【書評】「小松左京—日本・未来・文学、そしてSF」を読んだ

11月24日放送のクローズアップ現代で、小松左京さんの追悼特集をやっていたのですが、これがボクのタイムラインでは非常に評判が悪かった。というのは、ボクは Twitter で多くの漫画家や小説家をフォローしているのだけど、放送中に「その後小松さんの望んだ方向には、SFは育ちませんでした」というナレーションとともに「うる星やつら」や「パトレイバー」などの表紙が映されたから。

クローズアップ現代『想像力が未来を拓(ひら)く』~小松左京からのメッセージ~ 小松左京特集が昨日に続いてやらかした件。

http://togetter.com/li/218540

当事者である作家諸氏の憤りっぷりは、この↑まとめを見て頂ければ判ると思います。とくに「なんでここで正統派SFの『パトレイバー』が例示されるんだ!」という声が目立ったように感じました。

ボクも放送は見ていたのですが、正直言って短い放送時間の中で消化不良気味だったなーという感想を持ちました。なにか、もやもやしたまま次の日書店に行ったら、たまたま目に止まったのがこの本。

小松左京---日本・未来・文学、そしてSF (文藝別冊)

小松左京—日本・未来・文学、そしてSF (文藝別冊)

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河出書房新社 (2011-11-10)

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これは何かのめぐり合わせだろうと思い、迷わず買いました。買っただけで積んでいたのですが、さきほど読み終わったのでレビューにしておきます。

内容的には新しく書きおろしの寄稿文は少なく、対談や再録が中心でした。ただ、ボク自身はそれほど熱心に小松左京さんの書籍や関連するものを追いかけていたわけではないので、「過去に読んだことがある」というような文章は1つもありませんでした。

実は短編・中編が非常に多いとか、ノンフィクションもかなり書いているとか、「日本沈没」や「首都消失」のようなハードSFだけでなく、子ども向けや「女シリーズ」といった変化球まで、かなり幅広いジャンルの作品を生み出していたなど、知らないことが多かったです。まさか漫画まで書いたことがあるとは。


収録されている対談の中では、巽孝之さんによる下記の言葉が非常に印象的でした。

小松左京にとっては、未完成というのは別に悪いことじゃないんです。小松さん自身は哲学とか文学とか宗教とかすべてをパターン化して考えるけれども、自分の編み出したものもまた、自分が確立したひとつのパターンだと思っていて、そこから先を考えるのは、次の世代である君たちがやれ、というような考え方だったんじゃないでしょうか。だから小松左京にとっての「未完成」は次の世代にとっての開かれた可能性だと、いまのわたしは捉えています。

実際、小松左京さんの著作というのは未完成のものが多いらしいのですが、それは後を引き継ぐ世代への置き土産と捉えれば良い、ということを巽さんはおっしゃっているのだと思います。

また、小松左京さんが繰り返し語っている言葉で、「宇宙は文学を書くか?」という問いかけがあるそうです。これに関しては、本書の最後の方に収録されている「人間にとって文学とは何か」という1986年に行われた講演会で小松左京さんが語ったことがヒントになるかもしれません。少し長いですが該当部分を引用します。

ようするに、物語、ストーリー性芸術--文学というものがこの世の中にあるということは、じつはひとつひとつの生物の限定された個体存在が、種社会、あるいは種社会を超えた地球の生命世界、あるいは過去の世界、少し大げさに言いますと、将来、宇宙との間のコミュニケーションさえできるのかもしれない。誰もが宇宙に行けるわけではないけれども、一人の人間を、一人の優れた詩人を宇宙に送り込むことにより、「宇宙とは何か」ということが、われわれの一人の代表を通じて、われわれのものになっていくかもしれない。

これは恐らく、地球を一つの巨大な生命体としてみなす「ガイア理論」をさらに発展させたもの、というようなことを想定していたのではないでしょうか。手塚治虫さんの「火の鳥 未来編」で、宇宙の外へ飛び出して全体を眺めてみたら、それはひとつの生命体だった、というような話が出てきますが、そういう生命体の思考や描く物語というのはいったいどういうものなのでしょうか? それこそ「神の視点」といった、宗教的な解釈になってくるのかもしれませんね。それとも哲学の領域でしょうか。

このように、小松左京さんは「○○にとって××とは何か」といった形で、大きなテーマで考えることがお好きだったようです。筒井康隆さん曰く、作品の創造過程も「まずテーマがどかんと頭に浮かぶ」という、他にあまり例のないタイプだったそうで、「よほど腕力に自信がないとできない」書き方だそうです。

知れば知るほど、あまりにも大きい人間像はまさに「知の巨人」という称号にふさわしく、それでいて人間味あふれるエピソードがなんとも魅力的ですね。でっかいなあ。


※12/16追記

もうひとつ書こうと思ってて忘れていたことがありました。

「小松左京のノンフィクションを語る」という追悼トークの中で、鹿野司さんがこんなことを言ってました。「後から振り返ると、小松さんの洞察は妙にあたっている。そういう面白さがあるんです。

鹿野司さんが紹介している「はみだし生物学」の話が凄い。これは1979年に書かれた本なんですが、その中で、生物は進化とともにDNAの量を飛躍的に増殖させてきたけど、それは突然変異じゃ説明がつかない。小松左京さんは、それは他の生物の遺伝子を自分の中に取り込んできたからという仮説を立てているんです。それが、2003年のヒトゲノムプロジェクト完了によって、実証されてしまったという。

小松左京さんの仮説で有名なのは、「日本沈没」で阪神(※記憶違いでした。修正)首都高速の高架が倒れる描写、ですかね。あんな柱1本じゃ地震がきたら倒れるんじゃないかという想像をしてそういう描写を作中に入れたら、建設業界から「倒れない設計になっている」という抗議が寄せられたとか、でも実際に阪神淡路大震災で倒れてしまった、専門家からは「想定外の揺れだから設計に責任は無い」と言われたとか。

東日本大震災以後、「SFが予知出来なかった未来」なんてことが言われているのをあちこちで見かけるけど、予知していた未来に耳を貸さなかったの間違いじゃないだろうか、なんてことを思いました。

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