て、鉛でできた文字を1つ1つ手作業で並べて版にし、印刷されていました。印刷技術の発達により、活版印刷は壊滅しました。文字を並べる職人は、ほとんどいなくなりました。余談ですが、活版印刷が消えていく時に、守旧派の作家がけっこう反発していたらしいですね。今は「アート」として辛うじて絶滅は免れているようです(※参考:活版印刷@中村活字)。

電子書籍市場が広がっていく時に、間違いなく打撃を受けるのは「書店」でしょう。音楽CDだけを販売するショップという業態が、今では成り立たなくなっているのと同じことが起こると思います。その書店へ書籍を配分する役割を果たしていた「取次」や、「印刷」・「製本」といった業態にも恐らく明るい未来は無いでしょう。

問題は「出版社」です。ちょっと前にこんな記事がありました。

「こんなの論外だ!」アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る
http://blogos.com/article/23880/

この記事は恐らく、出版社側の言い分だけを聞いて書かれた内容だと思いますが、ボクの見ていた範囲では Amazon に対する批判(つまり記事内容への同調)より出版社に対する批判の方が多かったように思います。この記事に対し、アメリカでエージェントをされている方の書いたエントリーが非常に印象的でした。

読者のためにも著者のためにもならないムダな抵抗はよせ—Resisting Amazon is a death knell for publishers
http://oharakay.com/archives/2861

電子書籍で幸せになるべきは読者と著者なんだよ。そこに生き残っていけるスキームを作れないのなら、出版社はいくらでも不幸になればいい、っていうか会社組織なんだから「幸せ」かどうかなんて関係ないよね。潰れれば良いだけの話。

つまり、このままだと出版社にも幸せな未来は訪れない、今までとは違った新たな役割を果たさなければ生き残れない、ということだと思うのです。出版社の中にもちゃんと、そういう認識を持っている人はいるようです。

つまり、紙の本が発売されたら即座にスキャンされてWebへ流れるのは不可避で、誰にでも無料で見られてしまうという未来が想像できているわけです(※なお、こちらの方はbioに「編集者」と書いてありますが、本当かどうかを確認はしていません)。

「Webでタダで見られる以上の商品力」というのは、紙であれば「装丁」や「付録」、電子版であれば検索性などでしょうか。お金を払ってもらうためにはどんな付加価値を付けなければならないか、という話は、こちらのエントリーが参考になると思います。

「無料より優れたもの」 のレビュー
http://memo7.sblo.jp/article/12121626.html
http://d.hatena.ne.jp/pho/20111203/p1

では「商品性」以外の部分で、出版社にできることは何があるでしょう? Google+で問いかけてみました。みんなけっこう真剣に考えてくれて、長いやり取りになりました。いろんな意見を挙げてもらいましたが、出版社が現時点では担っていない役割として、著者をいかにマネジメントするか? という点がポイントになると思いました。

先ほどのアマゾンの契約書に激怒する出版社員の記事中にもありましたが、欧米で本や雑誌を出版する場合は、出版社は作家から本・雑誌記事の著作権を買い取る契約をするのが通常だそうです。ところが、日本の出版社が持っているのは単行本の出版権だけで、著作権は著者個人に帰属しています。

これは、著者がセルフプロデュース・セルフマネジメントできれば、という条件が付くと思います。自分で何でもできる人なら、消費者と直接やり取りすればいいわけです。介在するプレイヤーが少ないほど、著者と消費者双方にメリットを出すことが可能です。

でも、全ての人がそんなことはできないでしょう。いや、恐らく大半の人はできないんじゃないでしょうか? 先ほどの読者のためにも著者のためにもならないムダな抵抗はよせから引用します。

出版のプロでもない著者に印税率が正当かどうか、本をベースにドラマ化されたり映画化されたり、他に収入の道がないかどうか、ど素人の本人任せにしてきたわけだよ。欧米では著者にはエージェントがいてあたりまえ。出版社に副次権も売って原稿料に上乗せしてもらうか、エージェントに委託するか、色々あるけれど、日本みたいにアフターケアもへったくれもないことはやっていない。

つまり現状は「作者最強」でも、生かしきれていないのであれば、そこへ第三者が介在する余地があるわけです。恐らく今後は日本でも、出版社が著作権を管理するような流れになるのではないかと予測します。もちろん、赤松健さんのようにご自分でいろいろやれる人は、その方がいいと思います(Jコミは本気で凄いと思います)。

どうやってお金にするか?(マネタイズ)という点も重要だし、ボクにもいろいろな考えがありますが、そこまで踏み込むとエントリーが長くなりすぎてしまうので、このあたりで一旦締めます。

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